MZ
でこぼこのアスファルトのうえをローラー滑らせて、
蛇のようにうねうねと、
Mの背中めざして、
ああ、追いつかないけれどぼくは。
Zは泡ぶくみたいな雲のうえを走って行く。
埋もれるけれど。
Mの右手をとらえると、
「はやくかえろう」って、耳打ちする。
「いいけど、ぼくは」そう言ってMは。
Zの全身にまとわりつく泡ぶくを、
きれいに洗い落として、
空から流れ落ちる。あわあわ。
そらがとうめいに。
透明の刷毛で、Mの足跡たどり。
それをたよりに駆け抜けた先に、
でこぼこに埋もれるたばこ屋。その右手には横断歩道。ひとひと。
ひとびとが、こうさする。
初夏よりほんのすこし高い日差しに、
ぼくのはだはじりじりと。
くちのなかの唾が、
ぬらぬらとすっぱくぼくを。
だってぼくはMを追っかけてるから。
上気した頬と、
なみだも熱い。
ぼくの手にはチケットがにぎられ、ああ、わたそうと。
ZとMは雲をほりおこす。
あわはあつまり、やまとなり、山々。
茂る林の稜線を、
波打つようにたどっていくと、
信号に。
スーパーに。
ぼくはかえるためにめざしているんだ。
おれんじの飛沫が頬に。
Mのかぶりつく、その唇に。
Zが手をのばして。
にこめのおれんじにぼくはかじりつく。
果実の粒をひろいあげて。
くちのなかに広がるんだ。
くちのなかで唾がしゅうごうする。
ローラーが回転する度、ぼくのなつやすみは始まる。
捌けても捌けても透明のそら。
Mは蛇行する。
そらは闇色に落ちると、
溶けたあわはぼくのへやへとながれこむ。
ぼくのしろいTしゃつに。
Zはぼくのしゃつの上を走る。
おれんじをくわえて、くちをすぼめるんだ。
「あしたも走ろう」「そらはしろく」
くちぐちにささやくと。
そうしてぼくは目をつむる。