旅行準備
今は雫と買い物に来ている。
なんの買い物かって?そんなのひとつしかないだろ。
「なんで旅行準備で武器屋に来なきゃいけないんだ」
「行く道中でかなりゾンビの数が多くなるらしいからね。そのために来ているんだよ」
それにしても前に入った武器屋より少し奥に来ただけでかなり金額が変わってくるな。
「この武器を変えた所で意味あんのか?値段が高い理由がいまいちよく分からんし」
「星奏の話によると奥の方の武器屋はゾンビの再生能力を少し弱らせる効果があるらしいよ」
「つまり切ってすぐに再生してたのが再生しなくなるのか」
「多分」
強いな。腕とかを切って戦闘不能にさせる事ができるじゃないか。
首を切る必要がほぼ無くなるなんてただの神アイテム。
「ん?この値札の下に書いてる0.2秒ってのは?」
「え?そこまではちょっと…」
「お客さん、それはゾンビが再生するまでの時間でっせ。0.2秒も遅らせるのはかなり苦労しましたね。どうですお客さん?今なら少しばかりお安くしますよ?」
たった0.2秒かよ。
「ちなみに僕のこの最高傑作はなんと1秒も再生を遅らせることが出来るのです。こちらは少し短めの剣ですのでそこのお嬢さんにピッタリかと」
雫がどういう意味だと言わんばかりの顔をしている。
それに気づいたのか店長と思わしき人物も少し後退る。
「値段はーっと…少し考えさせてください」
(雫、あの値段はちょっと…)
(もう少し安い店に行こっか)
俺達はお腹を上手くこの場から逃げるためお腹を痛めたフリをして店から出る。
「500万は流石ちょっと…」
「貴族って絶対武器屋からかなりのお金巻き上げてるなこりゃ」
貴族の謎の財源の理由が分かって長い間胸の奥でつっかえていた物が取れたようだ。
「この店とかいいんじゃない?」
「とりあえずそこで」
俺と雫はさっき入った店のすぐ隣にあった店に入る。
「…いらっしゃい」
「あっあの時のおじさんじゃん。久しぶり」
「あっ本当だ」
前に俺の刀を買った店の店長がここにいた。
「…あぁあなた達は覚えてますよ。…あなたが買ってくれたお金でやっと僕も能力持ちの鍛冶師になれた」
「それは何より」
そんな事を話しながら武器屋を見て回る。
やはり少し高くなっているがどれも100万以内で収まっている。
「…お客さんの刀をそれらと同等の物にできますよ。…少し時間はかかりますが僕が作ったものなので」
「本当ですか?これ、気に入ってたから良かった」
「長年を共にした相棒だったからな」
「そんな時間は経ってないでしょ」
それもそうだがそこを気にしてしまったらロマンの欠けらも無い。
「星奏のやつも取ってくる」
「俺のもお願い。大体、おいくら程でしょうか?」
「…大体4刀でしたっけ?でしたら50万円程で承りますよ。大体の再生能力低下は0.15秒以上ですね」
そこは別に重要じゃない気がする。
たった0.15秒だろ?
かなり鍛えられた剣士なら話は別だが。
「じゃあお願いします」
「できるのは明後日だってさ」
「…期限は1週間ぐらいなんだけど?」
「まぁ何とかなるよ」
俺達は晩御飯を頬張りながら話し合う。
「それでその他の準備は出来たのか?うまうま」
「…雫、できたか?うまうま」
「…竜、できたよね?うまうま」
「まじかお前ら。うまうま」
すっかり忘れてた。
「じゃあ明日は星奏も着いてこいよ。どうせ暇だろ?うまうま」
「暇なのは暇だがそんな言い方しなくてもいいだろ。うまうま」
「竜はデリカシーがないね。うまうま」
「「「うまうまうまうまうまうまうまうまうまうま」」」
旅行の準備って何を買えばいいんだろう?うまうま。
「ご馳走様」
「全く私がいないと何もできないんだから。うまうま。ご馳走様」
「星奏、それは私が言いたいセリフランキング1位なんだから。うまうま。あんまり言わないで。うまうま。ご馳走様」
俺達は食べ終わった皿を流し台に持って行く。星奏が流し台の前に立ちお皿を洗い始める。
「ていうかそれだけで50万使ったってまじかよ」
「星奏の剣がもう1本少なかったらもうちょっと安くなるんだがな」
「何も言わないでおこう」
逃げるな卑怯者!口論しろ!
「旅行と言えばこのドラゴンのキーホルダーだよなぁ」
「…それ旅先で買うもんだろ」
もちろん分かってて言ったんだよ。
正論がいつも正しいと思うな。
「まずは水、次に明かり、ある程度保存がきく食材、寝具」
「無人島に行くわけじゃないんだよ?そんなザ・キャンプな物を買わなくてもいいでしょ」
「はぁ、これだから。アマチュアは黙っとけ」
「そんな事言ってたら新参者が入りずらくなるだろ。新参者にはある程度優しくしろ」
「竜にここまで言われるなんて屈辱だ」
酷くね?
「まずは星奏が言った物を買ってっと。後は何を買う?」
「せやな、まずはたこ焼き器、鉄板プレートも準備しな。本場である大阪のお好み焼きを作るからさ」
「広島の人が怒鳴ってくると思うぞそのセリフは」
お好み焼きは大阪発信だ!
そこまでこだわりがあるという訳じゃないからどうでもいいけど。
「まぁマシュマロでも買っておこうか」
「そんな物があるとは思えんがな」
「ないなら作ればいいじゃない」
「確か材料にバニラエッセンスがいるはずだったよな?あるのか?」
「なんで普段料理をしない竜が知ってるんだよ」
「俺は博識なんだ。なんでも知ってるぞ。例えば雫のパンツの色とか」
「そりゃ洗濯物を干す時に見てるからでしょ」
そういうのを恥ずかしげもなく言えるから男子達に女子として見れねぇわとか言われたんじゃないのか。
「はぁ、こうゆう公衆の場でそういう話をするなよ。えっと残りの予算は、40万か意外と残ったな」
「夏用の寝袋は安い方だろ」
「キャンプ系の漫画は冬用だったから高いのか。ていうかなんで寝袋の値段だと分かったんだよ」
「お前が最近キャンプ系の漫画読んでたの知ってたからに決まってるだろ。一緒に暮らしてるんだぞ?」
「確かに」
全く、それぐらい分かれよ。
「後は、カップラーメンに、カップラーメンに、カップラーメンにカップラーメン!」
「不健康生活まっしぐらだな。手作りしてくれよ」
「高く付くよ。今回は私の出番が多いからね。獅車の運転に、料理に、ゾンビ達との戦い。いっぱいやる事があるんだよ」
「ゾンビ達との戦いは俺達もやるけど確かに結構雫がやる事が多いな」
「じゃあ料理は竜がするって言うことにすればいいんじゃないか?前に冷蔵庫の中身を見た時があっただろ?お前普段水道水しか飲まないから不思議に思ってたんだが竜がご飯を作ろうとしたって仮定をたてたら上手いこと辻褄があってな。そこから竜が料理ができると結論を出した訳さ」
ふっ当っている。俺は昔、調理実習でこっそりレシピ本を見ながら作った料理で女の子を泣かせた事がある…事がある…事が…
「やっべぇ、それ妄想した時のやつだ」
「どんな妄想だよ。絶対ロクでもない妄想でしょ」
調理実習でこっそりレシピ本を見ながら作った料理で女の子を泣かす妄想ってどんな妄想だよ。昔の俺尖りすぎだろ。
「はぁ、この手を使うか」
俺はすぐさま雫に向かって土下座をし。
「この通りです雫様、私奴等にどうか料理を作ってくださいませ」
「ちょっと待て、竜!ここは公衆の面前だぞ!」
「そこまでやるならしょうがない。やってあげようじゃない」
「せめて人がいないところでやれ!」
これぐらいしないと雫は動いてくれない!と思った。
まぁ全力で頼めばやってくれると思うけどね。




