ズルの使い方
僕は魔法を使い雫さんの援護をしようとするが戦闘の速さが目で必死に追ってやっとのレベルで援護なんてする余地がない。
「ほら、どうした。ペットになるためにその姿になった訳ではないのだろう?」
「当たり前でしょ。お前をぶっ殺すダメだよ」
雫さんは段々と防戦一方になっていった。
竜さんも、隙間隙間に魔法を打つので精一杯みたいだった。
どうしよう……ここで僕ができること。
僕ができること。
(自分が何をしたいのか、何を見たいのか。これらだけは絶対に見誤るな)
僕が今したいこと……それはあいつを倒すことだ。
「後は気持ち守る程度」
「?」
竜さんがハテナを浮かべているが僕は真っ直ぐ常吉を見る。
使ったら人としてやばいと思っていたから使わなかった。
いや、使えなかった。
使う勇気を持てなかった。
でも、勇気を持てないからって理由で目標を成し遂げれないなんてクソだ。
それはただの言い訳で、自分に甘えてるだけだ。
自分がもし、ここで活躍できるとしたらこれしかない。
能力発動、人の感情を高ぶらせる能力。
僕が能力を発動すると常吉の顔が赤くなる。
「更にパンチが重く!?」
やらかした。
高ぶらせて集中力を削ろうと思ったのに。
常吉は険しそうな顔をし後ろに下がる。
そして、縄を手から出す。
「操縄、暴れ龍」
常吉がそう言うと縄が龍の形をしてビルに噛み付きビルをポキッと折る。
「僕の家が!」
「どんまい」
ビルをポキッと折るとビルだった残骸を噛みながら僕達に近づいてくる。
「まずいまずいまずい」
雫さんに手を掴まれものすごいスピードで竜さんがいるところまで下がる。
「竜、どうする?」
「全力で逃げる」
「サイコキネシス」
星奏さんは僕達を浮かせ空高く舞い上がる。
常吉は空に飛んでる僕達に向けて手をかざす。
すると、龍が僕達の方に方向転換し飛んでくる。
「あれ、本当に縄なんですか?」
「きっと特注性なんだよ。そう言っときゃ説明つく」
「そんな軽いもんなんですかね」
星奏さんは龍の突撃攻撃を避けるように僕達を動かすが、いつまでも龍が落ちる気配がない。
「龍がめんどくさいね」
「突っ込まんぞ」
「竜がめんどい」
名前同じだからいじられてる。
「これ、縄切ったらいいんじゃないですかね? そうすればある程度は」
「そうだな、このままじゃ追い詰められるだけだ。行動しよう」
星奏さんはふぅーと深い呼吸をすると僕達を様々な所に移動させる。
「私が切る所まで飛ばすから切ってくれ」
「分かりました」
僕達は色々な場所に飛ばされる。
龍の首部分や、口部分、色んな場所に各々が行く。
僕はビルの残骸の上にある口部分に行く。
すると、いつ間にか常吉がいた。
「この高ぶりはお前のせいか?」
いま、僕の体の操作は星奏さんがやってる。
自身の身動きはできない。
「さぁ、どうですかね?」
「まぁ、いい。殺す」
常吉の思考が単純化してる。
これはチャンスだ。
《星奏さん、僕のサイコキネシスを切ってください》
《いや、お前はすぐに地面に降りさせるから――》
《他の人のところに常吉が行かないように僕が食止めます。だから、早く》
僕が必死に頼むとサイコキネシスが切れ龍が噛んでる建物の残骸に乗る。
「鉄拳」
「衝撃」
自身に衝撃を当て常吉が突き出した拳を避ける。
「アトムファイア」
僕は火の玉を作り出して常吉に投げ飛ばす。
常吉は手で弾き片手が使えない瞬間に近づき件を振り下ろす。
常吉は振り下ろした剣を掴む。
僕は剣を離し拳を構える。
「撃拳」
僕は拳を突き出すと思わせて体重をかけた蹴りを入れ常吉を倒す。
そのまま力強く蹴ろうとすると常吉は縄を手からだす。
「操縄、捕縛」
僕の周りに縄が巻き付き身動きが取れなくなる。
常吉はすぐに立ち上がり拳を握りしめ殴りかかる。
「鉄拳!」
このままじゃ直で受けてしまう。
避ける方法、避ける方法……あ、そうだ。
「衝撃」
僕は自分が立っている真下に衝撃波を当てコンクリートの壁を粉々にし落ちる。
部屋の中だけど、建物が横になってるから下までの高さ結構あるな。
常吉は殴りかかった時に体重を乗せていたのか不安定になり僕につられ落ちる。
常吉は僕を巻き付けてた縄を手放し穴に向かって縄を投げる。
僕は縄を素早く解く。
「衝撃」
僕は視界の端に見えたコピー機を衝撃波で飛ばし常吉にぶつける。
常吉は予想外だったのか縄を手放し落っこてくる。
「衝撃」
僕がそう言うと常吉は周りを見渡す。
僕は自分自身に向けて飛ばした机に乗り常吉の所に向かう。
「そう来るか」
「撃拳」
僕は拳を衝撃波に乗せ勢いよく突き出す。
常吉は僕の蹴りを警戒してたからか上手く防げずに殴り飛ばされ壁にぶつかる。
僕はこの隙に上に戻り縄を切る。
《これで全部切れたはずだ》
星奏さんがそう言うと縄で出来た龍は地面へと落ちていく。
「まだだ」
常吉はそう言ってコンクリートの壁を突き破って上に這い出てくる。
「兎脚」
常吉は圧倒的な速度で僕の所にやってくる。
僕はコンクリートの壁の至る所に穴を開け落ちるように仕向ける。
が、常吉は落ちずに僕の所にまで来る。
「鉄拳」
いつの間にか背後にまわられてることに声を聞くまで気づかなかった。
「テレポート」
竜さんの声が響くと雲より高い場所に僕達がいる。
「え? なにこれ」
「ん?」
常吉も混乱していた。
僕は星奏さんに浮かばされ常吉の拳を回避する。
「いま、戸惑ったな。アトムライトニング」
利用さんは電気魔法を常吉に当て常吉は痺れて動けなさそうだ。
「ジャストアタック」
痺れて動けない常吉に雫さんは強烈な一撃を叩き込む。
常吉は吹き飛び建物の残骸から落ちていく。
こんな高さから落ちたらひとたまりもないな。
僕が大丈夫かなと心配してるとさっきいた場所に戻ってくる。
「あれ、さっきまで天空にいたはず」
「あれは俺の幻惑だ。光とか音とか風とかなんか諸々組み合わせて作ってんだ」
なるほど、竜さんすげぇ。
常吉は地面に落ちると建物の残骸も常吉と同じところに落ちる。
「今のうちにやっちゃお」
「そうだな。まだあいつは動いていない。手短に済ませるぞ」
僕達は慎重に進む。
「それにしても、太陽お手柄だな」
「有輝でも苦戦してたからな。まぁ、魔力を吸い取られていたからって言う理由もあるが」
「そうなんですね。有輝さんでも苦戦してた相手を僕が……」
僕、強くなったんだな。
耶楼さん、僕をここまで来たのはあなたのおかげです。
あの時、僕達を生かしてくれて、僕に能力をくれて、僕を仲間にしてくれて、本当にありがとうございます。
この恩は出世払いで返させていただきます。
僕がしみじみとしていると星奏さんと雫さんが険しい顔をする。
すると、常吉が建物の壁を壊しながら出てくる。
「お前達はこの戦争を終わらせようとしてる」
急にどうしたんだ?
なんで戦争の話が。
「それは許さない。断じてだ」
は? なんでお前がそれを言うんだ。
なんの権利があると言うんだ。
「平和を望むならなおさら見過ごせ。絶対だ」