優先したいもの
僕は竜さんとトランプをして遊ぶ。
「また、僕の負けです。どうしてそんなに勝てるんですか?」
「ふ、企業秘密」
企業秘密ということは何かしらの必勝法があるということか。
「ただ能力使ってズルしてるだけでしょ」
風呂上がりの雫さんと星奏がやってくる。
「次どっち入る?」
「僕の負けたんで竜さんどうぞ」
「イカサマで勝って楽しいか」
「見破られてないから別にいいだろ。じゃ、お先」
竜さんはそう言って風呂場へ行く。
能力使ってのズルなんてよくそんなの思いつくな。
僕は思いついてもできない。
「ババ抜きか。せっかくだし、やるか」
「まだまだ夜はこれからだしね」
星奏さんはササッと混ぜすぐに配る。
そして、星奏さんは手持ちのカードを全て捨てる。
カードを見ると全て2枚ずつ数字が揃ってた。
「はい、私の勝ち」
「え……」
「太陽、これが本物のズルだよ」
え、まってどうやったの?
カードをシャッフルした。
してるところもちゃんと見てた。
「流石に面白くないからやりなおそうか。今度は普通に」
「え、どうやって? え?」
僕はまだ思考が追いついてなかった。
カードをシャッフルしてるときに好きなカードを好きな位置に置くなんて人間じゃない。
星奏さんは人間ではなかった?
「ちょっと、混乱してきたんでベランダで頭冷やします」
「星奏、弱い者イジメしてる」
「竜のつまらないズルを見てイライラしてたから仕方ないだろ」
僕はベランダに出て外を見下ろす。
暗くてよく見えないがゾンビがまぁまぁ動き回ってる。
家の中に入れてよかった。
僕は近くにあった椅子に座り空を見上げる。
周りが暗いからかよく空が見える。
戦争……かぁ。
父さんならどうするかな。
ていうか、父さんの今回の政策である貴族制はわざわざ大企業の社長に貴族をやらせなくても出来たはずだ。
都知事でもいいはず。
なんで、会社の社長なんだ。
まぁ、その答えはもう知る由もない。
僕が足をブラブラさせながら考えていると近くに置いてあったサボテンが植えてある植木鉢に当たり植木鉢が倒れる。
このサボテンは確か、父さんがこのサボテンと俺は運命共同体だー!って数年前に言ってたやつだ。
僕は直そうとすると植木鉢の裏に1個の手帳があるのに気づく。
僕は手帳を取り植木鉢を元に戻した。
植木鉢に植えてあったサボテンはまだ根強く生きていた。
なんだろう、これは。
僕は部屋に戻り明るい中で手帳を開く。
「太陽、どうしたんだそれ?」
風呂上がりの竜さんが話しかけてくる。
「分かんないですけどなんかあって。ちょっと中身見て見ますね」
「星奏、なんで目隠ししてるのに勝てるの?」
「能力って便利だな」
「そんな事に頭を消耗させるなよ。その能力使ってぶっ倒れたの忘れたのか」
「訓練したおかげで少しぐらいな使ってられるからな」
「それでもバンバン使うやつじゃないと思うけどね」
僕は手帳を開けるタイミングを見失ってると竜さんが手帳をソッと開ける。
この字は……父さんかな?
太陽、もしお父さんが死んでたらこの手帳の続きを読みなさい。
死んでなかったらソッと戻して誰にも言わないこと。
「遺言って感じだな」
「私達は離れとこうか」
「太陽パパが太陽に伝えたいことだしな。私達は邪魔者だ」
皆さんはソッと離れてまたトランプをする。
雫さんがズルした!と言うが星奏さんは堂々としてカードをシャッフルする。
僕はこの人達の切り替えの早さに驚きながら手帳に目線を戻す。
(太陽、元気か?このページ読んだって事は父ちゃんもう死んだみたいだな)
父さん、自分が死ぬかもしれないことを考えてこれを書いたんだよね?
結構明るいな。
(植木鉢なんて分かりにくい場所に隠して悪かったな。いい感じの隠し場所がなかったんだ)
これ、たまたま見つけたからいいけど一生見つからない可能性もあったんだよね?
見つけれて本当に良かった。
(俺はいい政治家だからな。いつ、どこで命が狙われてるか分かったもんじゃない。だからといって普通に遺書を書いたら国家機密を書いてるかもしれないと思われてお前達に手に渡るのが長くなるかもしれないんだ。だから、こんな形になった)
自分でいい政治家って言う普通?
ほんと、父さんらしいや。
(まぁ、余談はこれくらいでいいな。こんな形でお前に遺書を書いたのには理由がある)
想像の中の父さんがコホンと咳き払いをする。
(1つ、将来の夢が政治家のお前へのアドバイス。2つ、親としてお前に教えておかねばいけないこと。そして、最後……はその時のお楽しみだ)
真剣な空気になっても父さんの明るい性格は健在のようだ。
(まずは1つ目だ。お前は政治家になりたいと年長から言ってたな。そんなお前にアドバイス……というより経験談だな。俺は裏金とか賄賂をめちゃくちゃにしまくった)
いきなりぶっ込んできたな。
ていうか、え? そんなことしてたの?
(そうしないと他のヤツらに勝てなかったからだ。意地でも勝つ必要があってやった。そこから分かったことだがズルはしてもいいということだ)
いやダメでしょ。
(もちろん、スポーツやゲーム、人を陥れるためのズルはダメだぞ。流石の父さんもスポーツぐらいでしかしたことないからな)
いや、してるじゃん。
(誰かのためを思ったズルはしてもいいんだ。実際、俺は当選して国をいい方向に変えたいと思ってズルで当選した。俺はこれっぽっちも悪い事だと思ってないぞ。他の政治家なんかに国は任せられないからな)
他の人もズルをしてるということを考えれば意地でも当選するためにこっちもズルをしないといけない。
でも、だからといってズルを許していい理由にはならない。
(ズルをしなきゃ勝てないからズルをする。仕方がないと思いやすいと思うがこれはただのクソ野郎だ。で、俺はクソ野郎だ。でも、それでも良かったんだ)
何がいいんだ。
ズルをした事実は変わらない。
父さんの事は尊敬してたのに。
(まぁ次、2つ目だ。親としてお前に言いたいことは……もっと俺を父親にしてくれよ)
……は?
(お前、俺の事父さん父さんって言ってきたのはいいけど俺を見る目が憧れのヒーローを見る目だったぞ。俺が親ということを考えればそれはそれでいいんだけど父親というよりなんか凄い人っていう扱いだったからな、お前)
まぁ、確かに。
僕は父さんのことを父親というよりはスーパーヒーローみたいな感じで見てた節はある。
そうか、ゾンビに襲われた時に父さんが助けたのって僕が国をいい方向に持ってけれるからじゃなくて僕が父さんの子供だったからか。
(悲しかったぞ、俺は。参観日にも呼んでくれなかったし)
それは色々問題あるかなって思ったからだよ。
自分の立場考えろ。
(そして、最後だ。これは俺の人生を通してきて思ったことだ)
父さんの人生を通して思ったこと?
一体なんだろう。
僕は固唾を呑んで次のページを開く。
(物事に優先順位をつけた方がいいという事だ)
……普通のことでは?
(普通だと思うだろ。でもな、これが出来てないやつは結構いるぞ。勉強しなきゃいけないのについ、友達と遊んじゃうってこれ俺だ)
父さんもそうだったんだ。
(絶対にこれだけは成し遂げるって一つ決めて後はそれに向かって突っ走る。これが俺が生きてきて大事だと思ったことだ)
もしかして、父さんがさっき(でも、これでいいんだ)って言ったのって政治家になることを一番にしてたからなのかな?
(優先順位を決めて一番が最優先、他は気持ち守る程度。これぐらいで丁度いい。自分が何をしたいのか、何を見たいのか。これらだけは絶対に見誤るな。いいか? 自分かどう思うかではない、自分が何をしたいかだ)
僕が何をしたいのか、か。
僕が政治家になりたいのってこの国をいい方向に持って行きたいから。
そのための手段は道徳や法律に遵守して成し遂げる。
そんなつもりだった。
それが当たり前だと思ってたから。
でも、そうでなくてもいいんだ。
いや、そうであった方がいいんだけどさ。
(はい、以上。いやぁ、書いてるだけでも結構恥ずかしいなこれ。顔真っ赤だ)
色んなぶっちゃけた話書いて、僕以外が読んだらやばかったでしょ。
(まぁ、死人に口なしだからな。恥ずかしいけど言いたいことは遺書に書くに限る)
死人に口なしってそう言う意味じゃないんだけどな。
ほんと、僕が見ていた父さんのまんまだ。
(太陽、これから先めちゃくちゃ大変なことが山ほどあるかもしれない。けどな、きっとなんとかなる。諦めたら何もかもがおしまいになるからな。それじゃあ。死人は眠るとするわ。これをどうするかはお前次第だぞ。燃やすもよし、お守りにするもよしだ。俺はあの世でも一生お前の味方だ)
finとかっこよく書かれて文はそこで終わる。
父さん、僕頑張ってみるよ。
まずは戦争を終わらせる。