追放生活
僕達は町の外をさまよう。
「まさか、町に戻れなくなるとはね」
雫さんはため息混じりに笑う。
ゾンビ倒してきた帰りだったから武器はある。
ゾンビが襲ってきても倒せるし大丈夫だろう。
問題はご飯だ。
僕がグゥーとお腹の音を鳴らすと雫さんと竜さんは少し笑う。
「こんな状況でもお腹はすくよね」
「そこら辺の家物色するか。カップ麺ぐらいならあるかもしれない」
「それって実質空き巣じゃないですか。それなら、僕の家に非常食あると思うんでそこまで行きましょう」
全く、なんで空き巣なんて方法を真っ先に思いつくんだ。
空き巣したことある人しか思いつかないでしょ。
僕達はとりあえず、僕の家を目指すこととなり足を進める。
星奏さん、さっきから静かだな。
いやまぁ、実の親があんな人だったらそうもなるか。
「これから、どうします? ずっと逃げ続けれますかね?」
「出ていった時に必ず捕まえるみたいなこと言ってたしね。もしかしたらもう捜索が始まってるかも」
「名古屋に行くのはどうだ? あそこならこっちと戦争状態だし逃げる場所としては最適だろ」
名古屋か。
確か、そこの貴族が持ってる能力因子が原因で起きた戦争だからそこに行って手放すように言えば……いや、説得だけで手放す人なら戦争になったらすぐ手放すか。
どうやったら、この戦争終わらせれるんだ。
騎士達は徒歩だから実際に殺し合うのは1日、もしくは2日後といったところ。
「竜、大物親組の2人が黙っちゃったよ」
「太陽は考え事してんだろ。星奏は……しゃーない」
というか、この戦争が終わった場合、能力因子の行方はどうなるんだ?
貴族全員で保管? もしくは東日本で保管?
前者なら能力因子の危険度的にも全貴族賛成といいそう。後者なら戦争状態になっても仕方がない。
自分達だけで力を持とうとしてるのだから。
いや、仕方がないなんて事はないんだけどね。
それでも戦争をしていい理由にはならないし。
さっきの口論で負けた理由は武力での解決しかないからだ。
つまり、武力以外での解決策があればいいと言える。
「ていうか、個人で軍を保有すんなよ。父さんはもっとこの貴族制に慎重になるべきだったんだ。これじゃ貴族に権利がありすぎる。三権分立ぐらいしろ」
父さんがこんな政治をするなんて。
尊敬してたのに。
「確か、日本にゾンビが来たのってゾンビが世界中に広がったちょっと後だろ? そんな時間なかったんじゃねぇの?」
「だとしてもですよ。そもそもの話、大企業の社長に町を統治させるのがよくなかったんですよ」
「難しい話はよく分かんないね」
「まぁ、それでも町としての機能は果たしていたしいいんじゃね? 貴族の人は独占企業権っていうものがあるから頑張ってるみたいだし」
「独占企業権ってなに?」
「字面から伝わるヤバいやつ」
雫さんはポカーンとした顔をする。
独占企業権? なんだそれは。
「独占企業って商品を独り占めしてる会社のことですよね? 法律で禁止されてる」
「多分そうだろうな。流石に法律で禁止されてるからか1番いい町を作った人にって感じでおひとり様限定らしいけど」
「なんでそんなに知ってるの?」
「星奏から聞いた」
だとした場合、その権利を手に入れたいから貴族は戦争に入ったのか。
でも、これ使えそうで使えないな。
これを貴族に言った所で知ってる僕達を消せばいい話。
かといって、町の人達にこの事実を言えば混乱を招く。
使えないな。
「あ、僕の家ここです」
僕が考え事をしていると僕の家だったマンションの前にやってくる。
「ここの18階の1809室です」
「うわー、やっぱ内閣って年収高いんだろうねってマンションの外見から分かるよ。ちょっと汚いけど」
「私の家はここまで金持ち感なかったな」
急に星奏さんが静かに落ち着いたような声で喋り僕達は少し驚く。
「そんな顔するな。私があれで病んだとでも思ったのか?」
「うん」
「はい」
僕と雫さんはすぐに頷く。
だって、実の親のあんな場面に会ってこうならない方がおかしいというか。
「もう、受け入れた。今までのお父さんは全部お父さんの演技をしてただけの人だったんだ。そう思ったら一気に親とは思えなくなってきてな。クヨクヨしててもしょうがないだろ」
「流石だね」
「まぁな」
雫さんと星奏さんは顔と顔を見合せ少し笑い合う。
竜さんは星奏さんの顔は見ず、ずっとマンションを見ていた。
「さっさと入ろうぜ。お腹空いた」
「レンジでチンするタイプでもいいのでお米が欲しいです」
お米がないと頭が上手く動かない気がします。
僕達は無事カップ麺を見つけ出しズルズルと食べる。
「おいしー」
「身に染みるな」
「空腹がスパイスとはよく言ったものですね」
「うまうま」
空腹を満たせたら心にも余裕が出来た気がする。
もう外は暗くなって来る。
竜さんが能力で部屋全体を照らす。
「とりあえずはここに泊まりましょうか」
僕はそう言って人数分の布団を出す。
竜さんも手伝ってくれている。
「そうだな。一応夜中にゾンビが来てもいいように監視役が欲しいな」
「それなら私の眷属達にやらせるよ。ゾンビが来たら念話で叩き起してもらうから」
「じゃあそうしよう」
僕の家でお泊まりか。
なんか友達みたいでいいな。
師弟関係が終わったら友人関係になるのもいいかもしれない。
ていうか、ほぼ友達みたいな感じだし自然とそうなるか。
「魔法で体を流すぐらいはしておくか」
「それなら服も洗いたい。太陽、いらない服はないの?」
「竜さんは父さんのを使えばいいですけどおふたりに合うサイズは……雫さんは僕が昔使ってた服ならあるって感じですね」
雫さんは目を瞑り手を動かしていると急に口を開く。
「それだったら、裁縫セットある? いらない服とかもあれば欲しいんだけど」
裁縫セットなら僕が小学生の時使ってたのがあるな。
いらない服……お母さんのは形見という程でもないしいらないか。
「どちらもあります。こっちへ」
僕はそう言ってお母さんとお父さんの部屋へ案内する。
「エル○スあるよ、すご。あ、こっちにはグ○チも」
「普通にあるだろそんなの」
「このスーツ、手触りいいな」
「それも普通だろ」
「お嬢様は黙ってて」
雫さんが適当に服を探している間に僕は裁縫セットを取り出す。
「これが裁縫セットです」
僕の裁縫セットを見て皆さん固まる。
昔の僕のセンスで選んだから少し恥ずかしいんですよね。
ドラゴン裁縫セット。
「男の子だね。まぁ、かっこいいのは分かる」
「俺もドラゴン選んだ。名前竜だし」
「お前らのセンス男子小学生だな」
竜さんもでしたか。
でも、選んでる理由はまだ僕よりマシな気がする。
「これでサイズ調整できる」
そう言って雫さんはサッとご自身と星奏さんの分の服を作る。
「完璧だね」
「え、すご」
「太陽。こいつらはものづくりのプロだ。これぐらいで驚くなよ」
いや、プロでもこんな早業出来ないですよ。
針さばきが早すぎてめちゃくちゃゆっくりに見えましたもん。
……え、やば。
僕がドン引きしてると星奏さんと雫さんが立ち上がる。
「じゃあ、私達先にシャワーね」
「水温の温度調整ミスしないように私も一緒に入る」
そう言っておふたりは風呂場へと行く。
「太陽、なんかボドゲしようぜ」
「そうですね。トランプでも取り出します」
なんか、本当にお泊まり会みたいになってるな。