休息日2
僕達は家に着きドアを開ける。
竜さんはドアを開けてすぐに雫さんと星奏さんに話しかける。
「2人とも、太陽の父親凄い人らしい」
「もしかして、日本内閣か?」
「あ、テレビで聞いたことある。テレビ番組とかにも出てて普通に面白い人だよね」
お2人が父さんの話をする。
へへへ、嬉しい。
やっぱ、僕の父さんは凄い人なんですよ。
「やっぱみんな知ってるもんなんだな」
「そりゃ自国のトップみたいな人は知っとかないと怖いだろ」
確かにそうだ。
知名度も大事か。
「それはそうと、2人は何しに行ってたの?」
「墓石を見に行ってました」
「墓石か、いいね……え、墓石?」
「竜は責任の取り方ワイルドだな。死んで償うとは」
「俺が発案じたんじゃねぇよ。太陽の発案だわ」
「太陽、悩みがあるなら聞くぞ」
「俺と反応違いすぎだろ」
竜さんが軽くため息を吐きながら本棚から本を探している。
暇だし魔法とか能力の使用例でも考えようかな。
「そういえば、この前食堂に行った時に思ったのだが冒険者減ったな」
「確かに、見るからに減ってたね」
「ですね」
初日は冒険者の人達で溢れてたのに、この前は全然いなかった。
「多分ですけど、騎士になるための必要冒険者ランクが下がったからじゃないですか? 僕の前にご一緒だった仲間の人達もそれで騎士になりましたし」
あの人達元気にしてるかな。
「なんで、そんなことしたんだろうな」
「聞けばいいんじゃない?」
「そんな気軽に聞けますかね。ここの貴族の人である藤原さんぐらいじゃないと知らないんじゃないです?」
僕が笑いながら言い返すと星奏さんと雫さんは固まる。
え、何かやらかしたかな?
「太陽には言ったってもいいだろ」
竜さんがそう言うと星奏さんは姿勢を改める。
「えぇー、私の名前は藤原誠華。東京と横浜の貴族をしてるお父さんの一人娘だ」
「……え、すご」
「いや、親の凄さはお前と変わらんだろ」
「親デッキ組んだら太陽と星奏の2人は最強格だね」
名前を隠してた理由はなぜなのだろう?
まぁ、気にする程でもないか。
「まぁでも、星奏のお父さんが決めたことでしょ? それならいちいち気にする必要ないでしょ」
「祭りとか開催するような人だしな。多分、騎士を増やしたかったのもいい理由があるんじゃないか?」
今の貴族制ってたしか、父さんが作ったんですよね。
ゾンビが出てきて国が滅んだ時用にって。
でも、この貴族制って貴族1人に権力が集中するから独裁政治になりやすいはず。
そこら辺どうしてるんだろ。
ま、いっか。
話を一区切りつき皆さんは各々のことをする。
僕は床に寝転がる。
久しぶりに寝転がった気がする。
布団で寝る以外で寝転がってなかったからかな。
最近は修行ばっかだからだったから。
気づいてないだけで体が悲鳴をあげそうになってたのかもしれない。
休むことも大事。
はっきり分かるんだね。
僕はウトウトし始め、そのまま眠りにつく。
最近、俺はあの2人の顔をちゃんと見れてない。
別に惚れたからとかそんないかにもな理由ではない。
俺にとってあいつらが理想的すぎるだけなんだ。
教祖との戦いの時に見た、1人だけの部屋で妄想に浸っていたあの光景。
あれがまだ頭から離れない。
もし、この世界が俺の妄想だと言うならあの2人は俺のためだけに存在しているようなものだ。
そう思うだけで自分を気持ち悪いと思う。
理想的な女の子2人に構ってもらう。
そう妄想してるかもしれない。
この世界が俺の妄想かどうかは証明のしようがない。
しようがないからこそ、怖いんだ。
もし、この世界が俺の妄想であの2人は元からいなくて、俺はただ1人部屋の中で本を読み妄想にふけるようなやつだった場合、俺は気が気じゃなくなる。
自我すらも保てないそんな自信さえある。
そうなるぐらいならこれ以上あの2人を目に入れたくない。
これ以上幸せになりたくない。
妄想ならこんな妄想はもうやめてくれよ。
誰かの嘆きがしたと思い起き上がると皆さんゆっくりされていた。
星奏さんは本をじっくり読み、雫さんはマンガをペラペラめくり、竜さんは本をかじりつくように読んでいる。
ただの気のせいか。
それにしても、竜さんすごい本に集中してるな。
本読むの好きなのかな。
後でオススメでも聞こう。
「へへへ、おもしろ。次のやつは……」
雫さんは漫画を読み終わったのか立ち上がり本棚に向かおうとする。
そして、チラッと窓の外を見ると段々と顔を青ざめる。
窓の外は日が沈みかけていて真っ赤な夕日が照らす赤い空と夜の暗闇がせめぎ合っていた。
「……カップラーメンを器に入れて出したらバレないかな」
「バレるだろ」
「……はい、今日は外食だね。私持ちで」
「端数は出してやる」
「一円玉なら2枚あった」
「僕、何も出せないです」
僕のお金は前のでなくなっちゃった。
「太陽はこの前出したからいいよ。2人から貰うから」
「まぁ、毎日毎日作ってたら大変だしな。自分の分ぐらいは出す」
「たまにはな」
「おぉ、2人が優しい。これは明日槍が降るね」
「「やっぱなしで」」
雫さんが涙目になりながら僕達は食堂へと向かう。
僕達は食堂に入り何を頼もうかメニュー表を見る。
周りの人達はぐったりしてるな。
この前来た時もそうだけど前よりも活気がないというか、なんというか。
「あ、このラーメンセット1つ」
「焼き魚定食で」
「俺はチャーハンと餃子で」
どこかで聞いたことがあるような声がし、声がする方を見ると洋介さん、海室さん、伊月さんがいた。
この人達もぐったりしているみたいだ。
「竜さん、もし僕が居ない時に頼むことになったら僕の国旗うどんもついでに頼んでいてくれませんか?」
「え、なにそれ。まぁいいけど」
僕は立ち上がり洋介さん達の方へ向かう。
洋介さんの足がもう治ってるみたいで良かった。
ちょっとだけ話したいことあるし話そ。
「久しぶりです、皆さん」
「あぁ、太陽か。久しぶり」
「太陽君、久しぶり。元気してた?」
「久しぶり」
皆さん、元気がなさそうに見える。
何かあったのかな?
「お前が元気そうでよかった。今は別の人達と組んでるのか?」
「組んでいると言うより師弟関係にあるって感じです」
「なにその面白そうな話。あの人達誰なの?」
「竜さん、星奏さん、雫さんです」
「めちゃ大物だ。すげぇ」
はははと笑っているが覇気がない。
「あれ、浩史さんはどこですか?」
「え? あぁ、あいつは……もう部屋に戻ったわ」
「え、でもさっきメニューを頼んだばかりじゃ」
「あいつ、食堂はなんか落ち着かんって言っててさ、なぁ?」
「あ、あぁそうだ。あいつ、繊細だから」
陽介さん達は口裏を合わせるように話す。
そこまで繊細じゃなかったような……
ていうか、あからさまに動揺してるし
浩史さんの話から話題を逸らされると洋介さんは改まった顔で口を開く。
「太陽は騎士になるなよ。お前の師匠さん達にも言っとけ。まぁ、あの人達はなる気なさそうだけど」
洋介さんは静かに、だけど感情を込めて言う。
「え? どうして――」
「お待たせしましたー、ラーメンセットと焼き魚定食とチャーハンと餃子です」
「じゃあな、太陽。達者で」
洋介さんがそう言うと他2人も僕から目を離し、食べ始める。
もう少し話したかったな。
僕は寂しさを感じつつ竜さん達の所へ戻る。
「え、この国旗うどん、めん多すぎて1面真っ白の上に梅干し置いてあるだけなんだ」
「スープに辿り着けるのか、これ?」
「日の丸弁当みたい」
竜さん達は僕の国旗うどんに目を奪われていた。
「太陽、このうどんすごいな」
「これ、安くて量多くて愛国心があっていいんですよね」
「まぁ、確かに愛国心はあるかもな」
「ありすぎる気もするけどね」