修行の日々
僕は剣の素振りを必死にやる。
「体重かけるならもっと思いっきりいけ」
「はい!」
剣の素振りを終えると次は魔法だ。
「土を出してから風魔法で飛ばすと室内でも結構使えるぞ。室内で火は危ないからな」
「はい」
魔法も終えると次は実戦。
ゾンビ一体と戦う。
今回は魔法無しで戦わないといけないため僕は行動に戸惑う。
これは攻撃を受けてから行くべきか? それとも受けずにそのまま直接?
「攻撃手段は剣だけとは言われてないぞ」
そうか、蹴りとかも使っていいのか。
僕は体重を乗せた蹴りをゾンビに入れる。
ゾンビは僕の体重によって倒れそのまま首に剣を刺し終了。
「そういえば結局、能力因子はどうするんだ?」
「太陽の判断に任せてる」
「食べるべきだとは思っているのですが耶楼さんの能力を受け継ぐならもう少し強くなりたくて」
「まぁ、気持ちの問題だし気長に待つとするか」
これは完全に僕のわがままですけど、やるなら気持ちから変えていきたいんです。
僕はゾンビをおぶり運ぶ。
「さっきの蹴りは良かったがあれは下級ゾンビ相手だけにしとけよ」
「それはなぜですか?」
「中級からは知性を持ち始めるからな。フェイントもクソもないあれはかわされて終わりだ。まぁそこまで数少ないしそこまで気にしなくてはいいがな」
数少ないですけど僕、普通に出会っちゃったんですよね。
そして、普通に敗北。
「そういえば、竜さん。火の玉を4つ同時に放出ってどうやるんですか?」
「え、本当にそこまでいったら感覚。イメージできるかどうかの差でしかない」
感覚で理解しないとダメなのが辛すぎるがそこは飲み込まないとだよね。
「じゃあ、あのアトムファイヤっていうのはどの程度の魔力を使ってるんですか?」
「あれは大体100ぐらい」
「あの火力は100じゃ無理ですよ。何を考えてるんですか」
「見方によると竜が詰められてる」
「いや、実際詰められてる」
僕は竜さんに問い詰める。
アトムファイヤの火力は100とは思えないぐらい高かった。
「んー、あれはちょっと化学の勉強がいるしまずは感覚で2属性魔法までは使えるようにしたかったんだけどな」
「んまぁ、やりたい時にやらせればいいんじゃない?」
「太陽、授業するから家帰ったら椅子に座ってくれ」
「はい」
僕は学校の授業をちゃんと聞いてたし座学なら問題はない。
「……それを短時間でやれと?」
「まぁ、そこは慣れだな」
えぇっと、水素が酸化して熱量をどうこうで……
やばい頭おかしくなる。
僕は頭を抑えうずくまる。
「うぅ……でも、魔力効率はちょっとだけよく出来そうです。聞いてよかった」
「そうか。明日ぐらいでお前なら1属性魔法なら使いこなせるようになりそうだし2属性魔法はすぐだぞ」
「おぉ、やったー」
「若者の成長は早いもんだね」
「雫と太陽は年の差はそこまでないだろ」
星奏さんは雫さんにツッコミを入れる。
「そういえば皆さんって何歳なんですか? 20ぐらいですか? 僕は16です」
「星奏、どうしよう。私基本実年齢より低い年齢言われるのに」
「良かったな雫。太陽、私達は全員17だ」
17……僕と1歳しか違わないのにこんな差があるなんて。
凄すぎる。
実戦で得た経験の差なのかな。
僕もこれぐらい強くなれるかな。
ん? ゾンビが出てきたのって1年ちょい前だ。
こんな短い期間で独学だけでここまでいけるものなのか?
「皆さんってどうやって鍛えたんですか? 教えてくれる人もいないですよね?」
「ま、そうだね。強いて言うなら強敵との死闘……かな」
「ドヤ顔するなよ。雫は能力が強いだけだからな」
「え、でも星奏は敵の能力で死のうと――」
「言うな言うな」
星奏さんは必死に雫さんの口を抑える。
「まぁ、死闘に関しては間違ってない。これまで上級ゾンビに何回も出会っては死にかける思いを沢山してきた。多分、強くなれた原因はここにもある。でも、こんなのは経験しなくてもいいことだ。ない方がいいと思っておけ」
「なるほど」
死にかけてもまだゾンビ達に立ち向かおうなんて考えるなんて難しいかもしれない。
それなら経験しない方がいいだろう。
もしかしたら明日に死にかける出来事に会うかもしれない。
それは誰にも予測できない。
対策としてはそれまでに強くなることだけだ。
「竜さん、今から魔法の練習、もう1回出来ますか?」
「え、また?」
「はい、早く強くなりたいんです。まだ魔力は残ってます」
「え、めんどくさ――」
「いってらー」
「頑張れよー」
竜さんは仕方なく立ち上がり僕と一緒に家を出て町の外まで行く。
「水の圧縮はまず水をイメージしてそこから力で小さく小さくするイメージをするんだ」
「分かりました」
力で小さく。
握りつぶすイメージかな。
「出来るなら魔力50ぐらいでこのコンクリを貫け」
「はい!」
ギュッとしてドッカーン。
僕は水を勢いよく放つ。
すると水は勢いよくは出たが広範囲に散らばる。
「……」
「もっと力を込めて小さくするイメージをするんだ。イメージとしては……丸い水の内側に向かって力が働く感じで」
「なるほど」
握りつぶすよりも重力を強くするという捉え方の方がいいな。
今度こそはと思い僕は水を放出する。
するとコンクリートの壁にあたり当たった部分が綺麗になる。
「いいな。使った魔力量は?」
「80ぐらいです」
「圧縮するのに頭を使いすぎだな。火魔法を使うみたいな感じでやってみ」
「分かりました」
竜さんは楽しそうな顔で僕に魔法を教える
そういえば竜さん、あの2人がいない時は妙に落ち着いた顔をしないんだな。
「竜さん、あの2人と何かあったのですか?」
「え?」
「いや、竜さん、あの2人がいないと気楽そうだなぁって」
「あぁ……まぁ、俺にも色々あるんだ。あ、別に2人が俺に何かしたとかはなくてただの俺の問題だからあんまり気にするな」
竜さんは笑って誤魔化す。
笑って誤魔化す時は大抵あんまり聞かれたくないことなのだろう。
聞かれたくないことを無理に聞いて嫌われたくないしやめとこう。
僕が魔法で圧縮した水をコンクリートの壁に放つと見事穴を開けれた。
これに原子レベルのイメージを合わせればもっとよくなりそうだな。
「最後の基礎は小石を手元に出すだな」
「小石を、ですか?」
僕はイメージで自分の手元に小石を出すイメージをする。
すると、ポンと小石が出てくる。
「最後にしては簡単ですね」
「それの使い道は風魔法を使って飛ばす速さを上げて攻撃とかだな。普通に強いぞ」
これは2属性魔法には含まれないんだ。
僕はとりあえず適当に風魔法で小石を飛ばす。
「ま、こんぐらいだ。小石を風で飛ばすの練習はしといた方がいいぞ。おすすめだ」
「分かりました」
僕はそう言って何回も小石を作り風を吹かせては飛ばす。
これは風の吹く範囲が広いな。
これは弱い。
これは小石が脆いな。
飛ばしているうちに段々と感覚を掴んでくる。
僕が練習してるとこを見てる竜さんが口を開く。
「やっぱ2属性はまた今度な」
「えぇー」
「それよりお前には実戦をやってもらう。明日は遠出だ」
竜さんはそう言って僕に近づいてくる。
「今考えたら2属性魔法を使えるようになったのってゾンビと戦い始めてちょっとしてからだし、高度な技術はあっても実戦で使えなきゃ意味ないからな。ゾンビに真っ向から戦いたいんだろ? それなら技術より経験があった方がいい」
まぁ確かに竜さんの言う通りか。
僕は竜さんの言うことに賛成し、明日遠出をすることになった。