師匠のもとで
僕は剣の素振りをする。
「もっと、腰入れろ」
「は、はい」
星奏さんに剣の扱いで特訓を受けているからだ。
星奏さんは剣道をしていたことがあるらしく剣の扱いは少し分かるらしい。
「腕の筋肉ないんだからそんなのじゃ首切れないぞ」
「あれ、竜は切れてるよね?」
「日本刀だからだろ。知らんけど」
僕も日本刀にすれば良かった。
扱いが難しいって聞いて西洋剣にしたけどこれで切るの難しすぎる。
「姿勢は時間をかけてやってけばいいだろう。よし、実戦だ」
「もうですか!?」
「結局は実践で使えなきゃ意味ないからな。ほら、いくぞ」
「いってら」
「私足凍ってるから」
星奏さんは雫さんの足の氷を解くと2人を浮かせて持ち運ぶ。
これも能力なんだろうな。
僕は魔力水を飲みながら道を歩く。
一体だけだからと荷台は持ってきていない。
「いた。距離は2、300メートル。次の交差点を右折してさらに次の曲がり角を左折だ」
竜さんは索敵系の能力を持ってるのかゾンビがどこにいるのかすぐに見つける。
「私はもう疲れたから2人ともよろしくね」
「私よりはマシだろ」
星奏さんは2人を浮かせたまま進み続ける。
「ゾンビ達こっちに持ってきた方がいいか?」
「あぁ、そうだな。一体だけ連れてきてくれ」
「ソニックブロウ」
竜さんはゾンビを衝撃波か何かでふっ飛ばしながら持ってくる。
竜さんの能力って索敵だけじゃないの?
「よし、じゃあ1人で頑張れ」
「分かりました」
僕はさっき教えてもらったことを思い出しながら片手で剣を構える。
魔法を使う時はイメージを膨らませる。
この場所で僕の手元で作られた魔法はゾンビめがけてまっすぐに飛ぶんだ。
飛ばすものは火の玉。
手のひらほどの玉で使う魔力は50ぐらい。
僕は空いているもう片方の手で魔法を作り出しイメージ通りに飛ばす。
ゾンビは僕に向かって襲いかかってきていたが僕の魔法に当たり怯む。
その隙に教えられた姿勢を意識してゾンビの首に剣を切り込む。
ゾンビの首を切るとゾンビは体から頭だけが落ち体が地面に倒れる。
「よし、よくやったな」
「初めてを思い出すねぇ」
雫さんがしみじみしている。
僕は初めて自分の力だけでゾンビを倒せたと嬉しくなった。
「今日はここまでだ」
今日一日でここまでできるようになるのか。
「剣に関しては姿勢と力加減を意識すればゾンビの首ぐらいならはねれるからさっきのを忘れるなよ」
「はい。ありがとうございます。また明日もよろしくお願いします」
僕は深々とお辞儀をする。
「じゃあ帰るか。竜、これからは太陽と一緒に寝てくれ」
「あ、うちの道場、全寮制なんだ」
「え、いやいや悪いですよ。お金ならまだ少しありますし今日も宿で……」
「太陽」
「は、はい」
星奏さんは真面目な顔をして僕の顔を見つめる。
「お前みたいに頭を下げてまで人に頼れるやつっていうのは少ない。お前みたいなやつだからこそ助けたいと思った。それだけだ」
「星奏の場合、一緒に住んで色々教える代わりに家事やってって言いそうだよね」
「……」
「図星かい」
僕はどうしようかと頭を悩ませる。
僕が家事をするのは当たり前なんだからそこは問題ない。
でも、一緒に住むことで色々と迷惑をかけないだろうか。
シェアハウスは問題が沢山だと昨日話してたばかりだ。
うーん……
「1日だけっていうのはどうだ?」
あまり口を開かなかった竜さんが話しかける。
「一緒に住むなんて急に決めれる話じゃない。でも、一日だけなら体験として考える材料になる。後は太陽次第だ」
「一日だけなら」
「よし、それで行こう」
「今日の晩御飯は昨日の残り物だけど大丈夫かな?」
「ご飯までご馳走になるのは……」
「じゃあ、このゾンビがご飯代な。明日も実戦するだろうし。倒したゾンビがご飯代ってことで」
竜さんはそう言って倒したゾンビをおぶる。
汚くないのかな?
「頭は持ちます」
僕はそう言って切り落とした頭を持ち帰路に着く。
朝になり僕は竜さんの部屋の床に敷いた布団から目覚める。
えっと、ご飯は雫さんが作ってくれるらしいから掃除だな。
僕は竜さんの部屋から出る。
「あ、おはよう。早いね」
雫さんが自分の部屋から寝巻き姿で出てくる。
竜さんは男一人で気まずくならないのかな?
「雫さん、おはようございます。ではトイレ掃除からさせてもらいます」
「よろしく。朝ごはん作っとくからトイレ掃除終わったら食べて」
「はい」
僕はトイレ掃除をし朝ごはんを食べ歯磨きや洗顔をし風呂掃除をする。
浴槽だけでなく排水溝の掃除もしっかりとする。
「おはよう」
僕が床掃除をしようとすると竜さんが起きてくる。
「おはようございます」
「おぉ、頑張ってるな。ありがた」
「いえ、今日も魔法のご指導の方よろしくお願いします」
僕はそう言って床掃除を始める。
床掃除を終え本棚のホコリを払い、雫さんに頼まれた食材を買いに行く。
今日カレーだ、やった。
買い物を終え昨日の夜に洗濯した物を取り込む。
雫さんや星奏さんの下着を取るのを恥ずかしがっていると竜さんがドヤ顔で取ってくれる。
「まだまだだな」
「すいません」
「チェリーだから仕方ないさ」
竜さん、雫さんと星奏さんとどう言った関係なんだろう。
もしかして恋人?
いや、重婚の可能性が……って日本は重婚出来ないんですよ。
ていうか、雫さんと星奏さんは下着を見られることに羞恥心がないのでしょうか。
僕はめちゃくちゃあります。
僕は一通りの家事を終えゆっくりと休む。
これなら一緒に住むっていうのもいいかも。
僕がこれからの事を考えていると星奏さんが部屋から出てくる。
「おはよう。おぉ、部屋綺麗だな」
「竜がやるより綺麗だよね」
「うっせ」
星奏さんはご飯を食べながら再度部屋を見回す。
「本棚も綺麗になってるし1家に1台、太陽だな」
「当たり前のことをしただけです」
「食べ終わったら始めるから待っててくれ」
「分かりました」
僕は星奏さんが食べ終わる前に昨日やった事を頭の中で復習する。
魔法はイメージ。
剣は姿勢、これらが大切だ。
そういえば魔法を海室さんが4個の火の玉を同時に操っていたな。
今日はこれも試してみるか。
そういえば竜さんのアトムファイヤっていう魔法の火力凄かったな。
どれだけの魔力を使ってるのか聞いてみるか。
「あ、そういえば昨日、太陽を助けるために倒したゾンビが能力因子落としてたよね? 一応換金しなかったけどあれ太陽にあげた方がいい?」
「あ、耶楼さんのですか?」
「え? なんでそいつの名前が?」
「いや、昨日襲ってきたのは耶楼さんがゾンビ化したやつなんですよ」
「知り合いだから倒すのをためらってしまって、であの状況だったってことだろうな」
星奏さんが僕の死にかけた状況を的確に分析する。
「まぁそうですね」
「じゃあ衝撃波を操る能力ってことか。当たりな部類ではあるか」
耶楼さん、ナンパした人に自分の能力教えてたのか。
そういえば、君は僕を魅了する能力ちゃん?って言ってたらしいからその前に言ったんだろうな。
耶楼さんってやっぱり変な人だったのかも。
いい人であることに違いはないんだろうけどね。