僕は一体
僕は今、ひたすらに目の前のトラウマを消そうとしている。
木吉やあの時のクラスメイト、もっと言うなら僕の好きを否定する世間。
「気持ち悪い」
「男のくせに」
「普通に出来ないの?」
「変なやつ」
うるさい、うるさい、うるさい。
キモイのはお前らだろ。
男のくせに? 男だからなんだって言うんだよ。
普通にできないのかだって? これが僕の普通なんだよ。
変なやつなのはお前らだろ。
なんで、僕の価値観を理解しない。
なんで否定しかしない。
きもい、うざい、うるさい。
僕は消しても消しても消えない過去をただひたすら潰す。
僕がお前らに何をした。
僕はただ楽しんでただけなのに。
女の子の格好をするのが好きだっただけなのに。
「何が面白いのか理解できない」
理解しろ!
「きも」
その一言で僕を否定するな。
なんで、お前らはそんな簡単に人の好きを否定できるんだ。
なんでお前らは人の価値観を理解しようしないんだ。
おかしいだろ。
「あぁ、憎い、この世の全てが憎い」
人間なんてゴミだ。
自分が理解できないものは囲って排除する。
自分達の意にそぐわないことをすればこれも囲って排除する。
弱いから群れて、強くなった気になって弱いやつを否定して殺す。
人間なんて今、そこらに溢れてるゾンビとなんら変わらない。
何も考えず、大多数の価値観を正しいと思い込んで疑いもせず。
少数派を安全圏から叩き、自分達が正しいと悦に浸る。
気持ち悪い。
あぁ、もういいや。
あいつが人を探ししてるからちょっと待ってくれとか言ってたけどもういいだろ。
残った人類全員殺そう。
それでゾンビも全部殺して世界の終わり計画達成だ。
人間がいない世界か。
きっと最高なんだろうなぁ。
本能のみで生きるから差別とか非合理的な事も起こらないんだろうな。
「そうだ、僕だけ生き残るのもありだな。正直あいつの計画ってただの人類滅亡でそれに実行犯の僕達も含まれてるだけだしな。人間殺してゾンビにしてあいつらも全員殺して僕が望む世界を作ろう。ゾンビの間でも差別してるヤツら見つけたらボコボコにして見せ物にすれば差別もなくなる。皆が自由で皆が平等ないい世界だ」
世界の終わり計画ならぬ世界の始まり計画だね。
いいね、いいね。
ここら僕の世界が始まるんだ。
「気持ち悪い」
「はい、アウト!」
僕は木吉を殴り潰す。
「変なやつ」
「男のくせに」
「それもそれもアウト!」
僕はクラスメイトを殴り潰す。
「普通に出来ないの?」
「僕の世界に普通なんて基準はありません。アウト!」
僕は世間の人を殴り潰す。
あぁ、スッキリ。
だけど、思い出すとウザイな。
僕が忘れようと頭を叩いているとお母さんが出てくる。
僕が殺したお母さんじゃん。
いつもいつも男ものの服なんて買ってきやがって。
可愛い服しかいらないっていつも言ってたのに。
「あんたも人の価値観を否定してる。そんなので本当にいいんか?」
これ、殺す前に言ってたな。
「僕が人の価値観を否定してる? 何言ってんの?」
僕は全ての人の価値観を受け入れてる。
どんなものであれね。
「受け入れてもらおうなんて受け身じゃなく、受け入れさせるぐらいの根性出せ」
「そんなの出来ないだろ。あんなクソみたいなやつら」
僕はお母さんを殴り潰す。
これで僕の邪魔をするやつはいないな。
「それでいいんか?」
「それでいいんか?」
「それでいいんか?」
僕の周りに次々とお母さんが湧いてくる。
僕は湧いてくる度にお母さんを殴り潰す。
そこにためらいはない。
「うるさいなぁ。黙ってよ」
「それでいいんか?」
これでいいに決まってるだろ。
ていうか、これしかないんだよ。
凝り固まった人間の脳みそや世間の声を無くすなんて無理なんだ。
だって、実際そうだろ。
LGBTだって、ホモをゲイと呼べと呼びかけたけど悪口がホモからゲイになっただけだ。
どれだけの人が頑張ったって人の固く閉ざされた心には届かないんだ。
何かしらの絶対的な力を使って従わせるしかないんだよ。
これしか方法はないんだよ。
「それでいいんか?」
「これしか……ないんだよ」
僕は疲れ果て座り込む。
お母さんのそれでいいんか? という言葉が脳裏から離れない。
これ以外に道があったらよかった。
恨みで道を踏み外してしまっていたのかもしれない。
でも、もう戻れないんだ。
僕はお母さんを殺した。木吉も、クラスメイトも皆殺した。
知らない人だって殺した。
人に殺しを強要させたりもした。
こんな僕がもう元の道に戻れる訳ないんだ。
それに、あいつらの頑張りもある。
僕があいつらの分も頑張らないと。
だって、せっかく出会えた仲間なんだから。
あいつらも人に否定されたやつらばっかりだ。
普通に生きたかったのに障害のせいで特別扱いされたやつ。
人の輪に入れずに孤独に過ごしてボッチと指をさされたやつ。
自分の夢を否定されたやつ。
自分の生き方を否定されるような出来事に出会ったやつ。
色んなやつらが僕を慕ってくれた、仲間だと思ってくれた。
だから、僕はもう進むしかないんだ。
「それでいいんか?」
そうか、僕が今頑張ってるのって恨みだけじゃないんだ。
天草天郎と士郎、樹田升、坂本水夢、宮井庄司、村野純也、谷和原正雄、芦川楓、源隼。
あいつらが僕の仲間で居てくれたから僕は今頑張ってたんだったな。
僕はお母さんの方を見る。
「あぁ、これでいい」
「あんたも人の価値観を否定してる」
今考えれば、僕を否定するっていうのも1つの価値観としてあってもいいのかもしれない。
「そうかもね。色んな価値観があってもいい。けど、この考えじゃ僕は生きいけないみたい」
「本当にいいんか?」
「うん、いいよ。僕は僕ために頑張ってくれたあいつらのためにも、やらなくちゃいけないから」
僕は今まで中途半端だったかもしれない覚悟を今度はしっかりと決める。
僕が新たな世界を作る。
世界の終わりじゃない、より良い世界の始まりを作るんだ。
まずは手始めに
「お前らをゾンビにする」
僕は精神汚濁の影響から抜け現実世界に戻ってくる。
前は能力を止めて無理やり戻したけど今回は自力で戻って来れたな。
頭の中では気持ち悪いとかの思い出すだけでイラつく悪口が何回も流れてくるが気にならない。
やるべき事が分かったから。
「ンガァァァ!」
今の僕は本当に醜いんだろうな。
でもいい。
気持ち悪い僕だからやらないといけないんだ。
皆から否定された僕だからこそ。
「オマエラをコロス」
「人間の心でも取り戻したのか? 一丁前に言葉を発して」
今の状況としては複雑な迷路みたいにして結界を何重にも覆っているのか。
それと、藤原誠華が覚醒して短距離空間接続と攻撃を受けない能力も追加だな。
強そうだが頭を痛そうにしているのを見る限り何かしらのデメリットがありそうだ。
「こっちに来い。相手になってやる」
「アイテをさせてイタダクのマチガイだろ」
「マナー講師みたいなこと言うな」
藤原誠華は僕の首元にワームホールを作り剣を突き刺そうとするが体に沿うように結界を貼り防ぐ。
他もこのようにしたいが他はよく動くからここだけだ。
ゾンビの弱点であるここさえ守ってれば大丈夫だろ。
残り魔力ももうそこまでだ、手短に決着をつける。
「もうマヨワない」