これでいいのか?
私はまた真っ白になった世界に突っ立っている。
もう死んだのか?
死んだ後にしてはありきたりだ。
ま、本当にこういうものかもしれないな。
私は涙を拭うと声が聞こえてくる。
「雫、今日のご飯もおいしかったぜ」
「私が作ったんだから当然だよね」
「そらそうだ」
私の後ろ側ではまた2人が楽しそうに話している。
そしてこれもさっきと同様に私は2人に近づけない。
「それよりさ、私できちゃった」
「ん? あ、もしかして!」
「そう、赤ちゃん。やったね」
「やったな雫!」
……なんだこれは。
2人は妊娠検査薬の結果を見て大喜びしている。
その喜びの中に混ざりたいと一瞬思ったが私は踏みとどまる。
ていうか、なんで竜と雫が?
「毎晩頑張った甲斐があったね」
「絞り尽くされてよかったぁ」
はははと笑い合う2人を私は羨ましく思った。
前までは私もあの中にいたはずなのに。
「じゃ、今日も仕事行ってくるわ」
「頑張って来てね。今日も美味しい料理作って待ってるから」
「はーい」
竜が家から出ていく。
雫は私に見せたことの無いような笑顔を竜に見せ、竜も見たことないぐらいの笑顔を雫に見せる。
辛いなぁ。
何が辛いってこの中に私がいないのが辛い。
あぁそっか、私が泣いてた理由って私が死んだら2人の中にもう入れなくなるからなんだ。
「でも、もう叶わないよな」
全部を諦めると真っ白な世界は消えていき元の世界に戻る。
私は教祖に一方的に殴られ蹴られしぶとく生き残ってはいるが教祖に腹を蹴られそのまま後ろに倒れる。
雫はもう竜を回収できただろうか。
「グラァァァ!」
教祖は私の顔に向けて殴ってくる。
死んだな。
私は雫と竜の2人とずっと一緒にいたい。
この気持ちは変わらない。
でも、無理なものは無理だ。
何も持たない私だから。
2人ともありがとう、私なんかと一緒にいてくれて。
涙は止まったな。
未練はあるが悔いはない。
2人の顔が走馬灯のように流れてくる。
教祖の拳が私の顔スレスレまで来る。
……が、しかし寸前で雫がクマの手で受け止めた。
「え?」
雫は教祖の結界を消して人間の手に戻し拳を強く握る。
そしてそのまま教祖を遠くへと飛ばした。
「なぜだ?」
「……」
「私は逃げろと――」
雫はパチンと私の頬をはたく。
「今ので頭に残ってた精神汚染物質は消した。体に残ってるのがまた誠華ちゃんの頭に届く前に聞く。なんでこんなことをした」
雫が静かに、だけど怒りを隠しきれていない様子で私に聞いてくる。
「なんでって、それはお前達を逃がそうと――」
「それだけ?」
「それだけって、私は!」
「だ!か!ら!それだけかって聞いてるの!」
雫が怒りをあらわにして私に詰め寄る。
「ま、まぁそれだけだ」
「そ、じゃあやめて」
それだけ言うと雫は教祖に向き直る。
「でも、このままじゃ負けてお前達も死ぬだけだ。それぐらい分かるだろ」
雫は深いため息をつき口を開ける。
「私は星奏と竜と一緒にこれからを過ごしたい。そう願ってた。だからかは知らないけどこんなチートレベルの能力を貰えた」
雫は淡々と言い続けた。
「私は私達の中で誰かが欠けるぐらいなら自分が犠牲になってでも助ける」
「そんなの、私と変わらな――」
「星奏は死んでも助けるなんて残されるヤツらの気持ちも知らずに突っ込んでっただけでしょ」
私は図星をつかれ下を向く。
「私は死ぬ気はない。でも、死んでもいいから星奏や竜を助けたい。自殺願望しかない星奏とは根底から違うよ」
私は雫の説教に反論することすら出来なかった。
そうか、ここでも私はまた自分勝手にしてしまったのか。
「私が立っている限り死なせてたまるもんか」
雫はそういい教祖にへと立ち向かっていく。
私はバカだ。
本当に大バカだ。
2人は私のことを邪魔者だと勝手に勘違いして2人のことを何も考えずにただ私だけの凝り固まった考えで2人を悲しませるとこだった。
私が雫と竜を大切に思っているのと同じくらい雫と竜も私のことを大切に思っているんだ。
考えを改めろ。
〈そんなことない、2人は私のことなんてなんとも思ってない〉
私の声が頭の中で響いてくる。
うるさい。
〈さっさと死ね。私なんか生きてても意味ないだろ〉
うるさい!
私が私のことを知ってるつもりでいるな。
私が2人に大して思ってたことすら気づかなかったくせに。
〈私に何が出来る。2人に迷惑をかけるぐらいだけだろ〉
私に何ができるかは今考える。
考えるのを放棄したバカにはなりたくない。
〈ここを乗り越えたところで次はないぞ〉
次のことは次考える。
考えるべきは今だ。
今、私は何がしたい。
したいことをなすためにはどうすればいい。
考えろ。
〈努力を続けたところで2人みたいな天才には勝てない〉
そうだな。
でも、それは前提だ。
諦める理由にはならない。
〈勝ってこない。やめろ〉
そんなこと言う私も今の私には勝てない。
諦めるのが好きならさっさと諦めろ。
私は生まれてこのかた17年間、何かで世界一になれたことはない。
せいぜいお山の大将程度だ。
天才には勝てない。
だが、それがどうした。
私には十数年間毎日トレーニングや勉強を続けるメンタルがある。
それで培った知識や身体がある。
今は身体が能力の影響で弱っているがそんなのは気にしない。
〈2人に勝つなんて無謀だ〉
そうだな、でもそれは2人の得意分野でならの話だ。
雫には能力を使った場合の力には負けてしまい、竜には頭脳面で負けてしまう。
だが逆に雫には頭脳面で勝ってるし、竜には力で勝っている。
私なら2人に足りないところを補える。
〈あきらめ――〉
引っ込んでろ。
精神攻撃しかできない雑魚は。
私は大きく息を吸いそして吐く。
やっと目が覚めた。
私は2人を守りたい。
死ぬ気はないが死んでもいいから2人との生活を守りたい。
これだけは絶対に!
私がそう覚悟した瞬間頭の中に文字が浮かんでくる。
能力因子を食べた時や能力が1個増えた時みたいだ。
どれどれ?
空間を掌握する程度の能力。
空間を掌握する能力か、ん? まだ何か浮かんでくるぞ。
……そうか、これはかなり使い手を選ぶだろうな。
だけど、なんでもある程度なら出来る私なら楽勝だ。
私は雫の元へ向かう。
雫は教祖の攻撃を一方的にくらい、能力で無機物の生物を作ってはいるが簡単に潰されている。
こんな絶望的な状況でも雫の目は死んでいない。
雫は言ってくれた。
私を死んでもいいから助けると。
それなら私はそんな雫を助ける。
そして今、精神攻撃で弱ってる竜も助ける。
「雫、すまなかった。今、助ける」
雫は少し笑い教祖の攻撃をさばきながら口を開く。
「この借りは高くつくよ」
「利子も付けてもっと高くしてもいいぞ」
「ウガァァァァ!」
化け物になった教祖が化け物のような叫び声をあげる。
〈私じゃ無理だ〉
私は教祖にドンドンと近づく。
〈死ぬだけだ!〉
私は私達のこれからを生きるために立ち向かう。
私は落としていた剣を浮かせて手に運び握る。
〈お前じゃ無理だ!〉
私ならできる!
「能力発動、空間掌握」
間違ってるとこがあったんでここで訂正させてください
第1話というかなり昔の話ではあるんですけど町の場所が東京、仙台、札幌、名古屋、高松、福岡ってなってたと思うんですけどそこに横浜がなかったです
横浜がないとストーリーが成り立たないんでその辺ちょっと訂正させてください