私は……
私は真っ白な空間の中1人立ち尽くす。
2人は私をいらないといいどこかへ行ってしまった。
弱いからいらない。
当たり前のことではある。
弱いやつを守ろうとすればするほど本来の力を出せないから仕方ないことだとは理解は出来る。
でも、あの2人には見捨てられたくなかった。
最後まで一緒にいたかった。
私が落ち込んでいると2人の姿が映像として映し出される。
そこには2人が楽しそうに暮らしている姿があった。
朝起きて雫のご飯を食べて楽しそうに喋りながら楽々とゾンビを倒し帰ってからも楽しそうで夜眠りにつく。
私がいなくても生活が成り立っている。
2人の顔もいつもより楽しそうだ。
「あぁ……あぁ……」
私は胸がキューっとなりながらも見続ける。
というより見続ける以外の選択ができない。
また1日、また1日、私がいなくても楽しそうな生活を送り続ける2人に私は段々と苦しくなってくる。
いつもより強いゾンビに出会っても竜の頭と雫の能力で切り抜けている。
私は今まで何をしていたのだろう。
自分勝手にあいつらを巻き込んだり、ろくにあいつらの力になれてなかったり。
そういえば、私が冒険者になったから雫も冒険者になったんだ。
私が農家になるって言えば雫がこんな危ない目に会うこともなかった。
ていうか、私のせいで竜が枢機卿共に狙われるはめになったんだよな。
なのに私は竜に助けられてばっかりで。
私だって普段から頑張ってるのに、今回はその頑張りを否定するかのように体力を低下させられるし。
私ってなんのために生きてるんだろうな。
特別な才能もなく、他人に迷惑をかけることでしか生きられないくせにふてぶてしくて。
強くなりたい癖に心はまだまだ弱くて。
体を強くしても軽々と越えられて、ついでに衰えさせられて。
もうここで死んでもいいんじゃないのか?
その方が2人も楽だろ。
何も出来ないくせに努力したなんて言ってごめんなさい。
何も出来ないくせに他人に迷惑をかけてごめんなさい。
何も出来ないくせに楽しみを求めてごめんなさい。
何も出来ないくせにご飯なんか食べてごめんなさい。
何も出来ないくせに生きててごめんなさい。
私は近くにあった剣を握りしめ首に向けようとする。
が、その瞬間雫が竜と私を持った状態で逃げている。
結界で行く手を防がれながらもすぐに進行方向を変えてなんとか距離を稼ぎ私達を地面に置く。
「無効化で抑えれるタイプで良かった」
雫は私達を持ったまま真っ黒な細身の化け物を見ている。
竜は自分自身の頭を殴りながらもうやめろと言っている。
私はおどおどしながら雫に近寄る。
「星奏はまだ動ける感じね。良かった」
「あぁ、うん」
「どうしたの、星奏?」
「いや、なんでもない」
あぁ、なんで私はここで雫に頼れないんだ。
なんで……
「あの化け物が教祖ね。多分星奏達が受けた能力と同じ影響を受けてるのかな。星奏の腕もちょっと黒くなってるし」
私は自分の腕を見るとあの化け物と同じような色に変色している。
雫に触ってもらってるおかげか変色は徐々に無くなってはいるが。
「でも、能力の本質は変色じゃなくて精神に関係するタイプだとは思うね。多分、精神汚染物質とかかな。副作用で体が黒くなるとか。竜がさっきからボソボソうるさいし、なんか暗いし」
雫はそう言って竜を少し見た後また教祖に向き直る。
「星奏、頑張ってあいつの意識そいでくれない? さっきの竜ぐらいの時間稼いでくれれば次こそはやるから」
私が竜と同じくらいの時間を稼ぐ?
「無理だ。そんなの」
「え?」
「私が竜を超えられる訳が無いだろ。無茶を言わないでくれ」
雫はえ?と驚いた顔で私を見る。
分かりきってることだろ。
こんなこと。
「そ、そう。分かった。竜、そろそろ大丈夫?」
「どうせ、これも俺の妄想なんだ。俺はもう俺に期待をさせないでくれ」
竜が苦しそうにもがいている。
竜も私と同じで能力の影響を受けたんだな。
「じゃあ、1人でなんとかしてみるよ」
雫は諦めたような顔で私達から手を離し前に出る。
「獣人化、獣之王」
雫はこの前の足がライオン、腕がクマ、背中にワシの翼を生やした姿になる。
「生まれろ、生命よ」
雫がそう言うと、雫の足元から沢山の動物の形をしたコンクリートの塊が出てくる。
「グロウアップ」
コンクリートで出来た動物の体が大きくなり一体一体が車1台サイズになる。
「グガァァァァァ!」
教祖はコンクリートで出来た動物を気にせず雫へと突っ込む。
コンクリートで出来た動物は教祖に突っ込むが結界に阻まれて攻撃できない。
「ウギギギ」
教祖はコンクリートの動物達を握りつぶす。
その間もずっと雫のことを見続けており雫はどう動くか戸惑っていた。
「ウガァァァァ!」
教祖は雫に向けて拳を突き出す。
雫は拳をかわしたが相手に隙がなく何も出来ないと判断し後ろに下がる。
このままじゃ雫が負ける。
でも、私が立ち入ったとこで勝てないし。
竜は今は落ち着いてきてはいるが精神的疲労が溜まったのか座りながらずっとボソボソと何か言っている。
「これは妄想、早く現実に戻れ、こんなこと考えたって何にもならない。早く戻ってまたいつもみたいに引きこもってりゃいいんだ。俺なんかが主人公みたいになるなんておかしいに決まってるのになんで気づかなかったんだ」
私には竜が何を言ってるのか分からない。
多分、竜も辛いものを見せられたのだろう。
でも、竜はすぐに回復するんだろうなぁ。
今もずっと死んだ方がマシだと自分に言い聞かせてる私よりは早く治るんだろう。
雫と竜には生き残って欲しいし捨て身で教祖に突っ込むか。
私にしてはいい死に場所だ。
そうだ、そうしよう。
そうすれば雫と竜は私という邪魔者がいなくなる。
その後はきっとさっき見たみたいに楽しそうに暮らしているのだろう。
こいつらの人生に私はいらない。
これが人生最後の私の役目だ。
腕の変色がかなり進んでいることに気が付かず私は前へと出る。
視界は全体が白みががってきていた。
私は目を擦ると目から涙がこぼれていることに気が付いた。
「なぜだ? なぜ、私が泣く必要がある。やっと、2人のためになれるんだ。名誉なことだろ。迷惑しかかけてない私が2人のためになれる」
目から涙が止まらない。
私は訳が分からなかった。
急に何かの病気にでも患ったとさえ思った。
私は意味が分からないまま前に出る。
「え、星奏? なんで」
「雫、竜を連れて逃げろ。大丈夫、時間は稼ぐから」
「は、何言ってってそれより――」
教祖が殴りかかってきたので私は両手で受け止め吹っ飛びそうになる体をサイコキネシスで止める。
「大丈夫!?」
「私なら大丈夫だから早くしろ」
私は腕の痛みをこらえつつ笑顔を取り繕う。
「ていうか、なんで泣いてるの?」
雫は私の腕を引っ張って後ろに下がりながら私に話しかける。
私は離そうとするも力の差で離せない。
「なんでだろうな。私にも分からない。でも、まぁこれは私の反応がおかしいだけだから気にするな」
私は魔法で少し強めの火を作り雫の手に近づける。
ちょっとだけ火傷するが許してくれ。
雫は熱っと言って私の手を離す。
その隙に私は教祖に向かって走る。
雫は私を追いかけながら呼ぶが雫が私に追いつくより教祖が追いつく方が早い。
そうなったら雫は私の最後の頼みである逃げろというのをやらざるを得なくなる。
これでいいんだ。
今、私は人生で初めて誰かのためになれたんだ。
私は涙を拭わず教祖にへと走っていった。