3対1
俺達は3対1という圧倒的有利を取って勝ちを確信……
「分断」
教祖は俺と2人を分けるように結界を置きすぐに逃げられないように俺の後ろにも結界が貼られてある。
確信できなかったなぁ。
教祖は地面を蹴り俺のもとにまで飛んでくる。
「この結界、1箇所に何枚も貼られてるせいで無効化するのに時間かかる」
おいおい、マジか。
急にこんな細かな結界操作してきやがった。
「死ね死ねインパクト!」
「語彙力幼稚園児かよ」
教祖はドカーンとアスファルトの地面を抉る程の力を俺に向けて放つ。
俺はギリギリで避け雫が結界を通れる分だけ無効化しやってくる。
「2人とも、気をつけてね。あいつに分断されたらすぐには助けに行けないよ」
あいつは俺を憎い憎いしてるから俺が1番気をつけないとな。
「火炎球」
教祖は大きめの火の玉を俺達に向けて放ってくる。
この程度なら簡単によけれるな。
「ファンデーション」
俺は横に避けようとすると、何か小さいものに当たる。
その小さいものはピクリともせず全く動けない。
そのまま火の玉が近付いてくる。
「ちょ、やばい」
「エアーウォール」
星奏がギリギリで壁を出してくれたおかげでなんとか当たることなく済んだ。
雫は普通に動けてたけど星奏は俺と同じで動けてなかったな。
俺はチラッと横を見ると小さな結界があちこちに散りばめられていた。
「雫、結界が」
「2人とも、私の後ろピッタシでついてきて」
俺達は雫の言う通りに雫の後ろについて行く。
その間も教祖は魔法を打ってきて星奏のエアーウォールで防ぐ。
これで急に殴りかかってきたらこのエアーウォール壊れるだろうな。
小さな結界密集地帯を抜け雫が前に出る。
俺と星奏は雫援護だ。
魔法を打ったところでダメージにはならないが意識は反らせれるから一応やる。
雫は教祖が体の周りに貼ってある結界を無効化し殴り続ける。
でも、これじゃゾンビの回復力で耐えられてしまうな。
もっとなにか、教祖の首をかっ切る方法はないものか。
……これもしかてどう頑張っても教祖は雫を見ているだけで勝てるんじゃないか?
結界を無効化できるのは雫だけだ。
俺と星奏には結界を壊すほどの攻撃力もなけりゃ無効化する能力すらない。
せいぜい魔法でちょっかいを出す程度だ。
しかもそんな俺達を急に分断するかもしれないという可能性を考えないといけないから雫はその事も頭に入れておかないといけないから脳のリソースを食ってしまう。
能力で思考速度を上げたとしても魔力が尽きれば意味が無くなる。
上級ゾンビの魔力は絶大だ。
魔力で勝負はできない。
でも、俺達が何かをすることもできない。
逃げて、雫に全任せ……万が一になったら誰が雫を助けるんだ。
こんなのはダメだ。
……クソっ。
思いつかない。
こいつに勝てるイメージが。
俺達が壊せる結界程度なら教祖は簡単に作れる。
能力の使用を見てると能力にそこまで魔力を取られてないのだろう。
それならもういっそ逃げるか?
いや、どうやって逃げる。
雫を置いて逃げて時間が経ったら雫も逃げてもらうとかか?
雫のリスクが高すぎる。
ここで勝つしか生きる道はない。
焦るな、大丈夫だ。
そんな勝負アホほどしてきた。
勝たないと生き残れない。
勝たないと……
「分断」
俺が考え込んでいると俺と星奏の間にたくさんの結界が貼られる。
雫とも分断されたようだ。
また俺かよ。
そういえばあの結界。
光や音は通るんだよな。
現に教祖には太陽の方角とは反対側に影ができてる。
それなら、俺の能力でどうにかできる。
攻撃は出来なくても意識を逸らして雫の一撃に繋げさせられる。
「死ね死ね――」
「幻惑操作、トランスロケーション」
教祖から光や音を取ったところで多分あいつは対策してくる。
何せ、今まで戦った枢機卿達のボスなんだ。
俺の情報を一切持ってない方がありえない。
それなら情報量を増やし続ける。
今ここは森の中だ。
急に風景が変わり教祖は戸惑っている。
森の中をできるだけ再現するために空気は風魔法、風景を光操作、環境音を音操作で再現した。
魔力の減りが少し大きいが最近の俺の魔力量なら問題ない。
「光と音で騙してきてるのか」
「マジシャンのトリックを暴いて愉悦に浸ってんじゃねぇよ。それはそこらのクソガキの専売特許だ」
特に昔の俺のな。
「そんなことしたところでお前が死ぬ未来は変わらない!」
教祖は俺の分身を殴る。
危ねぇ。分身作っといて正解だったな。
さっき雫が分断の結界解除にかかってた時間的にもうそろそろだな。
もっと俺に注意を向かせろ。
俺に集中させれれば雫がフリーになってそのまま決定打を打てれる。
「トランス!」
俺は風景を森の中から海の中へと変える。
プラシーボ効果って言う勘違いを信じることによって体に利益をもたらすっていうペストが流行った頃の薬でも使われてたもんがあるんだけどさ。
その逆でノセボ効果って言って嘘を信じたことで体に不利益なものが出てくるのもある訳よ。
こんな急に海の中って状況にされたら教祖の脳が俺の嘘を勘違いするよな。
海の中で溺れてる勘違い。
それが真実としてあいつの体に現れそして本当に溺れる。
まぁこの場合窒息死になるだろうがな。
さぁ、隙を作った。
やれ雫!
「ナイス、竜」
雫が教祖の結界を破りそして、首元に剣を振りかざす。
これは勝っ――
あれ、ここどこだ?
あ、ここは。
東京の俺の実家だ。
俺はここで本を読んでたのか。
あ、そうだ世界の始まりっていうラノベを読んでて俺はその主人公になりきって妄想してたんだ。
そうか、今までのは全部妄想か。
そうか……そうか……
俺は目から涙が出てることを知らないまま本を読み進める。
字が滲んで読みにくいな。
この主人公のそばにいつもいる2人のヒロイン、都合よすぎだろ。
なんでたまたま荒廃した世界のビルで出会ってんだよ。
……なんで、俺がこの世界の主人公じゃねぇんだよ。
俺は自分が涙を流してることに気づき本を閉じる。
「俺、今まで何やってたんだろうな。高校にも行かず、ただ怠けて何もせず、家にひきこもって大嫌いな親のスネをかじって」
そんな状況が嫌でこの本に書かれた内容みたいな話を作って。
でも、そこが俺の居場所だったんだ。
もうそこにしか俺の居場所はないんだ。
食欲は湧かないのに腹が鳴る。
グゥグゥと部屋中に鳴り響く。
だけど、不思議と食欲が湧かない。
雫のご飯なら食べたいなぁ。
それにはしても暇だ。
星奏と一緒に遊びたいな。
あぁ、なんで俺って生きてるんだろ。
あれ、ここはどこだ?
私は真っ白な空間に突っ立っている。
私はさっきまで道路上で何も出来ずにただ2人の後ろを見守ってたはず。
辺りを見回すと2人が見える。
「雫、今日もゾンビ狩りに行こうぜ」
「お、いいね。ハンデ付きで勝負したげる」
「お前にハンデ付けも意味ねぇだろ」
竜と雫の2人が楽しそうに会話をして私からじゃ顔が見えない方を向いて準備をしている。
楽しそうな2人に近づこうとするが一定の距離以上は近づけない。
「私も行きたい」
私は2人に向かって叫ぶ。
すると2人は私の方に目元だけ拙く塗りつぶした顔を向ける。
「でも、お前弱いじゃん」
「正直、足でまといだしね」
2人はまた楽しそうな会話を続ける。
私が足でまとい?
いや、私だってちゃんと活躍して……
して……して……ない。
枢機卿連中に決定打を与える作戦を考えてたのはいつも竜だ。
雫は規格外に強くなって今も教祖と渡り合えていた。
今の私はこの2人にただついて行ってるだけ。
そんなお荷物いらないか。
それはそうだな。
それはそうなんだ。
お荷物がいたら危なくなりやすいからな。
そうか私、お荷物か。
気づいていた事だ。
戦闘面ではもう雫に負ける。
頭脳面では竜に完敗だ。
今の私に残されてるものなんて何もないな。
あれ、なんでだろう。
すごく寂しい。
ただ、自分の弱さを自覚しただけなのに。
私はまた2人に向かって叫ぶ。
「私、竜みたいに賢くなる!雫みたいに強くなる!だから……だから!置いていかないでくれ!」
私の心からの叫びは2人がどこかへと行くと共に消え去った。