カチカチ
教祖は俺に殴りかかってくる。
《星奏!》
《分かっている》
透明化したままの星奏は後ろから教祖の首筋を剣で突く。
しかし刃先は首筋から少し離れた地点でキリキリという音を立てて止まっている。
何やら結界のようなものが見える。
そうか、こいつは結界を操る能力を持ってたんだ。
「ほんと、せこい真似しかしないね」
「殺したお前の部下達からの襲撃を耐え続けるために得た力だ。せこくて結構」
「イキがるな」
教祖は俺に向かって拳を突き出す。
俺は咄嗟にソニックブロウを体に当てギリギリで避ける。
教祖をよく見ると体全体に結界が貼られてるな。
これじゃ、攻撃通らねぇな。
雫がいれば良かったんだがあいつ猫にくわえられてどっか行ったしな。
チートの癖に肝心な時にいねぇ。
宝の持ち腐れもいいとこだ。
《星奏、教祖の体の周りに結界が貼られてるみたいだから雫来るまでの持久戦になりそうだ》
《そうみたいだな。おい、雫。こっち来るまでにどれだけかかる?》
《もう来てるよ》
は? ならどこに。
俺は後ろをチラッと見ると大量のゾンビ動物達と戦い合ってる雫の姿が。
《2人とも、ゾンビ動物いるの忘れてるでしょ。今、私が全部倒すから待ってて》
《なら、星奏とその立場を交代すれば――》
《星奏じゃゾンビ動物倒すのに時間かかるでしょ。それにこの数だしね。すぐに倒すから待ってて》
俺達が倒すよりも雫が倒した方が早い。
そうすれば3対1の状況が早く出来上がり俺達が有利になるな。
《分かった。なるはやで頼むわ》
《承知済み》
「竜、援護くれ」
俺が雫との念話を終えると教祖の気を引いててくれた星奏が助けを求めてきた。
俺はすぐさま、ソニックブロウで2人の間を引き剥がし教祖に向けて大量に魔法を放つ。
「大丈夫か?」
「あいつ、体周りに貼ってる結界のせいで投げ技が一切できない」
逃げ回って時間を稼ぐか?
いや、相手には結界があるし逃げるにも限度がある。
「星奏はサイコキネシスで教祖の目の前で逃げ回れ。俺が魔法で気を散らさせる」
「あ、まずい」
星奏はサイコキネシスで俺達の距離を離す。
すると、さっきまでいた場所に教祖が突っ込んで来ていた。
そうか、結界が貼られてるからどれだけ魔法を打っても効いてないんだ。
結構威力高めの魔法を撃ちまくってたんだけどな。
どんどけ耐久性あんだよ。
「そんな固い殻に覆っちゃって。引きこもってないで出てきなよ」
「そっちも、逃げることしか出来ない脳なしだろ」
逃げることしか出来ないじゃなくて逃げることでしか生きられないんだよ。
「そんな脳なしにお前の部下殺られちゃったってことは、お前の部下って脳どころか頭無いんじゃね。あ、首切ったから実際頭ねぇわ」
教祖は怒りをあらわにして俺に向かって走ってくる。
俺は分身と透明化を駆使し逃げ回る。
よし、俺にヘイトを向けたな。
俺はそのまま星奏に俺の姿を投影し俺は星奏の姿になる。
《殺意剥き出しのやつに追われるってかなり怖いな》
《その割には冷静な声色っすね》
星奏は上手く逃げ回り教祖の攻撃を避ける。
《この程度ならよゆ……う…》
星奏は少し疲れたような顔になり息を荒らげる。
めちゃくちゃ動いてるとはいえ今までの星奏なら、まだまだ活動できるはず。
何があった。
「お前ら、全員に女性ホルモンを大量にぶち込んだ。女性ホルモンは筋力を低下させる働きがあるからな。お前なんかがここまで動けるとは思ってなかったが効果はあったみたいだ」
星奏は能力で無理やり体を動かし逃げ回る。
星奏は自身の体をフルに活用することで魔力消費を抑え要所要所で魔力を使うタイプの戦い方をする。
そんな星奏にとって動くことに魔力を使わせるっていうのはかなりの損失だ。
まだ、あいつは星奏のことを俺だと思っている。
よし、それなら。
《選手交代だ、星奏》
俺は俺と星奏を透明化させ、俺は少ししてから姿を現す。
「能力、体力回復。持っててよかった」
こんなのはもちろん嘘だ。
バレるかもしれない。
まぁ、それでもいいが。
この嘘に必要なのはいらない情報を与えることだ。
どれだけ身体を強化しても頭の回転の速さってのはそこまで変わらない。
情報を与えて時間を稼ぐ。
頭脳派タイプ舐めんな。
「そんなの持ってないだろ」
「ガセネタ掴まされてんなぁ。お前の宗教に優秀な情報収集班いねぇのかよ。いや、シャブ漬け宗教が頭使えるわけねぇな」
「黙れ。口だけのクズが」
俺は教祖との距離感を見続ける。
こいつはあまり身体能力強化を使って距離を詰めるなんてことはしない。
あまり戦闘経験がないのだろう。
だから、少し速くなった時に反射できる程度の距離を見極め続ける必要がある。
それをしながらの魔法や能力を使って所々で視界を塞ぐ。
今度はイカスミぶっかけられたみたいにするか。
いらない情報を与え続けることを忘れずに。
「あいつ結界系の能力あるし何か物壊す系の能力持った能力カプセルないかな」
「そんなの、ない!」
俺はポケットから何かを取り出した風を装う。
教祖の足が少し早くなったが俺は恐れずに前に出て教祖に聞こえるように大きく口を開ける。
「破壊!」
教祖は何かあると思ったのか俺からすぐに距離を取る。
「く、外したか。おい、逃げ回るのは腰抜けって言ってただろ。ずりぃぞ」
「あー、もううるさい!全身強化」
もう全身強化来たか。
教祖は俺がどれだけ速く走っても余裕で追いつける速さで俺を追いかけてくる。
ビルの中に入り、階を上り視界不良トラップみたいなのを仕掛け集中力を削ぎ追いつかれそうになったらソニックブロウでとなりのビルに移る。
そうやって逃げ続けてもやっぱり追いつかれる。
「半径、10m。結界」
教祖がそう言うと俺の逃げ場が無くなる。
やっぱりそう来るか。
これからは俺の反射神経にかかってるな。
「どれだけ固い結界で自分を守れても仲間は守れなかったんだな」
「最後でも煽ってくるとかつくづくクソ野郎だな、お前」
教祖はトコトコと歩きながら俺に近づく。
教祖が俺に近づくにつれ、結界は狭くなってくる。
「教祖様、お願いです。僕にお慈悲をー」
「ゾンビ教はゾンビを殺したものに慈悲はない。そんな宗教だ」
冒険者誰も入れねぇじゃん。
「お前は人と同じ頭を持つゾンビを殺した。これって人殺しとなんら変わりはないだろ。どの宗教でも人殺しは大罪だ。お前に救いはねぇよ」
俺に救いがない?
バカ言っちゃいけねぇよ。
俺には俺を助けてくれる心強い友達が2人いるんだ。
それだけで俺は戦える。
「死ね」
俺は教祖の拳を見つめる。
教祖が突き出したとんでもないほど速い拳は俺の顔にめがけてやってきている。
俺はそれをソニックブロウを駆使し避ける。
すると、もう片方の手も突き出してきた。
今度は俺の胸か。
少し大きさがあるせいで厄介だが俺はこれも避けきる。
さらにもう1発、さらにさらにもう1発と拳を突き出してくる。
少しでも反射が遅れたら死ぬ。
あ、今かすった。
あ、今の当たってたらまずかっただろうな。
俺はただ2人が助けに来ることに期待をし今は目の前の難題を超えようとしている。
今度は足も狙ってきたか。
何分経ったか。
無限に続いてるように感じる。
怖くて怖くて仕方がない。
でも、俺は死ねない。
あいつらと生きるこれからのためにも死ねないんだ。
パリパリパリ
俺達は有限であると告げるように結界が破け、雫が無理やり教祖を蹴りを入れる。
結界能力を貫通し教祖の腹に足跡を残す位の勢いで蹴り教祖は結界を消して吹っ飛ぶ。
「おせぇぞ、お前」
「ヒーローは遅れてやってくるからね」
「なんとか、息を整えたぞ」
休憩を終えた星奏もやってくる。
「大阪の方はもうどうなってもいいか。後でやればいいしね」
教祖がブツブツと何か言う。
負け惜しみか?
言っとくけど、負け惜しみなんてさせる暇与えねぇぞ。