女の子としての日常3
俺はナンパされたことを頭からな 失くし、スーパーへと向かう。
新聞紙は買ったし後はここで色々買うだけだな。
それならいつも通りだしちゃちゃっと終わらせるか。
俺はキノコを取りたくないと勝手に動く手を必死に押さえつけキノコを買い物かごにいれる。
旬だからってキノコ食べるなんて雫も浅いもんだ。
俺ならどんぐり食ってる。
いや、どんぐりならモンブランにするな。
.....甘いもの食べたいなぁ。
さっき食べそびれ.....っと危ない。
失くしたものを見つけそうになった。
「うーん、それにしても甘いものを食べたい欲求が止まらん。パンケーキにアイスにチョコ、ケーキ.....食べたい」
食欲の秋だしな。
食欲が無限に湧き上がってくる。
旬だからと秋っぽいもの作ろうとする雫なら分かってくれるだろ。
よし、お菓子作りするか。
「――という訳だ。お菓子作りを手伝ってください」
「.....竜。本当に男?」
「心は今でもちゃんと男だよ。その証拠にまぁまぁの優良物件に告白されたけど振ってきたし」
「え、何その面白そうな話。聞かせてよ」
「お菓子作りに協力してくれたら」
「よし、よかろう。何作る?」
何作るか、かぁ。
正直、甘かったら何でもいい。
だけどもそんなこと適当に言ったら雫は分かったとか言ってよく分からない甘ったるくてクソマズなお菓子を作らそうとして来るだろ。
なら、ここで答えべきお菓子は.....
「クッキーで」
「普通すぎ却下」
「暴君だろお前」
俺がまた考え出すと星奏が部屋から出てくる。
「.....今日は何をするんだ? 竜子」
「テンプレすぎだろ」
「今からお菓子作るんだよ」
「そうか.....雫、竜ってこんなやつだったか? もしかしたら操られてるんじゃないか?」
「もしかしたらもねぇよ」
星奏は俺を指さしハテナを浮かべる。
気に入らねぇのか? 俺の成長が。
「こんなに早くお菓子作りまで女子度が進行するなんて。お前、本当に元男か?そこらのTSキャラよりも進行が早いぞ」
「そんじょそこらののほほんとした世界で暮らしてる主人公じゃねぇからな、俺は」
「大半は日常ジャンルなんだから許してやれ」
星奏は椅子に座りテーブルに置かれていたご飯を食べる。
「なぁ、星奏。食べたいお菓子ないか?」
「そうだな。ここは鉄板のパンケーキでいいだろ」
「パンケーキ、ありだね」
雫はウキウキした顔でボウルを出す。
パンケーキも普通だろと思いつつ俺は使うであろう道具を用意する。
「今回はパンケーキに色々デコってビンスタ映えを狙います」
「ビンスタ映えは女の子っぽい、あり」
「ビンスタ映えってそこまで女の子っぽいか?」
「読書狂いとかゲームしてばっかの陰キャよりは女子っぽい」
「私はただ文学系なだけだろ」
狂いは否定しないのか。
「私、ゲームばっかしてた訳じゃないんだけどなぁ」
まぁ、雫は外面だけで言えば女子力はあると思うぞ。
性格に女子力がないだけ。
「とりあえず、始めるよ」
「かしこまりー。えぇっとホットケーキミックスのパッケージ裏を見る感じこの小袋に入った粉を3、4個ボウルに入れればいいのか」
パッケージ裏に書かれてある通りに手順を進める。
「これに水を入れ――」
「はーい、雫ちゃんのワンポイントアドブァーイス」
雫はテンション高めに粉を入れたボウルを持ち上げる。
「星奏、粉のせいで雫がハイになっちゃった」
「雫はそんなゾンビ教の信者みたいなことしようと思っても出来ないだろ」
「ちょっとテンション上げただけでその言われようは酷くない?」
雫は咳払いをしボウルをオーブンの中に入れる。
「アドバイスとしては粉を70度に温めたら糊化してモチモチになるよ」
雫はオーブンのスイッチを入れ次の準備をする。
「次は粉に牛乳を入れればいいのか」
「牛乳も温めた方がいいよ。電子レンジならまぁ、3分ぐらいやっときゃいいでしょ」
雫はマグカップに牛乳を入れ電子レンジに入れる。
「その間にトッピング的なやつ作りまーす」
「おぉ、フルーツなら適当に買ってきたぞ」
雫は卵を何個か取り出す。
「じゃあ、竜。黄身と白身分けて白身はこのボウルに入れてね」
「そんな高度なこと要求するなよ」
「何事も挑戦ってね」
俺は雫に言われるがままなんとなくで黄身と白身を分ける。
えぇっと、確か、上手い人は割った殻と殻に黄身を行き来させて白身を分けるんだっけな?
俺は何とか白身だけをボウルに入れることが出来た。
「.....これはモテるな」
「ちっ、残念」
雫は舌打ちをして手馴れた手つきで残りの卵の黄身と白身を分ける。
見せつけかこの野郎。
「一発クリアは才能しかないんじゃないか?」
「星奏は調理実習の時にイキってこれやって全部失敗してたし才能はあると思うよ」
「星奏、お前鍋溶かしたり、フライパン溶かしたり、イキって失敗したり、調理実習中何やってんだ?」
「卵の件は今でも何やってんだとは思うが残りの2つに関しては私も何故か分からない」
なんだ、こいつ。
自然とそうなったって訳か?
いや、んなわけあるか。
コンロで出せる火力でフライパンや鍋が溶けるか。
星奏が必死に弁明してきているとチーンとオーブンのタイマーが終わった音がしそれに続き電子レンジもチーンと鳴る。
「うん、しっかり温まってるね。竜はこれに牛乳と卵入れてかき混ぜといて。あ、星奏はこっち来て」
「雫、こいつ厨房に入れて大丈夫か?」
「ここ厨房なんて大層なもんじゃないから大丈夫.....なはず?」
おい、なんで疑問形なんだ。
そして、なんで俺に本当に大丈夫?と言いたそうな顔を向けてくるんだ。
「ま、火は使わせないし大丈夫。切るとかなら普通にできてたし」
「お前を信じるがそのまえに火災保険に入っておきたい」
「保険会社は軒並み閉店中だよ」
「酷い言われようだな、私」
星奏は心外だとばかりに台所に入ってくる。
そして、雫から白身が入ったボウルと泡立て器を貰う。
「雫、何分立てぐらいだ?」
「そういう知識はあるんだね。6分立てぐらいでいいよ」
星奏はそう言って泡立て器で白身を混ぜ続ける。
「メレンゲを作るのか。それより6分立てとは?」
「簡単に言えばメレンゲの固さだね。6分立てはトロトロ落ちてあとが残らない程度って感じ」
そういう用語は星奏知ってんだな。
俺は星奏がボウルを混ぜる所を見ながら自分のやつも混ぜる。
雫は雫でボウルに何か白いものを入れ電動泡立て器を使う。
雫だけ楽しやがって。
俺はダマにならないように気をつけながら混ぜ続けていると星奏のメレンゲが完成する。
「メレンゲを竜のやつに入れていい感じになるまでかき混ぜて」
「いつになったら焼くんだろ」
「竜、料理ってのはこう言う地道なことをしないといけないんだぞ」
「だったらお前にピッタシなはずなんだけどな」
「私は大きく動く方が得意なだけだ」
俺は雫の言う通りにかき混ぜる。
いい感じになった所で雫を呼び確認させる。
「こんぐらいでいいよ。後は焼いて」
「よっしゃ、やっと焼ける」
「竜、できるか?」
料理できる自慢を女の子にしてマウントを取るという妄想をし続けたせいで妄想と現実をごっちゃにした俺だぞ。
カップラーメンとかを作る時にひと手間入れてやった感を出すために鍋で水を沸騰させることぐらいでしかコンロをまともに使ったことの無い俺だぞ?
「問題しかない」
「雫ヘルプくださーい」
「はーい。って竜も星奏も料理だけは出来ないなんて頼りないね」
雫はニヤケながらも手本を見せるために俺達の前に立つ。
そして、雫は置いていたお玉をボウルに入れパンケーキの素をすくってフライパンに入れる。
そして、ひっくり返すためにターナーを持ち俺達を見る。
「いい? メレンゲを入れたから厚みを出しやすいんだけど私達じゃ厚みを出した所で焼けないんだから少し潰して厚みをなくして平べったくするの」
雫はパンケーキの形を整えながら焼いていく。
「もうそろそろかなって思ったら底をちょっと上げて見て焼き色が付いてたらひっくり返す」
雫はターナーでパンケーキをひっくり返し反対側も焼く。
おぉ、すげぇ。
見た目も匂いも美味しそうなパンケーキだ。
未完成なのにこれって凄い。
「で、反対側も焼けたら完成。簡単でしょ?」
雫は焼けたパンケーキを皿に乗せてそれを俺達に見せつける。
「よし、やってみるわ」
俺は雫がやったようにパンケーキを焼く。
ターナーで上手いこと持ち上げれなくても何とかひっくり返す。
ドンドンと形になっていくのがたまらなく楽しかった。
俺はそのまま夢中になって焼き続けた。
「すまん、ちょっと焦げた」
俺は焦げ目がついたパンケーキをテーブルに置く。
「竜、イキってまだ大丈夫、こいつらはまだ大丈夫だって言うから」
「まぁ、フライパンは溶けてないしセーフ」
「普通は溶けないからね?」
雫は電動泡立て器で泡立てていたボウルを持ってくるとパンケーキの上にのせる。
生クリームだ。
雫、俺達に何も言わずに生クリーム作ってたのか。
手慣れてんなぁ。
「お好みでフルーツもどうぞ」
俺は買い物袋からミカンやブルーベリー等のフルーツを取り出す。
「じゃ、いただきます」
俺は自分で作ったホットケーキを食べる。
「お、美味し」
自分で作ったってだけでこんなにも美味しいのか。
これならお菓子作りだけじゃなくて料理にもハマりそう。
俺は美味しそうにホットケーキを頬張り続ける。
「.....星奏」
「.....雫、分かってる」
「「このままじゃ色々危ない」」