女の子としての日常1
「竜、ツヤツヤするの早いね」
リビングに行くと雫に開口一番に言われる。
「なんといか、感覚の違いが凄かったけど良かった。具体的には――」
「うん、それ以上言ったら全力で胸揉むから」
雫は怖い笑顔で手をワキワキさせる。
雫の全力か、俺死ぬな。
「ていうか、適応早いね」
「おいおい、今までどんな経験してきたと思ってんだ」
「引きこもってただけじゃないの?」
「それは1年前の俺……1年前!?」
そうか、ゾンビのせいで家を出なきゃ行けなくなったのは1年前だ。
「竜、分かるよ。星奏の結婚式にちょっと待ったして、人殺して、冤罪で刑務所行って、強いゾンビ倒して、変な夢見て、死にかけて、体入れ替わってだからね。もっと言うならちょっと待ったが今年の2月辺りだからね」
「この7ヶ月間濃すぎるだろ」
「そう考えれば女の子になった程度だしね。そりゃすぐ適応できるか」
程度って言っていいのか分からないがまぁその程度だしな。
「能力だって普通に使えるし問題はない」
「ま、せいぜいこちらの苦労を知るがいい。私達女性がどんな日々を送っているのかを」
「まぁ星奏の体に入れ替わってたから大体は分かるがな」
入れ替わってたおかげで女の子の体というのにはすんなり適応できた。
受け入れるのは若干遅れたけど。
「とりあえず、女の子っぽいことしてみたい。雫、何か案くれ」
「今のトレンドとしては生きるために体を売るとかかな」
「今すぎるな、1、2年時を巻き戻してくれ」
それトレンドって言ったらまずいやつだろ。
怒られても知らねぇぞ。
「それだったら……うーん」
「雫が高校生時代にやってた事でもいいんだぞ」
「……ゲーム……かな」
「お前みたいな陰キャに聞いたのが間違いだった」
「星奏に会う前はちょっとだけ陽キャだったから」
「あいつに影響されたのか、可哀想に」
こいつに聞いても意味なさそうだし女の子っぽいこと考えてみるか。
オシャレ、ダンス動画を投稿、映え写真投稿……ダメだオシャレ以外出来ねぇ。
「オシャレでもしてみるか」
「ま、いいんじゃない」
「服にあんま金使いたくないし髪型だけでもいじってみるか」
「ヘアゴムとかヘアピンなら貸せるよ、あと必要なものと言えばヘアアイロンとヘアオイルかな」
「雫、まずは無難な三つ編みから頼む」
「雫ちゃんが無駄パイ男のために頑張ってあげますよ」
雫は俺の後ろに立ち髪を触り始める。
すると雫は目を細めながら髪をいじる。
「竜、髪ちゃんと洗ってる?」
「失礼だな、洗ってる」
「予洗いは?」
「予洗い? 昨日は適当にジャーっとしただけだけど」
「舐めてんの?」
雫は俺の手を引っ張りながら風呂場に連れてくる。
「服脱げ」
雫は強引に服を脱ぐことを強制してくる。
「……エッチなことをされるのでしょうか?」
俺は鼻の穴を広げ息を荒くする。
百合に間に挟まる男は死ねばいいけど俺は今女だから百合を楽しめる。
「んなわけないでしょ。この神講師雫様が髪洗ったげるから」
「あ、うん。……うん」
俺は分かりきっていたのにやるせない気持ちを抱えつつ服を脱ぐ。
雫は裾をまくり上げ入ってくる。
「まず、こんなに長いんだから予洗いは最低でも5分ぐらいはしないと。水温は38度くらいね」
雫はそう言って俺の髪にシャワーを満遍なく当て続ける。
「え、めんど。切ろうかな」
「女の子を楽しむなら長い方がいいでしょ」
「雫はそこまで長くないじゃん」
「私は利便性を求めたからね」
じゃあ星奏は利便性重視のくせに髪だけはオシャレを求めたんだな。
心は女の子ってか。
「次はシャンプー、これはちょっと泡立ててから頭皮だけを洗う。毛先はとかは適当でいいから髪をまとめて洗ったら根元を狙って洗う。そして、よく流す」
雫はまた俺の髪にシャワーを当て満遍なくながす。
こいつ、慣れてるな。
もしかして星奏、一緒に入った時雫にやってって頼んでんのかな?
「トリートメントは髪をしぼって水気を出してから付ける」
雫は俺の髪をしぼり水気を出してからリンスーを付ける。
「リンスは頭皮にはつけないようにして毛先まで丁寧に付けてね。それで、付け終わったらしばらく放置」
「女の子って大変だな」
「長髪男性もいるから女の子だけって訳じゃないけど普段男達が欲情してる長髪は綺麗にするの大変なんだよ」
「これからは感謝を持って欲情するわ」
「そうしてあげて」
しばらく経ち、雫が俺の髪にシャワーをかけ風呂場から上がる。
すると、星奏が目の前で歯磨きをしていた。
星奏は俺たちをしばらく見つめる。
「……」
星奏はすぐに吐き出し軽く口をゆすぐ。
「お風呂場、元男と女の子、密室、何も起きないはずもなく」
「頭の中ピンクすぎだろお前」
「こういう勘違いを否定するために2人揃って違うから!ってハモるもんじゃないのか?」
「2人とも裸ならともかく裸は俺だけだからな。ていうか、ここからなら会話聞こえてただろ」
「あ、バレるか」
俺は髪を適当に拭こうとするがそこでも髪講師の雫さんが待ったをかける。
「タオルは擦るんじゃなくて吸わせることが大事、擦ったら傷付くでしょ」
「あ、はい」
俺は雫の言う通りに髪にタオルを押し付け水気を吸わせる。
その間に雫はドライヤーのコンセントを電源に刺す。
「はい、あとは乾かすだけ」
「これもワンポイントアドバイスが?」
「根元を乾かしつつ乾きにくいところを重点的にすればいいぞ」
星奏が急にアドバイスをくれる。
「彼女は私が育てました」
「髪の洗い方については私、そこまで雫に聞いてないんだがな」
髪講師が嘘ついた。
これは信用問題に関わるな。
髪も乾かし終わりやっと解放される。
「男ってこういうとこ本当に楽だったなぁ」
「本当にそうだよね」
俺の体を経験した雫がうんうんと頷く。
星奏は俺達の話についていけず浮かない顔をする。
「あれれ? 異性の体を体験してない星奏さんじゃないですか」
「ちょっとだけは体験したからな」
「今の時代、異性の体への理解は大事だよね?」
ニヤニヤと俺と雫は星奏を煽る。
星奏は色んなことが出来るやつだから煽れるとこなかったけどここだけは煽れるぜ。
「平民が風情が」
「お前ってたまに貴族なこと思い出させてくるよな」
「権利の乱用はんたーい」
俺達はワイワイしながらもそれぞれ場所を移動する。
星奏は朝ごはんを食べるためにテーブルに俺は適当に座って雫はその後ろに膝立ちする。
「三つ編みかぁ、竜ならメガネかけて1つにまとめて三つ編みすればいい感じに図書委員女子の陰キャ感が出るね」
「全国の図書委員女子がお前に殺気を送ること間違いなしな発言だな」
「じゃあ文芸部女子」
「おいおいこいつヘイト買いすぎだろ。チートだからって精神的な攻撃には耐えれんだろ」
明日家の前にゴミ袋が置かれてたらさっさと雫を差し出そう。
雫は三つ編みを編み終わり俺に鏡を見せてくる。
「おぉ、イメージ変わったな」
「大人しめって感じになったね」
「こういうやつが1番――」
「エロ漫画の話はやめときましょうね」
こいつ、なんで俺がエロ漫画の話をすると分かったんだ。
「とりあえず、今日はこれで過ごすわ」
俺は鏡をニヤニヤしながら見る。
いい感じにイメチェンが出来てなんか嬉しい。
普通顔で顔に個性がそこまでないからか髪型とかで個性変えても似合いやすいな。
こうなったら色々と試してみたくなるが今日はこれで過ごそう。
ニヤニヤしながら鏡を見て前髪を触る俺を雫と星奏はじーっと見つめる。
「「進行早」」