チート無双2
私は正しい人間だと思っていました。
人道に反する事をなくし善の道だけを行く人間だと思ってました。
でも、私は人を殺した。
人をゾンビにし、人としての思考や感性、生き方その全てを壊したんだ。
そんなの人を殺すこととなんら変わりはない。
今でもあの行いは間違ってないと思える。
あれは世界の救われないものをなくすという大義のためであると思っている。
だから私は正義だ。
そして正義は必ず勝つ。
正義のために犠牲は必要なんだ、そう自分に言い聞かせ、世界を救うために足を進める。
私は一体何をしているのだろう。
高校生程度の子供相手に殺し合いをしかけ返り討ちに合いそうになってる。
これは本当に私が信じた正義なのか?
人ためを思ってたやっていることをこんな自分達のことしか考えてない子供達に止められるようなものなのか?
果たして正義とはなんなのか?
獣みたいな姿になった少女、確か南根雫といったか。
この子はさっきまでは何も力を持たない無力な子だった。
だが、今は力を手に入れ私達が生み出した理不尽に対抗している。
能力の使用せいでボーッとなっている頭でもチラッと見える彼女の魂。
彼女はただ友達である2人を助けたいがために力を求めていた。
こいつはたった2人のために私を殺そうと言うのだ。
自分勝手にも程がある。
私が救おうとしてるのは全人類だと言うのに。
人類ゾンビ化計画。
これさえ成功すれば世界は救われる。
理不尽な思いをする人もいなければ絶望に虐げられる人もいなくなる。
その代わりに誰も幸せになれないけれども。
でも、それでもいいんだ。
誰かの不幸の上でしか成り立てない幸せをあたかも当然のように受け取る現代社会を壊すにはこれぐらいしないといけないんだ。
だというのにこいつらは自分勝手で自分大好きで自分が良ければそれでいいと思っている。
……いや、それは私も同じか。
私は子供の時に貰ったありがとうが嬉しくて善の道を歩んできたんだ。
歩み続けるうちに自分を律しすぎていた。
そうか……俺は。
元から自分勝手なやつだったんだ。
「それだったら、最後まで勝手にやらねぇとなぁ!」
俺は腕を強化しつつ拳を突きつける。
南根雫はいとも簡単に流し腹に拳を入れる。
そんな強化してない攻撃で怯むか。
俺が生きてきて見てきた絶望はこんなんじゃねぇぞ。
社会的に死に、精神的に死に、死にたくても生かされるそんな理不尽だ!
「エンハ……って長ぇな。腕!」
南根雫は容易に受け止めるがその隙に脚を上げる。
しかし、完全に死角だった脚の攻撃も容易く止めて体勢的に何も出来なくなり南根雫は俺を足で突き飛ばす。
「ナイスバッティング」
飛ばされた先には構えを取った藤原だった藤川星奏が立っている。
俺はそのまま投げ技で1本を取られ浮かせていた2本の剣を俺に向かって飛ばす。
だが、俺はその剣を両手で正面から突き刺されながらも受け止める。
これ大剣だから、腕がから剣身が出てるな。
だったら。
俺は動かなくなった剣を抜かずに藤川星奏の足元を見る。
そして、まだ浮かせていた刀を手に取り俺に斬りかかろうとした藤川星奏に腕を動かして斬りつける。
藤川星奏はギリギリで反応し足を少しかすっただけだった。
まぁいい。
俺はすぐさま立ち上がり藤川星奏に斬りかかる。
ゾンビの再生能力ですら貫通してしまうほどの情報を得られるソウルアイのせいでもう鼻血が止まらない。
だが、これでいい。
俺の自分勝手な欲求を満たせるならこのままでいい。
俺は藤川星奏の動きを読みながら腕ごと剣を振り回す。
当たりそうになると見えない壁が出来るから厄介だがその動きをする時の魂も見慣れてきた。
すると、南根雫がやってきて俺の相手が変わる。
「足!」
俺は地面を蹴り後ろに退く。
そして、柄頭を南根雫に合わせ魔法で沢山の石を1つの場所から出し続ける。
そして南根雫はライオンの見た目をした脚で素早く避け続け確実に近づいてくる。
「石!」
俺は魔法で沢山の石をまばらに撃つ。
それすらも南根雫は剣で弾き飛ばす。
その間に南根雫の後ろでビリビリと電気を放電する音を出してる高野竜は南根雫越しに俺に向かって手をかざし口を開く。
「神雷、神の執着」
高野竜が出した電気魔法はクネクネと曲がり俺だけを狙った攻撃になる。
俺はそれに当たり体が麻痺し動けなくなる。
「竜もちょっとはネーミングセンス付いてきたんじゃない?」
「いやいや、やっぱり俺のシンプルなやつの方がいいに決まってるだろ」
「漢字だけで作るってのもいいかもな」
その隙に南根雫は談笑しながらドンドンと近づいてくる。
俺はこの間も魔法で石を出し続ける。
南根雫は俺が魂を見て行動を先読みして魔法で狙ってもそれすら避ける。
まるで周りの動きが止まって見えてるかのようだ。
俺の麻痺が少し回復し動けるようにはなった所で南根雫が殴りかかってきたのでサッと後ろにかわすと熊の手を大きく開けて鋭い爪で俺の胸元を斬り裂く。
「再生っするってのに。嫌がらせか?」
「当たり前でしょ」
俺は土魔法で棘状の武器を作り出す。
「そっちがその気なら私も剣で……剣で……あ!変身した時に落としたの気づかなかった」
「あの剣ワザと落とした訳じゃないんだな。サイコキネシス」
俺は武器がなくて焦ってる南根雫の隙をつき最速で棘を突き出す。
南根雫はその攻撃を肘で受け止め藤川星奏の能力で剣を持ってこさせていた。
「あ、いい技思いついた」
南根雫は私から離れすぐさま剣を取りに行く。
この魂の動きはなんだ?
あいつの翼が動いて何か俺に対しての攻撃をするってとこしか読み取れない。
もう魂の声まで聞く余力はない。
決めるなら次が最後。
あの手も考えておくか。
南根雫は剣を両手で挟むと背中に生やした翼をはためかせ高く高く上空へと飛んでいく。
そして俺に向けて剣を突き出し前に倒れるような姿勢をとる。
そして片方の翼だけを動かし一方向に回転する。
何となく分かった。
突進攻撃だな。
なら、避けるだけだ。
そんな単純な攻撃を避けれないほど俺は甘くないぞ。
ん、なんだ? 視界がぼやけて。
そろそろ時間か。
クソ、もう体もフラフラだ。
まともに動けねぇ。
これを受け止めるしかないか。
これを受け止めれば隙ができるその間に殺せば計画の邪魔にはならないだろ。
「さぁ、来いよ!お前のその自分勝手さを俺に見せつけろ!」
「自分勝手上等。私は私達のこれからは見続けるだけだ!」
南根雫の回転は最高潮に達し落下し始める。
位置エネルギーは運動エネルギーへと変わり速度が上がり続ける。
そして俺の方向へ体の向きを変え突撃する。
最速の回転と最速の飛行。
2つの運動力が破壊力へと変わり俺の体にぶつかる。
「固くなる!」
体内の魔力がゴリゴリと減らさないと耐えれないほどの攻撃力。
だが耐えれない訳じゃ――
「……っち分かった。後で文句言うんじゃねぇぞ」
高野竜が舌打ちをうちこちらへ手をかざす。
「ファイアストーム」
南根雫越しに放たれた魔法は南根雫の回転力に拍車をかける。
なくなりつつあった回転がまたも息を吹き返す。
そして火魔法も混じっているからかその回転に熱気が宿り多量の魔力でしか防げない一撃必殺の技へと進化を遂げる。
「バードストライク!」
俺の残り魔力では防げなくなり俺はそのまま胸の大半と腹を貫通される。
ゾンビだから体は再生する。
けど、残り魔力量的に継戦は無理か。
だったら。
俺は腕に刺したままの剣を取り高野竜の足元に向かって投げる。
藤川星奏はそのまま俺に向かってきて刀を構える。
俺はもう死ぬと理解した上で口元をニヤッとさせる。
南根雫はさっきの攻撃の勢いでまだ後ろの方にいる。
そして誰もが決まったと思って油断してるこの瞬間。
俺はニヤッとした口を開く。
「ソウルチェンジ」
俺は高野竜と入れ替わりすぐに足元に投げた剣を手に取る。
藤川星奏のその驚いた顔、もう刀抜いて殺しにかかってんもんな。
その体にはお前のお友達が入ってるってのに。
そして、高野竜。
理不尽に殺される思いを知りやがれ。
「グッバイ世界」
俺が首に剣を刺そうとした瞬間、南根雫が俺の体に触れていた。
「無効化」
その瞬間俺はさっきまでの絶望的な状態の体に戻される。
「理不尽だな」
「あんた達が私達にくれてきた物だよ。せいぜい味わって食べてね」
「食う前にこんなのゴミ確定だわ」
俺はそのまま藤川星奏に首を斬られそのまま地面に頭が落ちる。