デュエル
俺は剣を2本とも浮かせ戦闘態勢を取る。
雫と星奏も剣を構え戦闘態勢を取っている。
「あいつ倒せば元の体に戻れるんだ」
「もうこの体も終わるんだって思ったらなんか寂しくなってきたね」
「俺の人質を早く返せ!最近は寂しくて夜は眠れないんだ」
俺は目の前の枢機卿に向かって必死に口を開く。
「……私、人質を取った覚えはないんですけど」
「雫に取られてんだ。その取られてる原因はお前なんだし返せよ!俺の息子!」
「子供取るなんて本当にあなたのお仲間ですか?」
「「「え?」」」
嘘だろこいつ。
息子の意味知らないのか。
「でも、私は南根雫に息子を人質に取れとは言ってないですよ? 原因が私というのは少し意味がわかりません」
こいつ、31歳ぐらいの見た目しててピュアなのか。
本当に男か?
「いや、息子っていうのは……あれだよ。……その……ち――」
「ち○こだよ!」
俺が言うのを躊躇っていると雫が勢いよく言う。
「竜、男の癖に何言うの躊躇ってるの」
「いや、なんか恥ずかしかった。前は言えたはずなんだけどな。あれ?」
雫は俺に呆れたような口調で言ってくる。
俺はなんで恥ずかしいのかさっぱり分からなかった。
「私の体に適応しすぎたんだろ。私も女の子だからな。下ネタを言うなんて普通躊躇う」
「え、私も女の子なんだけど」
「雫は逆に竜の体に適応しすぎたんだろ」
雫が口を開けてポカンとする。
俺達の会話にそっと枢機卿が入ってくる。
「……まぁ、その。はい、すいません。まさか、恥部を人質に取るとは思わなかったのです。私の思慮が浅かったです」
「お前のせいでどれだけ雫にこき使われたか分かってるのか!」
「別にこき使ってないけどね」
確かに脅された位しか記憶にないな。
「とりあえず、高野竜を殺せとの命なので」
枢機卿はなぜか戸惑いながら戦闘態勢に入る。
前は捕獲するのが命令って聞いたのにもう殺すのが命令になってる。
ちょっと暴れすぎたか。
「全身強化」
枢機卿がそう言うと瞬く間に前に出ていた雫と星奏に近づく。
光った瞬間にはもう放たれていた1太刀を星奏は剣で受けるが雫の体で力がないからか簡単に吹っ飛ばされる。
雫が剣を下から切り上げると枢機卿は鋭い目つきで雫の左の横腹を見つめそこ目掛けて回転蹴りをする。
雫は気づかなかったのか驚いた表情で蹴られぶっ飛ばされそうになるが能力で吹っ飛びそうになった方向とは反対の方向に力を働かせる。
能力で抑えようとした力が大きすぎたのか吹っ飛びそうになった方向とは反対方向の力が地面に向かって進み雫は地面に倒れる。
そして、枢機卿はそのまま俺に向かって来ようとする。
俺は2本の剣で俺と枢機卿との最短距離を塞ぎながら魔法でちょこちょこと攻撃を入れる。
ライトニングで動きを鈍らせ、土魔法で痛覚を刺激し、火魔法で恐怖感を煽り、水魔法で本命の攻撃を入れる。
風魔法は土や火の補助だ。
ライトニングを当てたからか動きは鈍くなっていき俺でもちょっとは枢機卿の動きを目で追えるようになっている。
「おいおい、今までのやつらみたいにちょっとは煽ってきたらどうなんだ? 敵キャラの共通点ぽくていいだろ。主人公の俺に煽って負けるなんて」
枢機卿は俺の軽口をまるで聞こえてないかのように真剣な表情をしている。
こいつ、真面目ちゃんか。
真面目ならこんなガッチガチの敵キャラしてんじゃねぇよ。
「竜も煽ってたら死んじゃう…よ!」
雫が枢機卿に能力で加速させた1太刀を腹に斬り込むが枢機卿は腹で剣を受け止める。
こいつ、火で恐怖感煽ってたってのに全く動じなかったのは恐怖感に強いからか。
雫の攻撃は不意打ちだったが剣は腹の真ん中で止まる。
雫は必死に抜こうとするが枢機卿が手で抑え遂には雫から剣を奪い取り投げ飛ばす。
「まずい。ソニックブロウ」
雫は能力で剣を追おうとするが飛んだ瞬間に足を捕まれ地面に叩き込む。
俺の体を壊されたらあいつを殺して元に戻った時一体どうなるんだ。
……まさか
「腕強化」
「サイコキネシス」
枢機卿が雫に追撃を入れようとした所を俺が慌てて雫をどこかに浮かばせ飛ばす。
今、誰かが死んだ場合その体を使っていた人の意識がなくなりそいつが死ぬ。
その後に枢機卿を無事倒せたとしても元の体は死んでるから戻った瞬間に死ぬ。
意識として死んだやつと体が死んでたから死んだやつの両方が死ぬ。
この戦い、当たり前のことだが1人でも死なせたらまずい。
今までよりも被害が確実に大きくなる。
「手先の小細工をしてる暇なんかないな。最大火力だ。アトムファイア!」
枢機卿は冷静に水で盾を作る。
ある程度の量の水なら蒸発させれるアトムファイアですら貫通できない。
だけど、俺に気を取られてる今がチャンスだ。
吹っ飛ばされてた星奏が後ろから必死に走ってくる。
走って勢い付いた星奏は剣を構え勢いを生かしたまま枢機卿を斬る。
枢機卿はギリギリで首だけは避けたが左腕を切り落とされた。
ゾンビだからすぐに再生するだろうがその間は全力を出し辛かろう。
雫も起き上がってる。
一気に畳み掛けるか。
俺達は顔を見合せる。
俺はアトムファイアを枢機卿の後ろに動かしそこから枢機卿に向かって直線的に向かわせる。
枢機卿の意識を向け隙を作ると星奏は重心を下に置くような姿勢で剣を下から上へと浅く斬りあげる。
星奏とアトムファイアで頭がいっぱいになったであろうタイミングで雫が能力で最高速度を出し首に向けて斬りつける。
やった……危ない死亡フラグを言いそうになった。
「へ!?」
雫の体になってる星奏が急に声を出す。
枢機卿の方を見ると枢機卿の傍には倒れてる俺の体が。
外傷はさっきまでの勢いのまま倒れたからか付いたかすり傷と枢機卿の攻撃を受けた跡だけだ。
肩が上がったり下がったりしてる所を見るに呼吸はしてる。
ただ、もぬけの殻というか何も入ってないというか。
俺の体は力が抜けたように倒れている。
「ソウルユニオン」
枢機卿がそう口にすると周りが暗くなりモニターが現れるとさっきまで星奏がいた所の視点と一致する。
さっきまで俺が使ってた星奏の体が倒れてる。
「あ、竜も来た」
雫の声がし声がした方を見ると雫がいた。
「どこだここ? 天国?」
「私達が天国に行くわけないでしょ。でも、このモニターを見た感じ地獄って訳でもないね」
《竜も来たのか?》
星奏の声が頭全体に響いてくる。
そういえばさっきソウルユニオンと唱えていたな。
それが技名だとするとソウルは魂、ユニオンは合体だから……
「同じ体に複数の魂を入れる技ってことか。だとするとあいつの能力の1つは魂を操る能力って所だろうな」
「なにそれチートじゃん」
雫が地団駄を踏む。
「いやそうでもないな。魂を合体するという強力な技があるなら虫とか簡単に殺せるような生き物に魂を移すはずだ。そうすればもう何も出来ないからな。でも、そうしない。多分人間の魂を虫に移す、もっと言うなら人間の魂を動物に移す事が出来ないんだ。多分種族が違うと無理なんだろう」
これはただの推測だ。
合ってるかどうかは分からない。
だけど、俺ならそうする事をしていないんだ。
いくらピュアとは言え生き死にがかかった殺し合いで生に貪欲にならないわけが無い。
その上、俺達は雫の体とはいえ人間の体を使える。
「勝ち目はまだまだある」
俺がモニターを見ると枢機卿の剣の一撃一撃が重いからと雫の体が弱いから星奏は上手いこと受けることが出来ずに押し負けている。
「……勝ち目は……あるか?」
「筋トレって大事だね。前までなら多分あんなの1回受けたら隙だらけになってたよ」
《筋トレしていて良かった。本当に》
星奏、お前は目の前の敵に集中してろよ。
そんなことより、
「星奏、部分的に俺達に主導権を握らせることってできるか?」