厨二病は止められない
俺はイリに向かって行く人間を見る。
人間はブラウニー達の攻撃をかわし、受け、時には少しばかしの反撃を加え着実にイリがいるところに向かう。
嫌われ者の俺は何もせずただじっと見つめる。
そして、イリがいなくなった未来を考えてしまった。
きっと、なにもしなかった俺は一生後悔するだろう。
ブラウニー達は能力持ってないんだし仕方ないと言って慰めるだろう。
だけど、俺はイリのことを死ぬまで考えてそして死んでからも後悔する。
死なない体でも血を抜かれれば意識が失われ体が上手く機能しなくなる。
俺達の血液型とかはよく分かんないから気をつけてと雫様に言われたことを思い出してもなお、体は動かない。
嫌われてる俺が助けに行ったところであいつは嫌な顔をするだろう。
俺はそんな顔をされてまであいつを助けてやるなんてそんなお人好しならぬお鳥好しではないんだ。
そう自分に言い聞かせてもなおきっと後悔すると何度も何度も頭の中を巡る。
あいつは俺の事が嫌いだったのかもしれない。
だけど俺はあいつのことが好きだったんだ。
俺の妄想を「まだ?」といいあくびをしても聞いてくれていた。
ドムもブラウニーもそうだ。
そんなやつらが悲しむのようなことはしたくない。
俺は翼をパタパタとはためかせる。
俺が行ったところで何ができるかは分からない。
何も出来ないかもしれない。
いや、何も出来ない。
そんな非力で嫌われてる俺だけど仲間と思ってるやつを見捨てるなんて出来ない。
俺は一生懸命翼をはためかせ猛スピードでイリがいる所に向かう。
しかし、タイミング悪くブラウニー達が一斉攻撃を仕掛けてる最中だった。
だが、俺は立ち止まることなく突き進む。
《チニ!?》
皆は俺が前に出たことに驚くが攻撃の手を止めれば反撃を食らうので攻撃し続ける。
俺はブラウニーの岩落としを岩の間を通ることで回避し最初に貰った1発が痛かったのか弱々しく道路の標識?を噛んで鞭みたいにしてるのもかわしドムが人間の近くで飛んでる邪魔にならないように進み続ける。
「まずい!」
人間は俺に気づき止めようとするがブラウニーとサンの攻撃の真っ只中にいる俺を捕まえることは出来ないみたいだ。
ブラウニー達の攻撃範囲から抜け人間も抜けようとするがその前に俺はイリがいる場所に着く。
《お前、なんで――》
《うるさい》
俺はイリを無理やり足の爪を刺し込ませ持ち必死に羽をはためかせる。
《ちょっと痛い》
《贅沢言うな》
重い。
けど、俺が運ばないと。
俺は人間の視界に入らないように建物の屋上付近にまで上がり建物のを遮蔽物にしゆっくりと飛ぶ。
落ち着いたのかイリはゆっくり口を開く。
《……お前も俺と同じになってたかもしれないんだぞ》
《うるさい》
《!お前も血を抜かれて意識がなくなっていたのかもしれな――》
《うるさい!お前らは俺の事が嫌いなんだろ。そんな俺が死ぬのとお前が死ぬのとじゃ俺が死んだ方がいいんだ》
《別に死ぬわけじゃないんだから――》
《死ぬからな》
俺はゆっくり飛びながら口を開く。
《最近雫様は強くなられてる。それは疑いようのない事実だ。だけど、雫様はあの人間の攻撃1発あたれば良くて骨折で最悪死ぬ。そんな時に雫様を守る俺達が意識を失ってたらどうする》
《それはそうだけど。星奏様とかもいるんだし》
《でも、いつでも召喚してもらえるのは俺達だ。あの人達は離れてたらすぐには駆けつけれない。その一瞬の差で雫様は死ぬんだ。雫様が死んだ時に血を抜かれてたら俺達は出血死する》
《出血死? なんだそれ》
《ようは血がなくなって死ぬってこと》
最近聞いた言葉だから深く聞かれても困る。
《お前は俺と違って能力持ちだ。これから強くなるだろ。そんなお前が死なせる訳が無いだろ》
《……チニ、あの時――》
イリが改まって口を開こうとすると人間が飛んで来た。
「はぁ、疲れました。こうなったらお前だけでも」
人間はすごい勢いで地面を蹴り俺たちの所に向かってくる。
そしてイリを掴むと無理やり俺から引き剥がす。
爪を刺し込ませてたから血が一気に出る。
そして人間はイリを持って無理やり飛び降りる。
「この高さからならぐちゃぐちゃになって復活した時には出血多量ですね」
助けないと。
俺は何も考えずに人間を追いかける。
何も出来いないことを忘れて。
やばい、どうしよう。
あとちょっとしかない。
他のヤツらはまだ状況をのみこめてないのか下から見ている。
今この状況で頭を使えれるのは俺だけか。
俺の考えれることなんて俺かイリが何かしらに覚醒するなんていう現実味のない俺が好きな妄想だ。
でも、もしこの場で助けれる何かがあるとしたら、覚醒する道しかない。
俺はイリ、お前を助けたい。
皆に暗い顔をして欲しくない。
神様、お願いです。
せめて……いや、俺に叡犂のように魔法を使う才だけでいいから俺に力をください。
俺は叡犂が魔法を使っていた所をイメージする。
火の玉のような物を飛ばしていた俺もあんな感じのを今ここであの人間に向かって飛ばせたら。
俺は必死に、必死にイメージし祈った。
すると、俺のイメージ通りに火の玉が出てきて人間に向かって飛ぶ。
「動物が魔法? いや、あのクマも使っていた。少数だけどいるみたいですね」
俺はそのまま同じようにイメージし続ける。
人間はその攻撃を耐えつつも服が燃えて焦り始める。
服が燃えた部分からはほのかに甘い匂いがする。
《チニ!俺に!》
俺はイリの言う通りに火の玉をイリに向かって飛ばす。
火の玉がイリに当たりイリの体が光る。
「熱っ」
熱かったのか人間はイリを手放す。
イリは炎を体に纏わせたまま上に飛ぶ。
《フェニックスみたいだ》
《俺も不死鳥だからな》
イリに着いていた火は徐々に消えイリは俺の傍に来る。
《あ、イリが無事だ》
《良かったです。チニ、助かりました。あなたも魔法を使えたんですね》
ブラウニーやドムはやっと固まっていた頭が動く。
《お前らがボーッとしてるから俺がこんなに大変な思いしたんだぞ》
《急に人間が建物の屋上に行って向かおうとしたら急に落ちてくるんですもん》
ブラウニーは頭がいい方と思っていたが結局はそこら辺の鳥だ。
カラスの方がまだ賢い。
《力の封印は解かれたのか?》
イリは俺に向かって冗談っぽく話しかける。
《勿論だ。ゼウスなんて殺してやったよ》
神に祈っていたことは隠しておこう。
《じゃ、ラグナロクを生き残った伝説の力見せてもらおうか》
イリは俺の妄想にのってくる。
僕は嬉しい気持ちを隠しかっこいい感じの声をイメージして口を開く。
《了解。人間風情、神の力で一撃だ》
俺は人間に向かって口を開き魔法を使った時と同じイメージをする。
《ドラゴンブレス!》
火の玉を開いた口の前で作り人間に向かって飛ばす。
人間はスっとかわし俺を睨みつける。
イリは笑いをこらえながら口を開く。
《……ドラゴンブレス》
《……もっとかっこいい名前にしとけば》
《次は当ててくれよ》
イリはそう言って前に出る。
《わちらの準備できたっぺ》
《俺様達もだ》
《サンは傷ふさいだだけだから退け》
《俺様の活躍はどうするんだ。雫様に報告できるのがなくなるではないか》
《産まれたての小鹿みたいな足でどうするんですか》
《小鹿? あいつらは美味いんだ。食いたい》
《《動物園育ちがかっこつけんな》》
無鍬達は準備が終わったのか人間にどんどんと近づく。
サン達はサンを無理やり引っ張りながら下がっていく。
クロはどこ行ったのか分からん。
雫様達が来るみたいだし迎えに言ってるのかもしれない。
「……動物に負けると思っているんですか?」
人間はまだまだ余裕そうな顔で俺達を見る。
《《《《《《《《《《もちろん!》》》》》》》》》》