厨二病
《あぁぁあぁぁ、聞こえるな?》
僕は常吉から念話が来たので耳に手を当てて口を開く。
《お前、僕に何か言うことあるだろ》
《言うこと? あぁぁ、八幡が死んだことか?》
常吉は淡々と言葉を繋げる。
《あれは仕方ない事故だった。私にも助けられる範囲があるんだ。まぁ仕方ない仕方ない》
《八幡じゃない、谷和原だ》
《そうだったか? まぁいい》
僕は殺気を抑え込み話しを続ける。
《お前は逃げればいいとかいざとなったら助けるとか言ってたよな》
《言ったか? すまんな、最近ボケが進行しててよく分からん》
《しらばっくれんなよ》
《あぁ、私は確かこう言ったんだ。気をつければ死ぬことはないと。つまり死んだのはお前の部下が気をつけてなかったからだ》
《じゃあ、お前はただ見てただけなのか?》
僕は殺気が漏れ始める。
《ただ見てた訳じゃない華蓮の動きを観察してた。あの女、Fを目立たせるような動きをすることが多いな》
《そんなやつの情報はいらない》
《もっと情報が欲しい》
《部下はやらない》
《いいのか、それで作戦が失敗しても》
僕達が今やってる作戦。
世界の終わり作戦。
人類を皆ゾンビにするまさしく世界の終わりとしか言えない光景を生み出す作戦。
失敗したら……
《……分かった。だけど――》
《では。あ、そうだ。1回だけ実際に戦いたいからゴーサイン出してもいいぞ》
《そんなことより――》
《じゃ、する時は念話でな》
そう言って常吉は念話をきる。
……ごめん皆。
俺はチニ。
昨日と同じ様に皆でゾンビ相手に能力を使って戦う練習だ。
俺だけ能力ないけど。
まぁ、俺に能力がなくてもイリ達にとってはどうでもいいんだろうな。
俺のことが嫌いなんだから。
俺は皆が戦ってるところをただ遠くから眺める。
皆強くなってるな。
能力手に入れたからもあるんだろうけどそれにしてもだ。
俺がいなくても別にいいだろうしいた方が迷惑になりそうだ。
俺はこいつらとは距離を取った方がいいのだろうな。
雫様の眷属ではあるから会わなくなるなんて事はないだろうがあの人に頼られる事もどうせないだろうし。
せっかく長生きできるんだ、そうだな外国でも見に行こうか。
他の種族のやつらに外国の話を聞いたからな。
気になるっちゃ気になる。
ソロで外国に行きゾンビを倒すすべを持ってるからそのまま無双ってのもありだな。
俺の必殺バードストライクでも食らわしてやる。
そうしよう。
もう俺がこいつらといる必要なんてない。
俺以外のヤツらはゾンビ相手に戦っていた。
ドムやクロが前に出て注意をそらし大鎌が先陣切ってゾンビ達を殴る。
そしてその少し後ろでイリやサンが能力使って攻撃を仕掛けブラウニーは上から石を落とし大きくしまくる。
更にその後ろで無鍬は暇そうにして叡犂は指示を出しながら魔法を使って援護する。
俺も魔法が使えたらな。
ていうか、無鍬は能力持ちいないと役目ないから楽そう。
俺はそう思いながら飛び去ろうと翼を広げると奥の方から1人の赤い服を着た人間が出てくる。
イリ達も気付き少し距離をとる。
襲って来たとしても人間が負ける未来しか見えないな。
俺は翼をパタパタさせると人間は口を開く。
「あなた達が南根雫の眷属ですね」
こいつ、雫様の言ってた敵だな。
殺してやりたいが俺にそんな力はない。
「では、死んでいただきます」
人間はサンを殴り一発でダウンさせる。
「なるほど、傷が治るのは死んだ時だけというのは本当みたいですね。ていうことは気絶させればいいと言うのも納得です」
サンがやられたことに怒りを覚えたのかゾナとソレイが立ち向かうがサッとかわされる。
そしてゾナ達は何やら戸惑ってる様子だ。
《僕達》
《私達》
《《入れ替わってる》》
急に体が入れ替わって戸惑ってるんだな。
……助けたいけど俺には何も出来ない。
どうせ、行ったところで足を引っ張るだけだし。
大体嫌いな俺の助けなんて欲しくないだろ。
「隙だらけです」
ゾナとソレイに1発ずつ拳を入れ吹っ飛ぶ。
無鍬達も戦い入る。
無鍬達はかなり善戦する。
大鎌が相手の攻撃を受け持ち叡犂がその隙に魔法を打ち込んでる。
「チェンジ」
人間がそう言うとさっきまで攻撃を仕掛けてた大鎌の手が止まる。
体が入れ替わってしまったんだろうな。
《わえが大鎌になってるけん!?》
叡犂は驚いたまま固まり人間に殴り飛ばされる。
《大丈夫っぺか?》
《私が助けに行きます》
無鍬が叡犂を助けに行こうとするのをゾナになったソレイが止め叡犂の所に向かう。
百獣王とはよく言ったものだ。
もう入れ替わった能力に順応している。
本当、しっかりしてるな。
《……おらが叡犂になってる……どうすりゃええんだべ?》
《1回下がるっペ。すまんがわちらは体勢を元に戻したいから下がる。後よろしくっペ》
《俺様分かったぜ》
サンがそう言ってそのまま噛みつきに行く。
そして呆気なく返り討ちにされる。
サンに続いてイリ達も前に進む。
ブラウニーが上から小石を落とし大きくしイリがその岩みたいに大きくなった石に触れる。
すると、大きな鳥のような形になって落ちる。
人間はそれをすかさずに避けるが鳥みたいな石は少し飛んでは落ちて飛んでは落ちてを繰り返す。
ドン!ドン!ドン!という音だけが地面に鳴り響く。
《おい、なんかやばいことになってるけど大丈夫か!?》
雫さ……じゃない星奏様が俺達に念話で話しかけてくる。
《その服……もしかして枢機卿か。すぐ助けに行く》
《雫様に言っておいてください。私達ならやれます》
《そうだ、俺様達ならできる!》
《私も何とかやりますですので》
《僕も!》
《おららもすぐに体勢戻すから》
《絶対になんとかするっぺ》
皆が一斉に大丈夫だと懇願する。
《……ダメだ。助けに行く。お前らは逃げろ》
星奏様は俺以外のヤツらに命令して逃がそうとし準備するためか念話をきる。
命令されなかったし俺はもう本当に用済みなのかな。
俺以外のヤツらは体が勝手に動き逃げようとしているが無鍬がすぐさま触れて皆また立ち向かおうとする。
その隙に鳥みたいな石を人間がぶっ壊す。
「やはりやっかいですね。この場で始末します」
人間はそのままイリに向かって行く。
人間がイリを殴ろうとするとドムが庇って殴られる。
あいつドMなのに能力によって更にドM性能上がったんだよな。
《気持ちいいけど愛がない。仕事としてやってる感しかないぞ》
《ドム、助けて貰って言うのは失礼だと思うんだがキモイ》
ドムがキモイのは前からだ。
そして俺はそんなキモイやつよりも嫌われてる。
ははは。
《あぁ、翼が痛くて広げられない。骨折れてる。でも、気持ちいい》
こいつはダメだ。
イリもそれを察したのか人間の注意を引きながら遠くに行く。
「ちょこまかと。エンハンスレッグ!」
人間はイリに飛びかかる。
イリはそのまま殴り飛ばされビルに当たる。
死んではないから体の傷は治らず骨が折れたのか動かない。
「確か、血を抜けば完全に意識を失わせれるかもしれないでしたね。実験しておきましょうか」
皆が一斉に人間を止めようとするが歯が立たない。
イリの意識がなくなる…か。
どうせ、あいつは俺の事が嫌いなんだ助けてやる義理は……ない。
ないはずなのに。