お遊び
俺達は家で寝間着から着替えず朝からお互いの能力を教えあっていた。
「――つまり、光の波長をコントロールすれば色変えられるからやってみ」
「さっぱり分からないけど波長を変えればいいんだね」
主に雫が俺の能力の説明を受けてた。
まぁ、俺の能力って持ち主の頭脳が試されるって言うか? 頭の出来の良さが出ちゃうんよねぇ。
でも、これは仕方のないことなんだ。
俺が天才だから仕方ない。
天才すぎてごめんなさい。
「これなら部屋の模様替え出来そう」
雫がそう言うと俺達は雲より高い位置に立っているかのようになる。
ちょっと怖い。
「この模様替えいいでしょ。前竜が怖がらせるためにやったのを思い出してやってみた」
そういえばやったなそんなこと。
「雫、この視界共有って使ったら気持ち悪すぎないか?」
星奏が目を瞑りながら
「えぇ、そう? 慣れの問題だと思うんだけど」
「体は動いてないのに景色が動くから酔う」
「じゃあ、自分も動きなよ」
「目を瞑ってるから無理だろ」
「じゃ開けなよ」
「開けたら視界が重なって気持ち悪いんだ」
星奏が必死に抗議をするが雫はなんでと疑問を浮かべた顔をする。
雫って意外と凄いやつだったんだな。
「ていうか、それって五感を共有してるんだよな? じゃあ、ブラウニーとかと触覚を共有したら空飛んでる気分になれるんじゃね?」
「私はサイコキネシスで空を飛んでたから別にそんな気分が味わえなくてもいい」
自慢かよ。
俺はサイコキネシスと唱え空に浮かんでプカプカする。
「結構この操作にも慣れてきたぞ」
「ならそろそろ町の上空を飛んできたら?」
「まだ落ちるかもしれないから嫌だ」
「これまでにも命の危険が迫った時より嫌なのか?」
星奏が言い終わると俺はすぐに口を開く。
「当たり前じゃん何言ってんの?」
2人はえっ? という顔で俺の方を向く。
「だって命危険が迫ったってたまたまそうなっただけでしょ? でも、上空に自ら行くなんて自殺行為じゃん」
「……ヘタレかよ」
そうだよ。
ヘタレだよ俺は。
星奏は大きく息を吐きながら目を開ける。
「ダメだ。これ死にそう」
星奏はテーブルに置いてあった水を飲み頭に親指を当てる。
「地道にやってくしかないな。酔いに慣れるところから始めるか」
星奏は吐きそうになってるのを我慢している。
「酔い止め飲んだら?」
「あー」
俺が思いついたことを言うと星奏は目を瞑って考え込む。
雫はそれを見ながらピアノを弾いてるみたいに両手の指を動かして音楽を奏でている。
両手の動きが違うし雫ってピアノ弾けるタイプの人だったんだ。
今度1曲弾いてもらお。
「そうした方が楽そうだし飲むか。確か竜が風邪をひいた時に買ったのが1個あったはず」
なんで風邪の時なのに酔い止め買ってんの?
星奏はそう言って酔い止めを取り出す。
「風邪の竜は本当に面白かったね」
「思い出すなそんなこと」
「ママにそんな口叩くなんて悪い子ね」
「雫ママは黙っとけ」
雫は星奏のママだろ。
俺のママになるんじゃねぇ。
星奏は酔い止めを飲みまた目をつぶる。
「よし、今度こそ」
「がんばー」
雫はそう言うとピアノ以外の楽器の音も鳴らしながら音楽を奏でている。
雫すごくね?
そこだけは俺以上じゃん。
「おぉ、酔わない。でもちょっと怖い」
自分の意思とは別に動く景色を見るんだから怖くて当然か。
酔いってもしかして意志とは関係ない動きを怖がる本能なんじゃないか?
それ考えたら酔い止めって毒みたいなもんだな。
「ところで、星奏はなにやってんの?」
俺が星奏の方に向くと星奏は鳥のように腕をパタパタと振る。
「こうすれば怖さが半減するんだ」
「雫、星奏がやばい事になってる」
「大丈夫、元からヤバいやつ」
雫は雫でオーケストラ会場みたいな空間を作りそこで様々な人と音楽を奏でている様に見せてる。
「おお、私空飛んでる」
お前自分で空飛べるんでドヤァってやってたのに今更感動すんなよ。
「観衆の声が聞こえる」
雫は1人で盛り上がってる。
俺は1人だけ場違い感があったのでこっそりベランダから外に出る。
外は晴れていて夏が終わってすぐだからかまだまだ温かさを残している。
俺はベランダから思いっきり飛び降りる。
「紐なしバンジー!」
俺はちょっとだけ飛び降り感覚を楽しみすぐに空を飛ぶ。
ヘタレって言われてちょっと対抗意識を出したのは内緒だ。
「大空を飛べるっていいな」
俺は更にスピードを早める。
空気抵抗によって生まれた風があたたまってた体を冷やす。
これならもっと高くに行けそう。
俺は調子に乗ってもっと高いところに行く。
景色最高。
太陽が眩しいのが玉に瑕だがそれよりも景色がいい。
魔力もまだまだあるしもっと高い所に行こう。
「飛行機とかあれば隣で一緒に飛ぶってことが出来たんだけどな」
それで登場客がえぇ!?って言う顔してるところで手を振って飛行機を追い越すんだ。
ここからどこまで行けるかやってみよう。
そう思ってクルッと振り返り飛び続ける。
途中で進行方向にエアーウォールを作ることで移動速度を上げれることに気づいた。
圧倒的速度で移動してると急に大きな結界のようなものが見える。
「もしかしてあれが大阪に貼られた結界か」
って言うことは俺東京から大阪まで飛んできたってことか。
ちょっとやりすぎたな。
俺はじっと大阪を見ると興味が湧いてきて高度を落としじっくり見ることに。
結界の中にはゾンビがうようよいてまさにこの世の終わりってやつだ。
俺はそっと結界に触れると結界はまるで金属のような感触だった。
こんなの初めて見たな。
って当たり前のことか。
俺がはしゃいでいると話し声が聞こえてきたのですぐに隠れる。
こんな所にいるやつなんて多分ヤバいやつだし隠れて正解だよな。
「目標は基本的に東京で活動してるみたい」
「そうか、ならお前の部下で今東京に近いやつを寄越せ」
2人の話し声が段々と近くなってくる。
1人は女の子か? 声は小学生の男の子って感じの声出し男の娘の可能性があるな。
俺の守備範囲だ。
それでもう1人は常吉だ。
ってことは隣にいる子もゾンビかもな。
サイコキネシスを使って確かめたいが勘づかれても困る。辞めておこう。
ていうかなんかスパイみたいだ。
パジャマ姿で来るんじゃなかった。
「いるけどあいつは今高野竜を捕らえるために行動中だから違うやつでいい?」
「まぁ最悪誰でもいい。できる限り早めでな」
「はいはい」
男の娘は言い終わると耳を抑えてブツブツと言う。
念話か。
一応俺達もできるんだよな。
星奏が叡犂の能力を常に付けた方が便利だよなって言って念話を使えるようにしてくれたんだ。
今は忙しそうだし念話を使うのは辞めておこう。
ていうか、俺狙われすぎ。
お姫様かよ。
「あの人も無茶を言う。殺さずに捕まえろだからな」
「有能な人間が欲しいからって言ってたけど絶対別の理由があるよね」
あの人……ラスボス的なやつかな。
多分このゾンビ事件の黒幕。
「じゃあ私は酒でも飲むから準備を差せとけ」
「言われなくても僕の優秀な部下はしてくれるよ」
常吉は手を振りながら結界の中に入る。
ゾンビなら入れる結界。
もしくは特定の人のみ入れる結界といったところか。
男の娘は常吉が結界に入りきるのを見終わるとまた耳を抑えてブツブツと言う。
「……ごめん、もっと早くに能力因子をあげることが出来れば良かったんだけど中々強いのは手に入らなくて」
多分部下に話しかけてるんだろうな。
「まだ準備してていいけどできる限り急いでね。うん、ごめん。……いや、本当のことだし慰めてくれなくていいよ。あいつらの仇を討ってね。まだ僕はこの結界を維持しないといけないから行動できなくてさ。うん……それじゃあ」
仇を討つ、俺を狙ってる、そして上司っていう感じ。
間違いない多分こいつがゾンビ教の教祖だ。
これはいい収穫だ。
それにこいつを殺せば結界が消える。
大阪に入れるんだ。
故郷に戻りたいと思うのは生き物として当然の本能だと思う。
あいつらに俺の故郷を紹介してやるんだ。
俺は男の娘の隙を見てすぐに飛び立つ。
そして俺は調子に乗って富士山の頂上と同じくらいの高さに行く。
ついでに富士山の山頂に立って登頂ってやろうかな。
俺がそう思ってると段々と気分が悪くなる。
俺は家で横になってる。
「星奏、また竜風邪ひいてる」
「違う。これ高山病」
「私の体で何やってんだ」
何も言えねぇ。