引退
俺は部屋のベッドで起き上がる。
体のあちこちが痛む。
特に肩。
ナイフが刺さってたせいでものすごく痛い。
俺は痛む体でリビングに向かう。
そういえばなんでパジャマ姿になってるんだろう。
「おはようさん。気絶して倒れてましたさーせん」
「竜、呪ってやるぅ。お前のせいで死んだんだぞぉ」
パジャマ姿の雫が幽霊のジェスチャーをしながら近付いてきたので手で抑える。
「普通に生きてるじゃんか」
「こういう状況じゃないとこんなの出来ないでしょ」
まぁ確かに。
星奏はまだ起きてないな。
俺は部屋を地獄っぽくし俺と雫を半透明にし幽霊っぽい服にする。
「これで騙せるだろ」
「いいね。こうでなくっちゃ」
パジャマ姿の星奏はタイミング良く部屋のドアを開け入ってくる。
「おはよう。いやぁ、気絶するって初めてだ。貴重な体験だっ――」
「「星奏、呪ってやるぅ。お前のせいで死んだんだぞぉ」」
星奏は無言で部屋に戻る。
そしてすぐにリビングに入ってくる。
「塩まいとくわ」
星奏が塩をそこら辺にまく。
その塩が目に入る。
「目がァァァァァァ」
「なんだ生きてるのか」
「考えれば分かるだろ。てか、なんで部屋に塩があるんだ」
星奏は塩が落ちた床を拭き始める。
「ていうか、あの後どうなったんだ?」
「私も知らない。気絶したし」
「全員気絶したのか。なんだ、自慢できないな」
「気絶したことを自慢するな」
痛かったけど一瞬で意識なくなったな。
さっき星奏が言いかけてたみたいにこれは結構貴重な体験だ。
「ていうか、なんで俺達パジャマ姿なんだ? 雫何か知ってる?」
「私もさっき起きたばっかだし知らないよ」
何か知ってそうな人と言えば後は有輝ぐらいか。
「じゃ、有輝の所に行こう。俺達をここまで運んでくれたのは有輝以外いないだろ。有輝なら何か知ってるかもだし」
「そだね。全員起きたし」
有輝の所に行こうとすると急にドアが開く。
え、この状況で泥棒?
「あ、皆さん起きてますね。良かった。このまま起きないかもと思ってました」
朱希さんが車椅子を押しながら入ってくる。
そして、その車椅子には有輝が乗っていた。
朱希さんは試験管に入った水を有輝に飲ませる。
「おはようっす」
俺達は目を見合わせる。
「なんで車椅子乗ってんの?」
「そこから説明しますっすね」
俺達は椅子に座り聞く体勢に入る。
「いやぁ、実は皆さんが気絶した後に助っ人が来てくれてなんとか逃げることが出来たんですけど。後ちょっとで町に入るって所で魔力が尽きてしまって動けなくなったんすよ」
「私がなんとか運んだので大丈夫でしたが」
有輝は明るい口調で話し続ける。
「魔力が尽きた時に病気の症状が悪化してしまいまして。少し動くだけでも結構な魔力を消費するようになって車椅子生活に戻ちゃったっすね」
有輝が車椅子だったのはそういうわけか。
「なので冒険者も辞めようと思います。これからは貯金してた分で生きていこうかと」
「私は有輝さんの生活のお手伝いをしようと思います」
「ただ、それだけを報告に来ましたっす」
それだけを言いに来るなら無言でドアを開ける訳が無い。
インターフォンを鳴らすだろ。
「有輝、なんで俺達がパジャマ姿なのかは知ってるか?」
「あぁ、それはこの家に運んだ後に朱希さんが体が汚いまま寝かすのは可哀想と言ったのでお風呂に入れてパジャマに着替えさせたからっすね」
え?
お風呂にいれられたの?
「大丈夫です。見ただけですから」
俺の顔が一気に赤くなる。
大事なとこ見られたのか?
「そうだったのか、ありがとう」
「いえ、大丈夫ですよ。星奏さんの髪綺麗だったので変になってないか心配なのですが」
「いや、全然大丈夫だ。むしろ、私がやるよりいい」
「良かったです」
「私のも綺麗なってるし本当にありがとね」
雫と星奏は朱希さんと髪の洗い方で盛り上がっていた。
なんか、初めてあいつらが女子っぽいって思ったかも。
今までを振り返ってみても1番女子っぽい場面だな。
「竜さん、僕が洗うべきだったっすよね。すいません」
「いや、綺麗してもらったのに嫌とは言えないだろ。感謝してるっちゃしてるし。ここまで運んでもらって体も洗ってもらって文句つけられない」
「本音はどうっすか?」
「ちょっと恥ずかしい」
雫とか星奏とかならまだしもあんまり知らない異性に見られるのは恥ずかしい。
「朱希さん、もうそろそろっす」
「あ、分かりました。では、また機会があれば」
「またね」
「また」
「さよならっす、竜さん」
「じゃあな、有輝」
有輝は朱希さんに車椅子を押してもらい家から出ていく。
いつか家に遊びに行こうかな。
「息子を見られたと分かった気分を答えよ」
「ただし、恥ずかしかった以外とする」
「ちょっとだけ興奮した」
「「キモ」」
2人が蔑んだ目で言ってくる。
私はFと華蓮という女にやられそうになり逃げてきた。
「魔力さえ残っていれば。高野竜を最初観察していたのがいけなかったか。いや、何があるか分からんからな」
私はどうすれば良かったのかを考えながら歩く。
「とりあえず、あいつらを使って観察するか」
「あいつらって、僕の部下達のことでしょ」
教祖が後ろからやってくる。
「気をつければ死ぬことはない任務を任せようと思っていただけなんだが」
「気をつけなければ死ぬってことだよね」
「そういうものだろ。世の中っていうのは。これだから子供は」
私はその場に座り休憩する。
「君でも捕えられなかったんだね」
「あいつが強いという訳ではなく周りが強いな。有輝とFってやつと華蓮ってやつが来た。有輝が来るのは想定内だったのだがFと華蓮は想定外だったんだ」
「そのFと華蓮を部下達を使って戦わせて観察したいってこと?」
教祖は眉間にしわを寄せる。
「お前が対応しきれなかったやつが部下達にやらせた所で死ぬだけだよ」
「じゃあ、誰がやる。お前か?」
教祖は黙る。
「有輝は無力化した。今恐るべきはFと華蓮だ。こいつらを観察出来れば足止めできる。それでいいだろう」
「分かった。じゃあ言っておくよ」
よし、これで私の計画も順調に進めれる。
藤原宛に手紙を書くか。
【爆弾を操る程度の能力の能力因子の場所を特定しました。名古屋の貴族が持ってます】
これぐらいで大丈夫か。
名古屋のやつ宛は西日本のやつらと組めと書いて、広島宛に昔の出来事を繰り返したくないだろと脅迫文っぽく書くか。
札幌、仙台、東京は同盟を組んだ。
あと少しだ。
あと少しで戦争を再現出来る。