呪い
僕は生まれつき筋肉が衰える病気だったっす。
病名は忘れたっすけど。
「なんで、あなたはあの子の様にできないの」
僕にはお兄さんがいたっす。
優秀で僕とは違って家族や周りからも信頼されてたっす。
「しかたがないよ。有輝はそういう病気なんだから」
僕はいつも周りにだけいい顔をする兄が嫌いだったっす。
僕と二人っきりの時は平気で僕が乗ってる車椅子を蹴ったりしてきたし車椅子を隠されたりしたこともあったっす。
親はそんなこと兄がする訳ないと言い張って僕の言い分には耳も貸して貰えなかったっす。
「母さん、父さん。俺、冒険者になるよ。それでゾンビ共を全部片付けてやる」
ゾンビが現れて僕達が住んでた場所付近が避難所になった時に兄がそう言ったっす。
両親は兄の言葉を聞いて喜んで冒険者にならせたっす。
それが間違いだったと思わずに。
僕は急に出てきたじいさんを殴る。
「鉄壁」
身体能力強化系の能力者っすか。
僕は更に殴ったり蹴ったりするが全て受け止められ隙を見つけられては叩かれる。
能力で予測できるのに防ぎきれなく能力の防御力上昇に頼って魔力が無くなっていく。
かなりの身体能力強化の使い手っすね。
僕と光金以上かもっす。
「鉄拳」
じいさんは僕に向かって拳を突き出す。
「ジャストガード」
僕は腕で防いだがかなりの衝撃で体が吹っ飛びそうになる。
この人、魔力の使い方だけじゃないっすね。
何かしらの武道をしてたぽいっす。
動きに無駄がない。
静かで淡々としている。
僕は一旦距離をとる。
「ジャストスピード」
僕は拳を構えながら物凄い勢いで近づく。
そして勢いを殺さずにそのまま拳を突き出す。
「ジャストアタック!」
速度を乗らせて殴った僕のパンチに流石に耐えきれなかったのか少し吹っ飛ぶ。
僕は今の隙に剣を抜く。
「ジャストスピード」
僕はまた勢いを乗せてじいさんに近づく。
空中に浮いてる今がチャンスっす。
「ジャストアタック」
「鉄壁」
僕が首に向けて振った一筋を首で受け止める。
このままでは終わらないのはもちろん分かってたっす。
このまま他のところも切るっす。
僕は右腕と右足などを切る。
流石に想定外だったのかじいさんは防御を回す暇もなく切られる。
僕の剣にも再生能力低下の効果は付いてるっす。
すぐには再生できないっすよ。
「手足が無くなるとはな。かつての仲間にそういうやつもいたなぁ。あいつは最後特攻して死んだっけ。惜しいやつだった」
「戦闘中にお喋りとは随分舐めてるっすね」
「戦闘中は誰かと話をして人間性を保たせるんだ。戦闘中に1番重要な事だぞ。覚えておけ」
何言ってるのか分かんないっす。
戦闘中は集中してるから喋れないもんなんっすよ。
じいさんは腕と足を切られてももう片方の腕と足だけで僕の攻撃を防ぎ切った腕と足を再生させる。
「これが最強か。大して強くないな」
「僕もなんで僕が最強って言われてるか最近分かんなくなってきたっす」
最近は光金とかの方が強いんじゃないかと思ったっすし竜さん達みたいに本物の上級ゾンビを何体も倒した訳じゃないですからね。
「早く私を殺さないとあいつらを守れないぞ」
「そっちこそ。狙いは僕じゃなくて竜さんでしょ。なら、早く僕を倒した方がいいんじゃないっすか?」
もっと能力の解釈を広げないと僕はこいつに勝てないっす。
全身の身体能力を上げて素の反射神経とかは良くなってるっすけどこれじゃ足りない。
竜さんならどうするんすか。
「お前を殺した後でもあいつを殺すチャンスはいくらでもある。今回はどこにいるのかの確認だ。1発で当たるとはラッキーだった」
居場所なら枢機卿達に聞いてそうなもんっすけどね。
もしかしたらあいつらとは関係ない別の勢力のゾンビっすか?
ならなんで竜さんを狙うのか意味がわかんないっすけど。
「雑魚が余計なことを考えるな」
「んぐ」
僕がなんで竜さんを狙ってるのかを考えているとじいさんは僕の腹に拳を入れ顔に蹴りも入れる。
僕はそのまま地面に倒れる。
予測できたのに反応できなかったっす。
「これで終わりとは言わせんぞ」
僕はどうすればいいんっすか。
あと6分で全身強化の効果時間がきれるっす。
残りの魔力は1分全力で戦えるかどうかぐらい。
「本当は死ぬ気なんてないんじゃないのか」
僕は死ぬ気でいたっすよ。
「そうじゃないと全身強化した意味がわからん。本当はささっと倒してすぐに町に戻る気だったんじゃないか?」
全身強化は魔力が減りきる前に全部使い切った方が良かったっすからそうしただけっすよ。
「お前は全身強化をせずに私に立ち向かうべきだった。違うか? お前は自分の命も視野に入れてしまった。だから、負けるんだ。あの魔力が段々と無くなっていく状況での魔力を使い切るというお前の判断はいいものだった。だが、命を懸けきれなかった」
全身強化をせずに動体視力を上げてから水筒の中の魔力水と残っていた全魔力を使えばもしかしたら勝ててたかもしれないっす。
その時は魔力切れで筋肉が衰えた状態で地面に倒れることになるのは間違いないっすけど。
「たらればの話はもうおしまいだ。したところで意味なんてないからな。すまなかった。今、楽にしてやる」
「いや、意味はあったっすよ。おかげで命を懸けきる覚悟ができたっす」
どうせ、僕は生まれてから死ぬまでそう長くはなかったんっす。
生き延びられてるのはあの時……罪を背負う覚悟を持てたから。
もう、悪あがきはやめたっす。
僕は立ち上がる。
やるならとことん……
「やってやるっす!全強化!」
五感も身体能力も上げたっす。
最初からこうしとけば良かったんすよ。
野生の勘はいらないっす。
ここから純粋な殴り合いで勝つっす。
「おお、やるな。だが、残念だったな」
じいさんは水晶玉を取り出し水晶玉から家1件を覆う程度の結界を出し僕はその中に入る。
まさか、これは……
僕はまた地面に倒れる。
「死ぬ覚悟が出来たやつってのはどんなクズで弱くて醜いやつでもめんどくさいんだ。持っててよかった、能力無効玉」
なんで今……
「なんで今出したか気になるのか。最初から出しても良かったがそれだとすぐ決着が着いてしまうからな」
どうしよう。
呼吸をするだけで精一杯っす。
ここから逃げるなんてできないっす。
「お前に筋肉が衰える病気があるのはあの女が俺に伝えてくれたからな。今のやつらってのは単純だな。少し脅せばすぐに言うこと聞く。私達の時代ならすぐに死んでいただろうに」
お前みたいなじじいの時代とは変わったんすよ。
「今は私みたいなのを老害と言うんだったな。お偉いさんみたいにはあまりなりたくなかったんだが。これが老いってやつか」
こうも余裕そうにペラペラと。
でも、竜さんが逃げる時間は稼げたっす。
竜さん、絶対こいつから逃げてくださいね。
「お喋りが過ぎたな。じゃあ――」
「レーザー」
僕に向かって握られた拳は一筋の光の熱さにやられすぐに引っ込める。
なんで、逃げなかったんすか。
「有輝、お前を見捨てて悪かった。お前ばかりに負担をかけさせていたな」
「今度は私達の番ってやつだ」
竜さんと星奏さんの2人が僕の後ろからやってくる。
「朱希さんは雫と一緒に逃げてる。後は俺達に任せろ」