彼女が…欲しい!
なんか作風がいつもと違う気がする
手錠をかけられた俺の姿を有輝に見られた後家に帰ってきた。
有輝の隣にいた女の人、誰なんだろうな。
有輝の恋人じゃないとは言ってたけど。
「彼女が欲しい」
「急に何を言い出すんだ?」
買い出しで買った荷物を冷蔵庫に入れながら星奏はおかしな物を見る目で見てくる。
「星奏、竜だって一応男の子なんだから彼女の1人や2人欲しくなるよ」
雫は今読んでるマンガに集中しているからかいつもより静かに感じる。
「有輝の隣にいた人いるだろ? あれ絶対付き合ってるだろ。有輝に彼女がいても違和感ないしさ」
「付き合ってないって言ってただろ」
「星奏、私達も有輝も年齢的に見れば高校生だよ? 異性と一緒にいるっていうのは大体は付き合ってるってことになるんだよ」
星奏は納得したようなしてないような顔をする。
高校生ぐらいの年齢になったら異性と一緒にいるのって仲良くないとできないもんな。
俺は雫の考えに納得しかけたがそこである事を思い出す。
「その考えで言ったら俺とお前達付き合ってることになるくね?」
「「…」」
2人はじっと俺の事を見つめてくる。
え、なんか俺おかしいこと言った?
「……あ、そうか。竜は男の子だったね」
「お前さっき俺の事男だって言ってただろ」
「男らしさがないって事なんだろ」
どういうことか分かんねぇな。
俺は不満げにいつもの定位置に着く。
手錠があるせいでマンガが読めないな。
俺は雫が読んでるマンガを後ろから読むことにした。
雫は俺に気づいたのか俺も見やすいようにしてくれる。
恋愛漫画か。
確か、地味で根暗で教室の隅っこで本読んでる様な主人公が遅刻しそうだからアンパン咥えて走ってると曲がり角でイケメンで石油王の息子で頭がすっげぇ賢くて運動は全国大会にいけるやつとぶつかるんだよな。
そこから恋愛に発展していくって感じになってくんだよ。
「そうか、曲がり角か」
「何が?」
雫が俺の唐突な発言にはてなマークを浮かべる。
俺はドヤ顔で説明を始める。
「恋愛漫画は大体、曲がり角でぶつかって恋愛に発展していくんだ。つまり、曲がり角でぶつかれば付き合える」
「ぶっ飛びすぎててよくわかんない。星奏分かる?」
「雫、こういう時の竜に言っておくといい言葉を送ろう。うるせえばーか」
酷くね?
「そして、更に思った事を追加するんだ。見てて。そんなんで付き合えると思ってるのか? ていうか、ワザとぶつかるとか傷害罪になりそうで草。訴えられたらお前負けるだろ。それにそんな事考えてるなんて童貞臭い」
「酷い! なんでそんな事言うんだ」
「お前がバカだから」
星奏の言う通りかもしれない。
だけど、これで成功したっていう作品は沢山あるんだ。
きっと史実に基づいて作られてるかもしれない。
「まぁ、1回試してきてみな。無理だから」
「曲がり角でぶつかっただけの相手を好きになるって訳じゃないからね、恋愛漫画は」
確かに、そうだな。
ぶつかった後に同じ学校に転校してきてそこで仲良くなっていくんだ。
ぶつかったおかげで関わりやすくしてるんだ。
「これは作戦建てが必要だな」
「手伝ってあげるよ」
「面白そうだし私も」
雫と星奏がこんな協力的だなんて珍しいな。
まぁいいか。
「まず、ぶつかって連絡先を交換するってのはどうだ?」
「交換したところでどうするの? 多分、相手から連絡は来ないと思うしこっちが連絡したらブロックされるしそれに今は携帯とか持ってる人いないし」
「交換しなくていいと思うぞ。そこはな――」
俺達は1晩越すまで俺の彼女作ろう計画の作戦を練った。
「――で、雰囲気良くなったところでそのままヌルッと既成事実を作れば彼女の出来上がり」
「冷まさないようにお召し上がりください」
「既成事実作ったんだったらもう召し上がってるだろ。ていうか、既成事実作る前ぐらいで充分恋人関係になってるわ」
「作戦はこんなので大丈夫そ?」
「大丈夫だろ。よし、手錠外してくれ」
俺は鍵を持ってる星奏に手錠を外してもらう。
身支度を済ませ玄関のドアノブに手をかける。
「じゃあ、行ってくる」
「頑張って作ってこいよ」
「土産話楽しみにしてるからね」
俺は2人の別れの言葉を聞いてドアを開ける。
さぁ、彼女作りと行こうか。
俺は外に出て1歩1歩しっかりと歩いていく。
「雫、あんな作戦で大丈夫なのか?」
「いいんだよ、別に。微妙に成功しない方が面白いしね」
「うわぁ、悪い顔」
俺は好みの女の子がいないか探す。
お、あの子は!
胸なし、身長平均的、顔よし、レッツゴー。
俺はあの子を素早く抜き去り近くの曲がり角を曲がる。
周りに人はいない、あの子の場所も丁度いい場所、できる!
俺はタイミングを見計らいダッシュで進み女の子とぶつかる。
俺と女の子はぶつかった衝撃でその場に倒れる。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。それより君の方が大丈夫?」
俺は女の子の手を取って立ち上がらせる。
「ここで会ったのも何かの縁だし名前を聞いてもいい? 俺は高野竜」
「私は枯 紫冶です」
「紫冶か、いい名前だね。じゃあね」
俺はそのままダッシュで別方向へと去っていく。
よし、作戦通り。
次のフェーズに移行する。
翌日。
朝の町の中で紫冶を見つけるぞ。
そして、話しかけるんだ。
それを定期的に続ける。
そして仲良くなって……彼女、ゲットだぜ。
完璧だ。
いい感じのセリフも雫達と考えたし大丈夫だな。
俺が周りを見回しながら探していると予想通り紫冶がいた。
ギルドの前にいるってことはあの子は冒険者なんだ。
刀持ってきてて正解だったな。
誰かを待ってる風ではないけど周りをキョロキョロと見回してるな。
もしかして、仲間がいないのか?
俺は紫冶に近づく。
「お、紫冶じゃないか。こんな所でどうしたんだい?」
「実はいつも一緒にいる人が今日は風邪で寝込んでてお金がないしノルマもあるから働かないといけないんですけどゾンビ討伐しかクエストがなくて、それで仲間になってくれそうな人を探してたんです」
好都合だ。
ここで仲間になれば仲良くなれる。
「俺でよかったらいいよ。俺も丁度仲間探してたんだ」
「本当ですか? ありがとうございます。報酬は山分けでいいですか?」
「もちろん、それでいいよ」
俺は紫冶について行き荷車を押しながら町の外に出る。
そういえば、昨日中級ゾンビ達に襲われて逃がしちゃったけど大丈夫なのかな。
襲われたら能力で逃げるしかないか。
「そういえば、竜さんって能力者なんですか?」
「よく分かったね。そうだよ」
「どんな能力をお持ちなんですか?」
紫冶は目を輝かせて俺に尋ねてくる。
「光を操る能力…かな」
能力が2つ以上あるってことは知ってる人少なそうだし音を操る方は言わないでおこう。
「身体能力強化以外の能力なんて初めて聞きました。珍しいですね」
「でも、俺なんてまだまださ。もっと強くならないと」
俺は意味深に呟く。
紫冶は何かを察したからかこれ以上は聞かれなくなった。
「あ、ゾンビがいました。私がゾンビに近づいたら魔法か何かで援護してください」
「任された」
俺はゾンビに向けて簡単な魔法を打ちまくる。
こんなちゃんとゾンビと戦ったのいつぶりだろう。
最近は中級とか上級とかと戦っていたからな。
本当に懐かしい。
懐かしすぎて涙でそう。
紫冶が俺の魔法で怯んだゾンビの首を手際よく切りゾンビを倒す。
今回のクエストはソンビ10体の討伐だし、ここにいるやつらで丁度だな。
「どうする?もっと倒す?」
「いえ、このぐらいにしておきましょう。今日は早く終わらせないと」
「どうしんたんだ?」
「風邪で寝込んでる人…まぁ私の彼氏なんですけど、彼の看病をしないとないけないから」
彼氏いたんだ。
俺は放心状態になりながらゾンビを荷車に乗せる。
「今日はありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ」
俺は紫冶と別れて帰路に着く。
せっかくここまで頑張ったのにまた1からやり直しか。
俺は家のドアを開ける。
「おかえり、どうだった?」
「ただいま。ダメだった。彼氏いたわ」
「残念だったね」
雫はニヤニヤしながら俺の方を見る。
バカにされてる気分だ。
「今回は残念だったな。次頑張れよ」
「もう、彼女とかいらねぇわ。疲れた」
もう彼女作りとかいいや。