襲撃
俺は拳銃を持ったゾンビ達に囲まれる。
有輝は俺に向けて撃たれた弾を止めてゾンビ達の前に立つ。
……なんでいきなり銃が出てきてんの?
そこは魔法を撃つんじゃないの?
いきなり現実的になるじゃん。
ファンタジー要素はどこ行った?
「そんな事より――」
「竜さんは隠れててください。ここは僕がやります」
有輝に言われるがまま透明化を発動する。
有輝は俺が透明化したのを確認すると銃を撃ってきたゾンビを殴る。
殴ったゾンビは吹っ飛ぶが他のゾンビ達に周りを囲まれる。
周りのゾンビ達は有輝に銃を向けるが有輝は何も動じずに周りを見る。
「タカノリュウをダセ」
「なんでっすか?」
「ソレをオシエル ギリはナイ」
「教えられても出す気はなかったすけどね」
これ、援護した方がいいよな。
誰か1人の首を切るぐらいなら大丈夫そう。
「竜さんは何もせずに見ててくださいっす。僕がこいつらを倒してみせますっす」
有輝がそう言うなら有輝に任せるか。
俺は有輝の応援でもしておこう。
有輝は見えないし聞こえないけど。
「ナメルナ。ガキがチョウシにノルナ」
有輝は余裕な顔で水筒を飲む。
こまめに水分補給するってレベルじゃないぐらい水分補給してるな。
まぁ一応は夏だし熱中症予防はしておかないとな。
今はそんな時じゃないと思うがな。
俺はゾンビ達の後ろの方に回り込む。
危なそうだったら助けよう。
「ウテ!」
1人のゾンビがそう言うと他のゾンビも発砲し始める。
有輝は全ての銃弾を避けながらゾンビ達に近付く。
反射神経が良いってレベルじゃねぇぞ。
有輝は命令を出していたゾンビに近付くとすぐ様剣を抜きゾンビに切りかかる。
「タチスジがシロウトだな」
切りかかられたゾンビはいつの間にかナイフを出しておりナイフで剣を受け止める。
他のゾンビ達は有輝に向けてまだ銃を打っているが有輝に当たると同時に金属音がしてチャリンと銃弾が地面に落ちる。
有輝はゾンビの後ろに回り剣を大きく振る。
「スラッシュ!」
「アマイ!」
有輝はゾンビの首めがけて剣を振る。
ゾンビは有輝の剣を受ける形でナイフを持つ。
だが――
「ハ?」
ナイフが有輝の斬撃に耐えきれず折れ、そのままゾンビの首を切る。
……は?
ゴリ押しすぎるだろ。
まぁ、有輝の魔力量とか考えたらそっちの方が楽なんだろうな。
他のゾンビ達も心無しか唖然としてる気がする。
「まだやるっすか?」
他のゾンビ達は有輝を少しの間睨むとどこかへ散っていく。
有輝はゾンビ達が逃げたのを確認するとすぐに水筒を飲む。
うんうん、運動後の水分補給は大事だよね。
俺は透明化を解き有輝に近付く。
「やっぱすげぇな」
「そんな事はないっすよ。そんな事よりあいつら、拳銃を持ってたっすね」
有輝は倒したゾンビの拳銃を取る。
「こんなのどこで手に入れたんっすかね」
「さぁ? どっかのヤクザの事務所でも漁ってきたんじゃね?」
「それだとしてもヤバいっすね。一応報告しておかないとっす」
有輝はギリギリ拳銃って分かるレベルに握りつぶしポケットの中に入れる。
もしかして、身体能力強化が1番の当たり枠だったりします?
数が多い方が当たりっておかしいだろ。
こんな事言っても身体能力強化は手に入らないしな。
いや、待てよ。
そういえば、有輝の能力は身体能力強化、五感強化、野生の勘の3つって天郎が言ってたな。
だとしたら俺も3個目の能力があってもおかしくない。
その3個目で身体能力強化を引き当ててやる。
「よし、じゃあ帰るっすよ」
有輝はおんぶする体勢をとる。
「はーい」
俺は有輝におんぶしてもらい有輝は全力疾走で門の近くまで行く。
「今日はありがとうな。おかげで思い出の品が手に入った」
「いえいえ、この程度なら何回でもするっすよ」
「また、今度お礼させてくれ」
「分かりましたっす。じゃあ、僕は寄るところが出来たんでバイバイっす」
「じゃあな」
俺は有輝と別れ門へと向かう。
あ、やべ。
有輝にお金借りるの忘れた。
門番の人に思い出の品が奪われてしまう。
どうすればいい?
考えろ。
俺の経験全てを活かすんだ。
俺は悩みに悩む。
あ、そうだ!
「手荷物検査をさせていただきます」
俺が門の前に立つと門番の人が近寄ってきてポケット中等を徹底的に調べられる。
その時、偶然なのか俺のお腹に門番の手が当たる。
門番はお腹とは思えない感触だったのか何回も触る。
「あの……これは?」
「俺の腹筋です」
「にしては少し本のような感触なのですが?」
「俺はそんな感じになるように鍛えたんで」
「なるほど? そうだとしても他の筋肉は全然ないようですが?」
「腹筋にしか興味なかったんで」
「だとしてもですよ?」
こいつ、しつこいな。
まぁ、そういう仕事なんだし仕方ないっちゃ仕方ないが。
最終奥義を使うか。
「それ以上触ったら痴漢で訴えますよ!」
「いや、僕ホモじゃないんだけ――」
「今はホモって言っちゃいけないんだ。ゲイって言わないといけないんだ。それに私、心は女の子なんで」
「さっきまで俺って一人称だっただろ。お前、嘘をついてるな!」
やべ、しくった。
「でも、腹筋なのは本当なので通してくれませんか?」
「いや、これも仕事なんで。無理です」
門番の人は俺の服をめくって来ようとする。
「この人、痴漢です。誰かぁ!」
「あんまり暴れないでください」
俺は必死にもがいて抵抗する。
「お前、何やってんの?」
俺が抵抗していると星奏達が引いてる様な感じでやってくる。
多分、今日も動物達と遊んで来たんだろう。
「また、バカなことやってる。門番さん、私達が押さえつけときますね」
「ありがとうございます」
「やめっやめろー!」
2人が俺を押さえつけて門番が服をめくって俺の思い出の品を手に取る。
「えぇっと……ツルペタ幼なじみ、催眠術でいちゃ――」
「それ以上言うな!」
門番の人にタイトルを読み上げられそうになったがすぐに止める。
2人は笑いを必死に堪えているようだ。
「えぇっと、これのレシートはお持ちでしょうか? なければリサイクルショップで再度ご購入をお願いします」
「……はい」
(それと……僕もツルペタ好きですよ)
門番の人は星奏達に聞こえない様に小さい声でいう。
「どうでもいいわ!」
人としての尊厳を失った気がする。
「確認は済みましたのでお通りください」
俺は帰ったらどういじってやろうかと意地悪な顔をした2人に連行されながら家に帰っていく。
「あの、2人とも。さっきのはただのマンガみたいな物だから……気にしないでいただければな……」
2人は満面の笑みで俺を見る。
「……なんて思ってたり思ってなかったり」
冷や汗が止まらねぇ。
多分1週間ぐらい笑いものにされるんだろうなぁ。
1番お気に入りだったやつも取られ、笑いものにもされ、俺の精神はズタボロだ。
家にあるやつとかリサイクルショップで売ってるやつとかで我慢しとけば良かった。
あぁ、死にたい。
誰か、俺を苦しませずに殺してくれ。
出来ることなら麻酔で眠ってる時に殺してくれたらありがたいかな。
遺産は世界の恵まれない子供達にでもあげてやってください。
「竜、ツルペタ好きだったんだ」
「ロリコンだ」
「ロリコンじゃない。俺は同い年ぐらいで身長は俺よりちょっとだけ小さくて長髪の女の子が好きなんだ。決してロリコンじゃない」
遺書で死のうと思った理由はこいつらにしておこう。