ランク上げ
俺達は有輝と一緒にゾンビを倒しに来ている。
理由はもちろん、冒険者ランクを上げるためだ。
Bランク冒険者になれればノルマがなくなり好きなときに好きな分だけ働けるという誰もが夢見る状態になるのだ。
ちなみに言うと俺達みたいに人に頼ってランク上げをするやつらの方が多く大半のBランク冒険者はそうだ。
有輝とか光金、多分だけどFってやつは自分の力でなったやつだな。
「冒険者ランクを上げるのに最も効果的なのは雑魚を沢山倒すことって知ってるっすか?」
「そう聞いた事があるな。ラノベとかだったら強い魔物を倒せばランクが上がるから理由がよく分からなかった」
流石、ラノベ脳な星奏さん。
ずっと自分の世界に入り浸っててください。
「理由はゾンビをいち早く絶滅させるためらしいっす。なので見つけ次第倒して荷台に乗せましょう」
「それじゃあ、町の外とかに貯めて置くこととかできるんじゃないの?」
「上手く隠せなかったら他の人達に取られちゃいますし日銭が稼げないからあんまりそういう事をする人はいないっすね」
一般的な目線で言うならクエストをしまくってお金を貯めて時間をかけてゾンビを倒してランクアップっていうのが王道そうだな。
先にクエストをさせる事でしてもらわないと町が困る事を片付けてもらうって事か。
よく考えてんな。
「じゃあ、私達はなんでCランクにまで上がれたの?」
「上級ゾンビを倒したからじゃないっすか? よく分からないっすけど」
多分それで合ってるだろうな。
でも、上級ゾンビをもう3体も倒してるのに一向にBランクに上がらない理由は1番多いノルマを達成するためにクエストを受けないといけないようにさせるからだろうな。
貴族とかギルドの連中はずる賢いな。
この事を星奏達に言ってもそこまで考えてないだろの一言で終わるしいいか。
いや、星奏ならギリギリ分かってくれるな。
「Bランクに上がるためには一日の内にざっと200体のゾンビを倒さないとダメっすよ。さぁ、頑張るっす」
「多すぎだろぉ~。もうちょっと少なくできないの?」
「出来るわけないっすよ。気合い入れて頑張るしかないっす」
「この建物の中にうじゃうじゃいるみたい」
俺はちょっとまだCランクのままでもいいかなぁと思っていると雫が近くのビルを指さす。
「分かったっす」
有輝は水筒を取り出し魔力測定機を見ながら少し飲むとすぐに建物の中に入り俺達も有輝に続いて入る。
俺達はビルの1階部分に入る。
「スーパーパンチィ!」
有輝が真上に拳を突き上げると2階から上の部分が上に吹き飛び周りの建物を巻き込みながら倒れる。
「「「.......?」」」
俺達はなにが起きたのか理解しきれずその場に固まる。
.......へ?
なにやってんっすか? 有輝さん。
近くに人がいたら多分やばいっすよ?
なに呑気に水筒の水をすすってるんっすか?
俺またなにかやっちゃいましたって言いたいんっすか?
「? あぁ、大丈夫っすよ。周りに僕達以外の人がいないのは聴力を強化して確認したんで大丈夫っす」
「だったら大丈夫っす」
「流石、有輝さんっすね」
「私達に出来ないことを平然とやってのけるんっすね。そこにシビれるっす!憧れるっす!」
「.......皆さん、喋り方変っすよ」
お前に言われたくないっす。
さも、当然の様にこんな大きな建物を壊さないで欲しいっす。
有輝が壊した建物の方を見るとゾンビ達が割れた窓からや巻き込まれた建物からうじゃうじゃと出てくる。
「ここからが本番っすよ」
そういえば、俺達100体程度なら1回やった事あるんだよな。
あの時は全然ダメだったけど今ならいけるはず。
俺は刀を抜き息を整える。
2人もそんな俺を見て深呼吸をする。
「いくぞ!」
「そんな主人公っぽいセリフは私に言わせろ」
「いや、ここは有輝に言わせようよ」
「今のところ、1番強敵を倒してるのは俺だからな。俺に言わせろ」
「ケンカしてないでいくっすよ」
有輝、俺のセリフを取るんじゃねぇ!
これからは有輝が主人公でいいよ。
うん、そっちの方が適任だし。
有輝がうじゃうじゃと出てきたゾンビを9割程度倒してしまい俺達が出る幕はほとんどなかった。
「これからは有輝と愉快な仲間たちにタイトル変更するか」
「その案になる前のタイトルは?」
「天才イケメンチート野郎竜と愉快な仲間たち」
「マシなタイトルになって良かったよ」
俺達はメンタルがボコボコになり近くの影で3角座りしている。
「まだ1人分しか倒してないっすからね。次行くっすよ」
俺達だって強敵との熱い戦闘が沢山あったんだけどなぁ。
天郎に士郎に升に水夢。
こいつら倒したのほとんど俺達なんだよな。
天郎あんど士郎の時は有輝もいたけど。
俺達は荷台に乗せ終わるとまたゾンビを探し始める。
荷台の大きさが尋常じゃないほど大きいが運ぶのは星奏なので関係ない。
「お前たちも手伝ってくれよ。流石に重い」
「ごめんなさいっす。僕もやるっす」
有輝は星奏と一緒に荷台を動かす。
これ、1人分倒したらギルドに持って行った方がいいんじゃないか?
「お前たちもやれよ。有輝だけだぞ、手伝ってくれてるの」
「俺達はか弱いんだ。そんなもの持てるわけないだろ」
「そうだよ。私はこの中で1番運動出来ないんだよ? 星奏が重いって言ってるものを持てるわけないじゃん」
「手伝えって言ってるんだ。誰もお前らどっちか1人で持てとは言ってない」
これ以上なんか言ったら星奏に殴られそうだし手伝ってるフリだけしとくか。
俺も星奏の隣で荷台を動かすのを手伝う。
雫も自分だけやらないのは流石にと思ったのか一緒に有輝の隣で動かし始める。
「次はどの辺まで行くんだ?」
「2、300メートル先っす。ゾンビ達はちょっと離れた建物にうじゃうじゃいるっすからね。建物内でゾンビを見たら100匹はいると思っておいた方がいいっすよ」
ゴキブリかよ。
生命力とか考えたらマジでゴキブリにしか思えなくなってきた。
「ゾンビ達に触覚とか生やしたらゴキブリと間違えるやついるんじゃね?」
「流石にそんなバカはいない。竜以外にはな!」
「お? やる気か? いいぜ、勝負してやる。どっかの大学の赤本で勝負しようか」
「高校にも行ってないニートがこのエリートの私に勝てるとお思いで?」
「エリートのお前より点数が高かった俺に勝つつもりでいるのか」
「中学の勉強と高校の勉強は難しさが違う。そんなんで調子に乗ってるお前なんか小指で倒せる」
俺と星奏が言い合ってると有輝は顔に笑を浮かべながら俺達を見る。
「なんかいいっすね」
「ちょっとうるさいけどね」
「兄弟みたいっす」
「そう?」
「僕もあんな感じが良かったなぁ」
有輝の荷台を持つ手の力が更に強くなった気がした。
俺達は無事、Bランクの冒険者になることが出来た。
これで、ノルマとかいうクソから解放されるんだ。
「そういえば、こんな紙が渡されたがどうする?」
「なんか受付の人に貰ってたな」
星奏が俺達に紙を見せる。
「あぁ、騎士募集の紙っすね。僕も貰ったっす」
そういえば、星奏がBランクになったら騎士になるやつが多いとかなんとか言ってた気がする。
星奏が見せてる紙には騎士の給料とかが書いてあった。
「月収50万、仕事内容 街の安全を守る、貴族に仕える。パトロールは交代制。貴族の命令は絶対だが基本命令はなし。年間休日120日以上。めんどうな人間関係はなし。仕事の日は昼食、夕食支給。募集条件 Bランク以上の冒険者の方々のみ」
すっげぇホワイト。
町を守ると言っても最近は別に事件とかないし楽なもんだな。
「いいや。騎士になったら昼まで寝るとか出来なさそうだし」
「ダメ人間なお前には無理な話だな」
「1番寝る時間と起きる時間が遅いやつに言われたくない」
「ちょっと失礼するっす」
有輝は近くの魔力水売り場に行き魔力水をかなりの数買う。
お買い上げありがとうございまーす。
でも、俺達にお金入らねぇんだよな。
知的財産権なんて売るんじゃなかった。
「僕はこの辺でおいとまするっす」
「待ってくれ。ここまで手伝ってもらってタダで帰らすのは気が引けるからさ」
「一緒にご飯食べてかないか?」
「あ、有輝。私達の奢りだから気にしないでね」
仕込んでたみたいに思われそう。
2人も同じことを考えてたんだな。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ごちそうになるっす」
後輩キャラを持った気分になるな。
俺達の方が年下だけど。