戻ってくる日常
俺は水夢の首を切りその場に立ち尽くす。
切ったのは水夢の首だけど見た目は俺だからちょっとなぁ。
ていうか、もう魔力がなくなるな。
その前にあいつらに言っておかないと。
「雫、魔法を解除してくれ」
「分かりました」
こいつらの敬語は聞いてて違和感しかないな。
雫と叡犂が魔法で作った土の壁がどんどんと崩れていく。
「星奏、雫、お前達に命令だ。高野竜の捕縛を止めここにいる高野竜に魔力水を届けろ」
「分かりました」
「分かりました、師匠。帰ったらドラゴンを一瞬で倒す方法を教えてください」
そこに俺の見た目をした死体があるけどなんの疑いもなく俺の命令を聞いてくれたな。
ていうか、星奏は一体どんな夢を見たんだ?
お前だけなんかおかしいぞ。
2人は俺の命令を遂行するために町の方に走っていく。
魔力がきれたからか俺と水夢の見た目は元通りになる
水夢は死んだからかゾンビみたいな見た目になって倒れている。
「この死体は今は一応隠しておくか。町のやつらの洗脳が解けてきたな位でギルドに届けよう」
とりあえず、疲れた。
寝たい。
足は棒のようにだし。
ここで寝たらゾンビ達に襲われるんだろうな。
俺が限界を迎え地面に倒れ伏すと無鍬がやってくる。
無鍬は俺の服を口で噛みズルズルと知らない人の家の方へ運ばれる。
「ありが.......とう」
俺はそのまま眠りにつく。
俺は大量のゾンビを倒し近くにいたゾンビ教のやつと闘っている。
理由は相手から襲ってきたから。
「まさか500体のゾンビを倒しきるとは。流石は数ヶ月でBランク冒険者になったFさんですね」
「お前もここで死んどけ」
「流石にこれは作戦外でしたよ。この辺はあまり人が通らないから油断してました」
見た目的にこいつはゾンビ教の枢機卿の連中だ。
こいつをここで見逃したら竜が危なくなるかもしれない。
「ここは一時退散としましょうか。水夢さん、聞こえてますか?」
仲間と連絡を取る気か。
これ以上増えられたら厄介だ。
今、こいつだけでも仕留める。
「.......反応がないですね。もう死にましたか。では普通に退散するとしましょう」
「逃がす訳ないだろ」
俺は思いっきり剣を振るったが指で掴まれてビクともしない。
「あなた達も死にたくはないでしょう。ここはお互い様という事で」
でも、竜が危なくなる。
「龍之介君、退きたまえ。君の体の事もある。ここは一旦退くしかない」
「でも!」
「今、君が死んだら誰が竜君を守ると言うんだい?」
確かに、そうだな。
俺はゾンビから距離取り剣をしまう。
「では、さようなら」
そういうと枢機卿のやつはどこかへ消える。
華蓮さんは何事も無かったかのように車へと戻る。
「危なかったね」
「.......はい」
あのまま戦おうとしたら俺はどうなってたんだろ。
俺は車に戻りながら考える。
「まだ使えるね。良かった良かった」
俺は車の運転席に座ろうとする。
「ここからは私が運転するよ。君は寝てて」
「でも.......」
「君はさっきの戦いで疲弊してる。それに能力で身体能力を上げたときの負担だってバカにならないはずだ。休んでいてくれ」
「いや、でも!」
「札幌に着いてすぐに戦闘になったらどうするんだい? 私はちょっとしか戦えないよ」
確かにそうなんだけど。
間違ってはいない。
間違ってはいないんだけど.......
「免許持ってませんよね?」
「.......大丈夫!車を運転した事はあるから」
「大丈夫じゃないですよ。事故ったらどうするんですか?」
「大丈夫、自動車で車の運転上手いって言われたから」
「そこじゃねぇだろ。俺は持ってたけど、あなたは持ったことすらないんだろ? 危険でしたかねぇよ。そんな所で寝れるか!」
「安心しなって。事故ったことないから」
「運転してないからそうでしょうね」
俺は半ば無理やり助手席に座らされる。
こんな所で寝れるわけないだろ。
絶対休めない自信しかない。
「後で倒したこいつら回収して売ろっか」
「そうですね。生きていたら回収しましょう」
せめて、竜が成人するまでは生きさせてください。
それが俺から神様へのわがままです。
「.......暖かい」
俺は目を覚ますと知らない人の家の前で寝ていた。
なんか暖かいなと思って暖かく感じる方を見ると無鍬が俺を抱きかかえる様に横たわっていた。
こいつ、可愛いじゃん。
雫の眷属じゃなくて俺の眷属にならないか?
俺はゆっくりと立ち上がる。
ていうか、寝たならあいつらに魔力水持ってこさせる様に命じる必要なかったな。
多分、俺の魔力もかなり回復してるだろうしな。
俺が周りを見渡すと星奏と雫の2人が走ってきていた。
「高野竜いた。水夢師匠からこれ渡せって言われたからやる」
「こりゃどうも」
魔力水を持ってくるのにどれだけ時間をかけてるんだ。
空はまだまだ明るいし寝てたのは数時間ぐらいだな。
俺は魔力水を飲み干し水夢がいた建物に向かう。
「そういえば、水夢様はどこにおられるのですか?」
雫達が建物に向かってる俺について来ながら聞いてくる。
「.......水夢さんはちょっと遠くに行くって言ってたよ。その間は俺に従っていてくれって」
「なるほど、分かりました」
「師匠代理という事ですね」
よし、上手いこと騙せた。
水夢の死体はちょっと適当に隠したから探されたらすぐに見つかってしまう。
この場にいるのは俺だけだしこの2人に怪しまれてしまう。
洗脳されてるから多分頭が悪くなってるとはいえ死体を見たらバカでも俺を怪しむ。
見つけられないようにしないと。
「2人共、この建物に多分町のスピーカーを使う事が出来る何かしらの機械があるはずだから探してきてくれ」
「「分かりました」」
楽だな、これ。
こいつらを奴隷の様に使えるのは最高だ。
この間、俺は無鍬をモフってやる。
俺の傍で寝るぐらい俺に甘えてきたやつだ。
モフモフしてやらんとな。
俺が無鍬がいる方を見るともう既に無鍬が来ていた。
自分からモフられに来るとは可愛いヤツめ。
俺は無鍬の方に手を伸ばす。
「最初の事は水に流してこれからは仲良く――」
「バフ」
無鍬は俺の手をどけ雫がいる方に行ってしまう。
.......なんで人間じゃないツンデレキャラがいるんだ。
猫以外の動物しかツンデレは許されないんだぞ。
しょうがない、俺も探すか。
無事、スピーカーを使える様になる機械が見つかる。
「お前らはこの部屋から出ていけよ。絶対に中を見てはいけないからな。いいな!」
「「分かりました」」
やっぱり、この2人が敬語なのは調子狂うな。
2人は機械があった部屋から出ていく。
俺は水夢の声を再現してマイクを近付ける。
「どうも、水夢です。高野竜を追いかけるのを止めましょう。以上です」
これでよし。
多分、この建物の中には聞こえてこないしあの2人が違和感を持つことはないだろ。
俺は部屋から出て2人を見る。
「帰るぞ」
「「分かりました」」
.......早く洗脳解かれないかな。
僕は部下みたいな存在である水夢の死を確認する。
多分、高野竜にやられたんだろうな。
僕が部下の死に少し悲しんでいると後ろに手を組んでジジイが歩いてくる。
「やはり、お前の部下は弱いな。こうも一般人に殺られてしまうとは」
「僕の部下達は全員一般人だったからね。無理もない。100歳越えのジジイとは違ってね!」
「ジジイというな。私だってまだまだ現役だ」
ゾンビの力頼りな癖によく言う。
お前なんてあの人が誘ってなければ死んでてもおかしくない歳なのに。
「元軍人だからって一般人をバカにしないで貰える?」
「バカにはしてない。ただ、事実を述べただけだ」
ウザイな。
知ってるんだぞ。
日本酒が好きな癖に飲むと酔うからちょびちょび飲みでしか飲めない事を。
あの人に言っておくか。
笑い話にはなるだろ。
「あ、そうだ。あの人に言われた事を言っておこう。高野竜捕獲は私がやる。お前は使えない部下達と早く新しい宗教か何かを作って人々を誘惑する準備をしておけとの事だ」
新しい宗教か。
ゾンビ教の設定を凝りすぎてそれ以外の設定を考えるのめんどくさいな。
でも、人類ゾンビ化計画が失敗になるよりましか。
おまけ〈戻ってきた日常〉
俺は旅館の部屋で2人をニヤニヤしながら見つめる。
「.......あの時のは謝るからさ。その目で見るのやめて貰えるか?」
「そ、そうだよ。私達だって好きでやってたわけじゃないし」
俺が2人をニヤニヤしながら見つめてるのはもちろん2人が洗脳されていたからだ。
しかも、その状態で俺に攻撃してきた。
これならこんな顔になって仕方ない。
「お前らが洗脳されて絶体絶命って感じだったけどあの状態で逆転勝ちしたって事はもう俺が主人公って事でいいよなぁ!」
「それだけは反対だ!」
「一応、あの時の記憶はあるんだからね。私のパンツを見た事は忘れてないから」
「それは勝つために必要だったから仕方ない」
全く、主人公適性がないやつらはギャーギャーうるさいな。
それで俺に勝てると思ってるのかよ。
「主人公なら人助けをしろ!作中最強キャラ候補に入れ!」
「最後、水夢と決着つけれたのは誰のおかげだと思いますぅ?」
「洗脳なんかされてたやつらに言われても痛くもかゆくもない」
俺は勝ち誇った顔で2人を見下す。
「そんな事言っていいんだね? こっちには私がいる事を忘れないで欲しいよ」
「お前、まさか.......」
「そんな事言ってたら竜に料理作らないよ」
「和解と行こうか。俺達全員頑張った、以上」
「早いな」
俺は雫と星奏と手を握る。
「ていうか、星奏が今読んでる漫画早く読み終わってくれね? 俺も早く読みたい」
「1巻なら読み終わったから渡すわ。ちょっと待ってて」
「竜、そこ私の席だから取らないで」
「うるせぇ、早い者勝ちだ」
俺は旅館のよく分からない部屋の椅子に座る。
「ていうか、いつ帰るんだよ。もうそろそろいいだろ? 仕事も終わってるし早くお金貰いに行こうぜ」
「東京はまだまだ暑いからもうちょっとここにいようよ」
「今の札幌の気温は丁度いいし。まだ居たい」
ずっと居すぎて旅館の人達から奇異な目で見られるんだ。
あれはまるでなんで旅行に来てるのにずっと部屋にいるんだと言わんばかりの目だ。
あんな目で見られたくない。
まぁいっか。
今日も気温が丁度いいしな。