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憩いの一幕


 俺達3人は学校を出て、今年の春頃に出来たショッピングモールに来ていた。

 今から少し前、俺が佳南の為に倉橋君達と一悶着あった場所のすぐ近くだ。

 佳南が3人で遊びたいと言うもんだから、とりあえず晩ごはんまでは一緒にいる事にした。


「なんか3人で遊ぶの久しぶりじゃない!?」


 モールの出入り口、自動ドアが開くと同時に佳南がテンション高くそう言った。


「そうか?言っても夏休みも遊んだじゃん」

「あんたが怪我するから思ってたより遊べなかったけどね」

「う……はは、ドジっ子なもんでつい♡」

「きっも……」


 相変わらず言葉選びが酷くありませんか?佳南さん???

 俺達がいつも通りのやり取りをしていると、筑波がいつものように中和するような会話を──


「高知君、二度と怪我しないようにね。本当に次はないから」

「すみませんでした」


 ──してくれなかった。

 どうやら最近の天使は俺に厳しいらしい……。


『……』


 ま、まずい。このままのムードで過ごすのはとてもじゃないがしんどい!

 俺は無理矢理気味に話題を変えてみた。


「そ、そう言えば……さ!佳南も筑波もクラスの代表だったんだな!俺、知らなかったや!」

「倉橋君にお願いしたんだ。佳南ちゃんと2人で」

「へ、へぇ……」


 佳南が倉橋君に、ねぇ……。

 筑波はともかく、佳南がクラスの代表というのは些か疑問ではあったのだ。

 今のこいつは友達からハブられ、少なくともクラスの取りまとめ役なんて出来るコミュニティに属してはいない。

 それに、佳南が倉橋君にお願いというのもすぐには理解し難い。

 

 そんな俺の内心を察してか、歩きながら佳南が説明を引き継いだ。


「く、倉橋君がさ……要を驚かせられるなら全然オッケーだってさ」

「よし、あいつは一回殺そう」

「昔はそんな事言う人じゃ無かったんだけどね」


 無理をして笑っているようには見えないが、気まずそうに微笑む佳南。

 

「クラスの皆への伝達は倉橋君がやってくれるから、実質私達は代表代理みたいなものよ」

「そこまでする価値あるかなぁ」

「あったでしょ。あんたのあの驚いた顔……くふふ!」

「も、もう佳南ちゃん、笑っちゃだめ

……!ふふっ……!」


 2人が揃って吹き出してしまった。

 俺の表情一つで笑って頂いてありがたいですよ。くそが。


「お前ら、他に企んでる事は無いだろうな……?」

『つーん』

「ちょっと?」

『……』


 こ、こいつら!

 まだ何かあるの!?もう心臓に悪いのは勘弁だぞ!?


「ま、今が楽しければそれで良いじゃない」

「……絶賛絶望中なんですけど?」

「私達らしいじゃん」

「そうだね。うん、私達らしいや」

「はぁ……お前らが楽しいならそれで良いけどさ」


 嘆息と共に出た言葉は嘘じゃない。

 2人は本当に楽しそうに笑っている。

 つい俺もつられて頬が弛んでしまくらい、俺達を包む雰囲気穏やかだ。

 こんな時間がずっと続けば良いのに──そう願ってしまう程に。


 俺達3人はショッピングモールの服屋やペットショップ、ゲームセンターにクレープ屋と、一通りモールを周った。

 その間、2人は笑顔を絶やさず、俺達3人の時間を楽しんでくれた。

 夕飯を済ませ、気が付くと時刻は20時を過ぎようとしていた。

 俺達はモールの中央、誰の趣味か吹き抜けを真っ直ぐに天井まで伸びる、大きなレプリカの大樹の下でベンチに座っていた。


「結構いい時間になったな」


 俺の言葉に筑波が同調する。


「そうだね。今日は本当に楽しかった」

「またすぐ来ようよ!実行委員の帰りとか集まれるっしょ!」

「え?毎日来るつもり?飽きるだろ」

「このバ要は……そう思えるくらい楽しかったって言いたいの!」

「お前は本当に来そうじゃねーか」

「それはまぁそうだけど」

「私で良いなら付き合うよ佳南ちゃん」

「さっすが珠奈!大好き!」

「か、佳南ちゃん……!?」


 大好きと言った言葉の勢いそのままに、佳南は筑波に抱きついた。

 

「公衆の面前で何やってんのお前ら……」

「何よ。羨ましいの?」

「正直めっちゃ羨ましい」

「高知君……」

「ヘンタイ」


 2人の冷たい視線に、ちょっとだけ気持ち良いゾクゾクを感じる。俺は案外Mなのかもしれない……。


「ていうかあんたにもしたげた事あるじゃん」

「ぶふぅ!」

「あ、私も」

「筑波さんまで勘弁してくれませんか!?」

「嫌です。もう迷わないって決めてるから」

「……!」


 俺に妖しい視線を向ける筑波。

 俺が動揺していると、佳南の追撃が迫る。


「珠奈も答えを出したみたいだしぃ?私もそろそろ要からの返事を貰おうかな〜?」

「え、ちょ、ままま、待って!えらく急じゃないっすか……!?」


 2人の視線がマジである。

 ななな、なんで!?ついさっきまで普通に喋ってたじゃん!

 なんで急に恋愛モードに!?


「ふ、2人とも、何かありました……?」


 あまりの唐突さにそう言ってしまったが、2人は顔を見合わせて頭に”?”を浮かべている。

 

「何か、しかないよね?」

「だよね。むしろ要が普通に私達と接してるのが変というか……」

「えぇ……!?」

「いや、普通に考えてよ?女の子2人から告白されて普段と変わらず接してきてさ。あんた鋼のメンタルしてんじゃないの?」


 ぐうの音も出ない俺であった。

 とは言えだ。そりゃ相手がこの2人だからだし、気まずさを感じる瞬間はもちろんある。それを隠して普段通り過ごす方が2人の為だと思うんだけどなぁ……。


「ふ、2人の言い分は分かった。えーとつまり俺はお2人にそれぞれ返事をすれば良いわけね?」

『え』


 何故か2人が抱き合ったまま固まった。

 そして同時に頬を赤くしはじめる。


「い、今から……ほんとに……?」

「ねぇ……このヘタレがヘタレてない事言い出したわよ……!」


 本当に失礼だな。俺が返事をすると言っただけでこの反応ですか。そうですか。

 

「……んだよ。必要ないならしないぞ」

『いる!!!』 

「おぉ……凄い食い付き……」


 俺はコホンと咳払いを一つして、立ち上がった。

 

「えー……ではまず、こんな俺をその……す、好きだと言ってくれた事、非常に嬉しく思っております」


 佳南と筑波は真っ直ぐに俺を見上げて、続く言葉を待つ。


「それでその……お二人への返事だけど……」


 2人は揃ってコクコク、と頷く。

 俺はそんな2人に満面の笑みを伴って答えた。


「告白してくれてありがとう!でもやっぱり文化祭が終わるまで待ってて!それが返事!」

「ねぇ、こいつ一回殺さない?」

「そうだね。私も手伝うよ」

「本人の目の前で殺害予告はやめませんか?」


 仕方ないだろ!なーんも考えてなかったんだから!

 だけどせめてお礼くらいは言っておかないとと思って!

 

「はぁ……このバカに期待したのが間違いだった」

「ごめんなさい……」

「私は文化祭まで待つって言ったし別に構わないけど……」


 筑波は佳南の腕の中でボソッと呟いた。


「……やっぱりやるしかないかな……」

「え?なんて?」

「ううん!なんでもないないの!」

「?」


 エンジェルスマイルでそう言われたら引き下がるしかない。

 げんなりしてる2人を見て、少し申し訳なくなってくる。


「ごめんってば……」


 もう自分が情けなくってまじミジンコになりたい。


「お前らほんと俺なんかのどこがいいの……」 

「あ、そういう話しちゃう?とことん辱めてやるわよ!」

「うわ、いい笑顔!悪い意味で!」

「そんくらいは許容しなさいよ。要が悪いんだから」

「う……なんも言えん……」

「まぁまぁ佳南ちゃん、さすがに高知君がかわいそうだよ」

「筑波……!」


 やっぱり筑波は天使!依然変わらず!


「珠奈ってば、ほんとは恋バナしたいでしょ?」

「あはは、無理だよ。そんなのし出したら2人ともお家に帰れなくなっちゃうよ」

「え?」


 おろ?なんだ?ちょっと話しの流れが──


「いやいや私の方が話が尽きなくなっちゃうって!珠奈ってばそんなに要とエピソード無いでしょ?」

「えー?佳南ちゃんよりは多いと思うよ?だって佳南ちゃんってぽっと出の女の子だし……」

「え?なんて?今なんて言いました?珠奈?今私をなんて言ってくれたかもう一度教えてくれる?」

「あれ、よく聞こえなかった?佳南ちゃんは──」 

「ちょちょちょ、お二人とも!?さっきから言動に棘しか無いんですが!?」


 だんだんと2人の笑顔から温度が消えていってたので、俺は慌てて止めに入った。

 が、しかし。


「ちょっと要、今邪魔」

「高知君、後でいっぱい構ってあげるから少しだけ待っててね」

「あれぇ!?」


 目を細めて俺を邪険にする佳南と、人を遠ざけるような怖い笑みで俺をあしらう筑波。

 なのに、再び向き合った2人はなぜだか今日一番の笑顔で笑い合っていた。

 

「今、ライバルとケンカ(・・・)中なの」

「……!」


 その言葉は、俺が佳南の家に訪れていた日──佳南に告白をされた日に、彼女が俺に話してくれた信念の言葉。


 ──……私、要と恋がしたい。


 ──たぶん珠奈とはいっぱいケンカするだろうし、要にフラれちゃったらもう立ち直れないくらい傷付くと思う。


 ──だけど今までの……誰かを傷付けるような恋じゃなくて、どんな結末になってもそこに至るまでの"過程"を大事にしたいの……!


 そんな事言われたら、もうこのケンカを止める事は出来なくなっちまう。ったく……。

 俺はぽりぽりと後頭部を掻きながら、ため息を吐く。そしてつい余計な一言を発してしまう。


「はぁ……ならもう止めはしないよ。だけど良いのか?正直思い出の多さを引き合いに出したらマナに勝てる奴なんて──」

『ピクっ……』

「あ」


 2人が一気にずーんと肩を落としてしまった!


「ち、違う!別にまだマナに気があるとかそんなんじゃない!」

「……あったら今ここで私がぶっ飛ばしてやるわよ」

「ももも、もちろんだ!ただ、事実を言っただけだから!」

「……高知君……それ……一番心にクるかも……」

「あぁ、もう!わざとじゃないんだーーー!!!」

『ずーん……』

 

 わざわざ口に出してずーんて言わなくても良いじゃん!

 もう今日の俺は要らない事しか言えなさそう……。家に帰るまで黙ってようかな……。


 俺達の雰囲気がマイナス域をかち割ろうとした時だった。

 そいつは、唐突に俺の前に姿を現した──


「あれ、カナメ先輩じゃないですか?」


 俺の背後から軽い調子で誰かが呼びかけてくる。

 あの頃(・・・)から声変わりして、もはや覚えのある声ではない。

 それでもその声色は変わる事なく、そいつが誰か、俺にはすぐ理解出来た。


 体を半分後ろに向けて、俺はそいつと相対する。


「──海堂」

お読み下さりありがとうございます!


続きが気になる、面白い。

少しでもそう思って頂ける方がおられればぜひスクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆に評価やブックマーク、感想等ぜひ願いします!!

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