だから、筑波珠奈は
筑波珠奈。
彼女は普通の女の子だ。
際立った身体的特徴があるわけでもなく、成績は事情があってようやく平凡のレベルまできたくらい。
物腰は丁寧で、困った人を放っておけない心優しい女の子。
手の届かない突き抜けた美少女ではなく、触れれそうで触れれなくて……言い方は悪いがクラスで2番目に可愛い女の子、そんな感じだ。マジで言い方悪いな……。
だがだからこそ彼女の見せる笑顔は全男子を虜にするし、断言出来る。筑波珠奈は可愛いと。
まさに天使──そう形容するのに相応しい女の子なのだ。
さて、そんな彼女が表情を消し、恐ろしく冷たい眼差しを向けてくる場合……どうしたら良い……??
お互いに正座で向かい合う中、筑波が口を開く。
「二人きりだね」
「……そうだな」
「ドキドキするね」
「……そうだな」
本当に言葉だけを見ればね。
俺は現在強制連行の名の下に、田中──いや、筑波家を訪れていた。
家には誰もおらず、俺達は本当の意味で二人きりだ。
筑波は真っ直ぐに俺の目を見つめて口を閉じた。
一見キス待ちのような表現だが、それは大いなる間違いだ。
……俺の方から事情を話せと、目が言っている……。
「……あ、あの、筑波さんや……?俺、別に何か悪い事をした訳じゃ──」
「悪い事はしてない。そうなんだ。で?なに?もう一回言ってくれる?」
言えるかぼけぇ!!
怖い!怖すぎるよ筑波さんっっ!!
「……すみませんでした……」
「いや、謝罪とか要らないから。早く何があったか言ってくれる?」
「……はい」
……俺は昨夜の事を、目をピクピクさせたり、組んだ腕に指をトントンさせたりする筑波様の様子を窺いながら、5分程の時間を掛けて説明をした。
そりゃもう恐ろしい時間だったよ……。
「それで全部?嘘はついてない?」
「……包み隠さず全てお話しました」
「そう」
筑波は短くそう言った後、左手を引いた。
そして、空間に残像を残しながら俺右頬に向かい──
「っ!」
俺はつい目をつぐんでしまう。
だが、いくら待っても衝撃が訪れる事は無かった。
「……?」
疑問に思い、ゆっくりと目を開けると、右頬の辺りで平手打ちを寸土めしている筑波が俺を睨んでいた。
「今、私がどんな気持ちか分かる?」
左手を右頬の辺りで止めたまま、筑波は続ける。
「約束、したよね。琴色さんを助ける時は私と佳南ちゃんが助けるって」
「……あぁ」
「──もう私達を傷付けないって」
「……」
……もちろん覚えてる。
けれど、昨日はあぁするしか無かったと今でも思う。
たぶんそれを解っているから筑波もビンタまではしないんだろう。
だが、選んだ手段が納得いかない──そんな所だろうか。
俺の考えは続く筑波の言葉によって当たっていた事が分かった。
「高知君は頑張ったと思う。状況的に仕方ない事ばっかりだったとも思う。だけど、だけどさ……!」
「筑波……!」
筑波は俺の右頬にそっと左手を添えた。涙を伴って。
「なんでいつも自分を犠牲にするの……!?」
震える声で、俺に感情をぶつけてくる。
「高知君が傷付く事で私も傷付くんだよ!隠し通せるとでも思ってたの!?バカにしてるの!?いい加減止めてよ……!!なんで、なんで……!!」
「……ごめん……」
筑波は俺の胸を叩く。何度も。
「ごめんじゃない!!ねぇ、どうしたら無茶しないでくれるの!?」
「お、俺だってしたくて無茶した訳じゃ……!」
「だったらせめて私が近くに居る時にして!もう私の目の届かない所で無茶しないでよ……!!」
「目の届かない所って……」
んな無茶な。
それじゃ俺はずっと筑波の監視下に居なきゃならん。
筑波は俺の反論の余地を残さず、この数発の中で一番重い拳を俺の胸に打つ。
「大事な人が無茶して怪我して──ちょっとはこっちの気持ちを考えてよ……!!」
「……!」
筑波はそう言って俺の胸の中に頭を埋めた。
「筑波……?」
彼女はそこで少しの間動きを止めた。
こんな真剣な時だというのに、筑波の柔らかい体の感触と、髪の毛の良い香りに意識を奪われそうになる。
そうしてしばしの沈黙の後、筑波は俺の胸に顔を埋めたまま呟いた。
「高知君……この家覚えてる?」
「あ、あぁ」
もちろん覚えている。
この家は俺が一年の頃に訪れた家だ。
不登校の女の子を助ける為に。
少し前まで気付いていなかったが、その女の子が──
「ここは筑波──いや、田中の家だ」
「そう、一年の頃、高知君が救った女の子の家だよ」
「……どうして今それを?」
「高知君にもう無茶を止めてもらう為」
「? それってどういう……」
筑波は俺の胸元から顔を上げ、涙に濡れた瞳を真っ直ぐに向けてきた。
「私、高知君にもう無茶して欲しくない。だから
私が高知君の傍でずっと高知君を見てて良い理由が欲しい」
「つ、筑波……?」
俺達の距離は限りなく零に近い。
そして、彼女は言うのだ。
──天使のような笑顔で。
「高知君、私はあなたが好きです。私をあなたの彼女にして下さい」
その笑顔が、あいつと重なる。
イメチェンを果たす前の、田中の笑顔に──
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