狂躁の幼馴染み①
"幼馴染みざまぁ"を見届けて、更にその先の未来を見届けたあの日から10日程が過ぎた。
佳南は相変わらずクラスでは浮いた存在で、教室では俺が、体育など俺が居ない時は筑波がちょこちょこと、サポートしながら学校生活を送っていた。
あれ程人気だった女がいきなりカースト底辺みたいな扱いを受けてる訳だが、それ自体に佳南は挫けてはいなかった。
あって当然の罰だと理解しているし、何より「あの程度で離れて行くなら友達なんて呼べない。要なら良く分かるでしょ」との事だ。
どこがあの程度だとは思うが、まぁ佳南のいつものあれだ。察して欲しい。あいつはまだ成長の途中なんです。
俺が意外だったのはむしろ筑波かも知れない。
いわば腫れ物である佳南にこれ以上構う事はないと思っていたが、何やら最近は普通に友達としての距離で落ち着いている。
周りも段々とそれを受け入れており、筑波は自分達のグループの奴からも、ぼっちを助ける尊い天使として扱われ出した。
正しい行いをしてる分、煙たがれる事が無かったのかもな。さすが俺の天使。二つのコミュニティを持つ事を許されるとは。
さて、あの日からの顛末は大体こんな所だ。
正直、状況は大きく変わった訳じゃない。
やはり佳南と倉橋君が話す事はないし、七宮さんも厳しく睨みを利かせている。
佳南の腫れ物扱いも相変わらずって事は、俺のやった事で結局佳南が劇的に救われたのかと言うと微妙だろう。
それを本人に聞いても「バ要」と一蹴されただけで、何だかよく分からん。
全てが終わった佳南の感想も、今はまだ聞けずにいる。
と言うか、聞くまでもないだろう。
あいつはこれからもいっぱい傷付いて、その度に少しずつ人の気持ちを理解していくんだ。
その過程で何があろうと"諦めない"、あいつはそう言うに決まってる。
俺も……そろそろ答えを出さなきゃいけない。
佳南はきちんとけじめを着けて前を向こうとしている。
いつまでもこの強い女の子に負けっぱなしじゃ居られない。
あいつは一度俺達にちょっかいを掛けた。
このままじっとしてるとも限らないからな……。
あ、そうそう、何も全部が全部変わらなかった訳じゃないんだ。
それは──
「……うぃーす……」
まず一つ、俺の朝のギリギリ癖を矯正する為に、朝8時に例の旧生徒会室に登校するようにさせられている事。
おかげで眠すぎてヤバイ……。
そしてもう一つ。
「ちょっと珠奈!あんた意外とおバカさんだったのね!?本気で期末試験やばいわよ!?」
「たたた、助けて佳南ちゃん~~~!!」
女子二人がお互いの事を名前で呼び合うようになっていた。
一体どんな心境の変化があったのやら。
それを俺に知る由はない、が、気になるのも確かで……。
今度それとなしに探りを入れてみよ。へへへ。
と言うか、そろそろ俺に気付いてくんない?
だるい体無理矢理起こして来たんだよ俺。
俺が眠い目でぼーっと、旧生徒会室の前に突っ立っていると、ようやく俺に気付いた二人が凄い剣幕を向けて来た。
「あっ、ちょっと要!この子やばいの!見て中間試験の点数!この子これ、留年するかもだよ!?」
「わわわ、佳南ちゃん見せないで!高知君も見ないでーー!!」
「……ふむ」
見ないでと言われれば見たくなるのが人間だ。
俺は佳南が差し出した中間試験の点数一覧表を素早く受け取った。
「……筑波……父さんはお前の将来が心配だぞ」
「父!?」
「勝手に人の将来を心配しないでぇ~!!と言うか、大丈夫だから!私、やれば出来る子なのです!」
「と、申しておりますが母さんや」
「母っ!?……つまり夫婦──こ、こほん。珠奈?今からテストまでまだ5日程あるわ。きちんと勉強しましょう。お母さん達に任せておきなさい」
「うわーーーん!!」
筑波は顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。
やれやれ……筑波って意外とアホなのか、マジ意外。
主要5教科を合計して93点。
これはかの有名な五つ子さんのトップオブおバカさんの初めての中間試験より酷い点だ。はっきり言って笑えない。
「珠奈……あんたよくこの学校合格出来たわね……」
「神龍ってほんとに居たのな」
「二人とも酷いよぉ!?」
あまりにも悲惨な筑波の点数のおかげで目が覚めた俺は、ホームルームが始まるまで筑波の勉強に付き合う事にした。もちろん佳南も。
「……うぅ……ごめんね二人とも……正直助かる……」
こんなに弱った筑波は初めて見たかも知れない。
それにしても授業態度は真面目なのに、何でこんなに点が低いのやら。
「筑波って試験前に勉強しないのか?」
「ううん、ちゃんとしてるよ。ただ私、今の授業に付いていくのに必死で、この前の中間の時までは1年の頃の勉強してたから……」
「え、そうなのか?」
「うん……でももう追い付いたし、次の期末は大丈夫だと思う……」
『……』
何だか聞いてはいけない事を聞いてしまったような、微妙な空気が流れてしまった。
俺は空気を変えようと、慌てて話題を探した。
「あ、あの、そいやさ、昨日倉橋君にまた七宮さんとの惚気話聞かされてさ~。マジやってらんねぇのなんの……って……」
『……』
だよね!俺完全に話題間違えた!!
このメンツで"倉橋"、"七宮"は禁句に決まってる!!
マジやってらんねぇ……。
状況を見かねたのか佳南が助け船を出してくれた。
「ほんとバ要なんだから……珠奈、事情はともかく、勉強しないとマジで留年だし気合い入れてこ!」
「う、うん!ありがとう佳南ちゃん……!それにしても──」
「ん?」
筑波は何故か俺の方をじっと見つめて、ぽつりと呟いた。
「……本当に覚えて無いんだね」
「何が?」
「高知君、私達1年の頃からクラス一緒だよ?不登校だったの覚えてない?」
「は……?」
え???
「あんた……嘘でしょ……?そんな事忘れるとか……普通ある……?」
「い、いやいや!さすがに忘れっぽい俺でもクラスメイトの顔くらい覚えてるって!な、名前はちょっと怪しいけど……」
「サイッテー……」
「お願いその顔止めて泣きたくなる!」
だが待て、おかしい……さすがに筑波なんて珍しい名字のクラスメイトが出て来ないなんて。
俺の海馬はそこまで残念な事になってたのか──
「あ、まぁ私凄くイメチェン頑張ったし、名字も変わってるから仕方ないよ」
「筑波ぁぁああ!!お前、それを先に言えぇえ!!!」
危うく俺が残念な子認定される所だったろうが!!
「……だって……ほんのちょっぴり覚えてくれてるかなって期待したんだもん……」
「……」
聞いた?もんだって。期待したんだもんだって。
黒髪ショートの美少女が、目に掛かるくらいの前髪で俯きがちに顔を赤くして、もんだって。
「尊死……」
「あ、こら死ぬな要!珠奈の勉強は!?」
んなもんどうでも良い……。
俺は今この尊さを胸に召される事をのみ望む……。
「……これが、癒し……か……」
「高知君、さすがに恥ずかしいよ……」
俺の天使が天使過ぎてマジ召されそう。
これで隣のバカス女が居なければ、俺の青春はきっともっと素晴らしいものだったのに。
「げぇ……きっしょー……」
お前はもっともっと人を傷付けない言葉を選びましょうね?
※
一生懸命授業を受け、友達に勉強を教えて貰いながら1日を終えた私は、ある場所に向かっていた。
いつもならクラスメイトの安達華さんと帰るんだけど、今日はこれから大事な用がある。
私が向かっているのは2年Aクラス。
この学校の特進クラスといった所。
時刻は17時5分。
もう教室に生徒は居ないだろうし、私はその時間を選んだ。佳南ちゃんや高知君も既に帰宅済み。
これからするのは確認と警告。
佳南ちゃんは既に忘れ出してるけど、あの"謎のDM"の件、私と高知君は密かに調査をしていた。
結局、クラスの中にやはり犯人は居なかった。
それだけであの人を疑うのは少し無理がある。
だけど今から1週間前、旧生徒会室からある物が発見されてからは話が変わった。
旧生徒会室には盗聴機やカメラが巧妙に隠されていた。
あの場所は元々高知君とその幼馴染みさんしか存在を知らないし、利用している形跡も無かった。
つまりはそういう事なんだって高知君は言ってた。
一体何の目的があるかは分からない。
だけど少しずつ、じわじわと私達に、高知君に手を伸ばそうとしているのは確かだ。
迅速に対応しないと間に合わなくなってしまう。
高知君は一度私を助けてくれた。
更に私のお願い、そして佳南ちゃんとの約束も守った。
──今度は私の番だ。
高知君はまだ答えを出しきれてない。
でも私はそんな答え出して欲しくないの。
どんな答えでも高知君が傷付くのだけははっきりしてるから。
最近ね……高知君と佳南ちゃんと3人で過ごす時間が凄く楽しいの。
私はこの関係を大事にしたい。
間違っても関係のない人に壊されたくない。
だから私は今ここで終わらせる。
高知君は怒るかも知れない。
それでも私を助けてくれた、最高にカッコいい彼の為に私は──
「お待たせ、新京さん」
「いえ、田中──いや筑波さん、だったかしら?」
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ついに第3章開幕です!
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