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95話 魔王城突入

 その日、俺たちはレイラさんの酒場に集まっていた。いよいよ明日には魔王のいる旧都へ行く。ひょっとしたらこれが最後の晩餐になるかもしれないんだ。羽目を外し過ぎてはいけないけど、ちょっとぐらいパーッとやってもいいだろう。酒を飲むというよりは食べる感じだな、今夜は。


 バーボン、フィオナ、クレアに、エリカも来てくれている。バーボンは肉を豪快に食いながら、首飾りをひとつ机に置いた。この首飾りは魔法のアイテムだな。それに根っからの冒険者であるバーボンが意味もない装飾品で着飾るわけがない。


「収納魔法が込められてるな。何か武器でもしまっているのか?」

「ああ。タンジェリンの街まで行って、譲ってもらったんだ。最後の戦いで使えると思ってよ」

「タンジェリンの……? って言うと、まさか……」

「そう。そのまさかさ。四天王タルタロスの使っていた武器、魔鉄球だよ」


 タルタロス自身が魔法で作ったという巨大な鉄球だ。いわゆるモーニングスターであり、凄まじい威力を秘めている。なにせ俺の八咫鏡をぶち抜くほどなんだからな。しかも魔力を込めれば軌道も自在に操作できる。確かに単純な攻撃力面で言えば活躍の機会は多そうだ。


「俺にも使いこなせるかどうか、不安だったんで練習したが、案外なんとかなった。本番を楽しみにしててくれ」

「バーボンもパワーアップってことだな。頼りにさせてもらうよ」


 なんて言っていると目の前に座っているフィオナがしゅんとした様子で縮こまってしまった。


「すみません……私だけそういうこと、何もしてません……本番で役に立てるでしょうか……」

「いやぁ、フィオナには一番大事な回復役の仕事があるじゃないか。それに無限領域の力を使いこなせる唯一の存在だ。頼りにしてるよ」

「だと良いのですが……いえ、そんな弱気になっていては駄目ですよね。がんばります!」


 クレアは特に何か言うこともないのかワインを凄い勢いで飲んでいた。この店で一番高いやつだ。もちろんクレアには魔王戦で活躍してもらう予定だ。魔王には闇か光の魔法しか効かないってのはもう全員に共有してある。


「それにしても感慨深いですねぇ。ハルモニーの街で飲んだくれて吐いてばかりいたルクスさんと、同一人物に見えません」


 隣に座っているエリカが俺の古傷を攻撃してきた。あったな、そんなことも。何もかも嫌になって自暴自棄になっていた、としか言いようがない。さすがに精神的に参っていたんだ。みんなに出会えたおかげで、ちょっとずつ前向きに戻れたんだと思う。


「……そうだな。みんな、ありがとう。こんな俺と一緒に戦ってくれて。一筋縄ではいかない戦いばかりだったけど、みんながいたから勝ち続けることができた。最後の戦いも気を引き締めていこう」


 翌日、俺たちは王都ローレルを出発して旧都アンジールへと向かった。旧都に近づけば近づくほど、禍々しい、棘のある魔力を強く感じるようになった。この感覚は間違いなく、魔王の放つ魔力を感じ取っているってことだろう。


 意識しなくても警戒心を高めざるを得ない。気を抜いたらその魔力に精神をもっていかれそうだ。復活して間もない頃より、明らかに力を取り戻しているな。それでも全盛期には程遠いところが、救いと言えば救いなのだろうか。


 旧都に到着すると、そこは完全に廃墟となっていた。今の王都に遷都してかれこれ数百年は経ってるらしいから、建物も何もかも風化してしまって人が住んでいる気配は一切ない。まぁそっちの方が戦いやすいから良いんだけど。


 ただ、奥に聳えている城。それだけは真新しくできた新品みたいな美しさを保っている。おそらく魔法で建てたんだろうな。あの城が魔王の住む居城、魔王城と考えていいだろう。魔王城って言うとなんだか物騒で怖いイメージだが、目の前の城はそういう危ない雰囲気は感じない。むしろ人間の美的感覚から見ても美しい。


「よし……まぁ、みんな、そう緊張するなよ。細かい作戦は必要ない。真正面から魔王を倒す。作戦はこれだけだ。そのためにポーションや魔力ポーションを買い込んでるんだからな。長丁場になるのは覚悟した方がいいかもしれないけど」

「悪かったわね。私たちはルクスと違って一回目の挑戦なわけだから。もうちょっと気を遣ってくれる?」


 クレアは魔王アンフェールの魔力を間近で感じて柄にもなく冷や汗をかいている。ついた悪態は平静を装うためだろう。隣に立っていたバーボンが突然自分の頬を叩いた。


「……よし、いいぞ。俺の心の準備はできた。いつでも乗り込める」


 最後にフィオナは、両手を握り締めて神への祈りを捧げた。


「今回ばかりは、祈りが通じて欲しいです……心の底からそう思っています」

「まぁ、いきなり魔王と戦うわけじゃないから。たぶん最初は雑魚をけしかけて様子を見てくる」

「ふぅん。それって根拠とかあるの?」

「あるさ。性格だよ、性格。魔王じゃなくて、側近のパーガトリアのな。あいつは前に出たがらない。でも側近だから何かしなくちゃいけない。だから配下の魔物を使って様子を窺ってくるはずだ。最初は肩慣らしといこう」

「……なるほどね。それじゃあちょちょいと暴れてやりましょうか」


 いつものクレアに戻ってきたな。みんなも心配なさそうだ。魔王城に突入する前に、胸にしまってある懐中時計をまさぐり、手で触れる。オフィーリア。もし祈るならオフィーリアに祈ると決めていた。俺はこれから二度目の奇跡を起こさなきゃならない。どうか見ていてくれ。それだけで俺は限界を超えた力が出せる。


 魔王城の扉を開き、遂に中へと踏み込んだ。魔王城内部は外から見た時よりどう考えても広い空間を有していた。空間魔法の一種だろう。昔も似たようなことをしていた。一階は円形状の広大な空間になっていて、奥の方に大きな階段がひとつある。壁には幾つもの扉があり、何か仕掛けになっていそうだ。


 昔の魔王城は確か、侵入者が入ってくると外敵排除用の空間を展開するんだったか。そうすることで、居城本来の部屋や玉座、そして魔王も守るという仕組みだった。その空間を踏破しなければ、本当の城には入れないっていうわけだ。今回も同じだと考えるべきだな。


「ルクス。扉からいやーな気配を感じるわ。きっと魔物よ」

「まぁそうだろうな……最初から待ち構えてないだけ優しいのかもしれない」

「ルクスさん、私たちはいつでも行けます」

「ちょっと待った、持ってきた切り札を早速使うぜ。試したくてウズウズしてたんだ!」


 バーボンが首飾りを握り締めると、ずんっ、と重量感のある音と共に魔鉄球が出現した。俺も剣を抜き放ち、フィオナとクレアは魔法をいつでも使えるように魔力を練る。準備万端だ。


「そろそろ来てくれていいぞ。それとも新魔王軍さんにはハンデが必要か?」


 少し挑発してみたが効果があった。どこからともなく声が響いてきたのだ。パーガトリアの声で間違いない。


「図に乗るのもいい加減にしてください。そんなにさっさと死にたいなら殺してあげますよ」


 やはり本人が直接戦うのは渋っているようだな。おそらく側近のパーガトリアを倒さなければ魔王は姿を現わさないだろう。まずは奴が出張るしかない状況にまで持っていく必要があるというわけだ。


「四の五の言わずに自慢の配下をけしかけてくれ。倒してやるから」

「分かりました……ここまで来たんですからね。折角なので盛大に歓迎してあげましょう!!」


 無数の扉が一斉に開き、魔物の群れが殺到する。数は面倒なのでわざわざ数えないが、まぁ数百体は余裕でいるだろう。ワーウルフやトレント、ゴーレムにデュラハン。ドラゴンまでいる。魔物は完全な混成部隊で、統一感は全くない。俺が一番に切り込もうとした瞬間、バーボンがアイコンタクトを送ってきた。一番槍は任せろ、と。よし。バーボンの新たな力を拝見させてもらうかな。


「任された! こんだけ歓迎されちゃあこっちも男気をみせるしかねぇな! 行くぜ必殺、バーボンスマッシュ!!」


 雲霞の如く襲ってくる魔物の群れめがけて、バーボンは魔鉄球を投擲した。こちらから見て右端の魔物たちへ着弾する。魔鉄球は地面に落ちることなくそのまま加速し、左端めがけて弧を描くように猛進。敵を薙ぎ払っていく。前衛の魔物が瞬く間に身体を潰されて消滅する。


 前衛が瓦解したことで、魔物の群れの前進はその勢いを急激に失うことになった。反対に、俺たちはバーボンの攻撃の勢いに乗って、後続の魔物へと攻撃を加える。戦いは俺たちの有利で始まった。

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