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8話 戦士は酒を飲みたい

 バーボンはカウンター席でぐびぐび酒を飲んでいた。

 俺とフィオナは空いていた隣の席に座ってバーボンに話しかける。


「お久しぶりです。ちょっといいですか?」


 酒を飲む手が止まる。

 バーボンはこっちを見て、俺の顔をじっと見た。


「おお……酒飲んで吐いてた兄ちゃんか。元気だったかい?」


 最近は飲んでないけどな。もう気づいてしまったんだ。

 俺は体質的に飲めない体だってことに。

 それに最近は食事もフィオナと一緒のことが多いからな。

 仲間に迷惑かけるわけにもいかない。だから自重している。


「聞いたんです。仲間を探しているそうですね」

「あぁ……まぁな……一人でやるのに限界を感じてるんだ」


 バーボンを俯いて頭を掻きながらそう言った。

 ちょっとばつが悪そうだ。一応理由を聞いてみるか。


「なぜですか? この街で一番強いって聞きましたよ」

「いや……まぁそう言ってくれる人もいるが。今は金が要るんだ。ソロだと稼ぎが悪くてよ」


 なるほど金が欲しいのか。たしかにソロでは限界がある。

 報酬の良い依頼は大抵パーティーを組むのが前提なところがある。

 バーボンはビールの入ったジョッキをテーブルに置いて語り始めた。


「……俺には別れた嫁さんがいて娘も二人いる。その娘の一人が、病気でな……」


 バーボンの表情はとても暗かった。

 たしかにこんなクソ田舎のクソ依頼じゃ大して金は稼げない。

 普及している治癒魔法というのはだいたい外傷を治せる程度だ。

 決して万能ではなく、すべての病気には対応できないのが現状なのだ。

 難病も治せる腕の良い治癒魔法の使い手はだいたい法外な治療費を要求する。


「どうにかして腕の良い医者に診せてやりてぇんだ。そのための金が欲しい」


 バーボンは俺の顔を見て、深々と頭を下げた。


「頼む、この辺で良いパーティーはいねぇか? いたら教えてくれ」


 フィオナが俺の顔を見た。仲間に誘えということだろう。分かってるさ。

 そんな事情があるとは知らなかった。俺たちでよければ力になろう。

 PTランクこそ低いが依頼に失敗して無報酬、なんてことにはならない。

 俺がいるからな。ハイペースで依頼をこなせばこの街でも多少は稼げるはずだ。


「バーボンさん、俺たちも仲間を探してるんです。PTランクはまだEですが……」

「本当かっ!? 仲間に入ってもいいのかっ!?」


 ガバッと顔を上げたバーボンが俺の両肩を掴んだ。

 まだ実績を積んでる最中だが、この調子ならすぐDランクになれる。

 バーボンさえ良いのならそう悪くないパーティーだと俺は思ってる。


「助かる……! 本当に……本当にありがとうよ……!」

「いえいえ。記念に今日は一杯やりましょうか。俺は飲めませんけど奢りますよ」

「そ、そうか……? 悪い。ありがとな。では遠慮なく……」


 何気なくそんなことを口走ってしまったのが失敗だった。

 バーボンが基本的に酒癖の悪いおっさんであるということを忘れてた。

 俺はなぜ彼がいい歳なのにソロでこの街にいるのか、深く考えるべきだった。


「はっはっは! もっと酒もってこーい! 今日は祭りじゃあ!!」

「ば、バーボンさん……駄目ですよっ。他のお客さんに迷惑が……」

「いいんだよ、いいんだよ。細かいこと気にするじゃねーよ!!」


 カウンター席に立ちあがって騒ぐバーボンを必死で止めるフィオナ。

 俺たちは仲間に誘った後で実感したのだ。このおっさんの酒癖の悪さに。

 しかもすっごくアルコールに依存しているということに。

 他の冒険者と酔った勢いで喧嘩しかけたときはかなり焦った。


「お客さん、知らなかったんですか。この人の酒癖の悪さ」


 髭を蓄えた店主はどこか呆れているようだった。

 閉店時間になり俺とフィオナは泥酔するバーボンを連れて酒場を出た。

 バーボンはいびきをかいて寝ている。ツレがいない時は店主が馬小屋に放り込むそうだ。


 だから馬小屋で寝てる時があったのか。すげぇぞんざいに扱われてるな。

 俺はでかい図体のバーボンを背負って宿屋までフィオナと歩いていく。


「あの……私が間違っていたのでしょうか」

「いや……身の上話を聞いたせいで俺も酒癖のことは忘れてた」


 酒癖が悪いことは知ってたのになぜこんなことに。

 誰だってあんな話聞いたらつい協力したくなるじゃん。

 めっちゃ恥ずかしかったわ。このおっさんよく出禁にならないな。


「すみません、この人の部屋ってどこか分かりますか?」


 深夜に宿屋に帰って、俺は申し訳なさそうに店主に聞いた。

 三階か。また上の方だなおい。階段登るのがめんどくせーよ。

 部屋の扉を開けるとベッドに寝かせて、俺とフィオナも部屋に戻った。


 どうなるんだろうなこれから。

 でもバーボンの娘さんの病気は治してやりたいしな。

 少なくともそれまではなんとか上手く付き合うしかないか。


 朝になると俺は装備を整えてギルドハウスの前に向かった。

 十時に集まってギルドでパーティーの登録をしようという話になっているのだ。

 バーボンの奴、約束覚えてるかな。酔っぱらった勢いで忘れてそうだ。


「遅いですね……バーボンさん」


 フィオナは十分前にちゃんと来たがバーボンが全然来ない。

 一時間遅刻だ。俺は懐中時計でチラチラ時間を確認して待っていた。

 宿屋は同じなんだ。さすがに起こしに行くか、と思った頃。

 はぁはぁと息を切らしてバーボンが走ってきた。


「すっ……すまねぇ。寝坊しちまって……」

「いや……いいんだ。気にしないでくれ」


 バーボンは軽く頭を下げた。昨日の出来事でだいたい把握したからな。

 ある意味想定内だ。このおっさん、まぁまぁの駄目人間だぞ。

 国外追放された俺が言うのもなんだけど。


「じゃあ、気持ちを切り替えてパーティーの登録に行こうか!」


 俺はぱん、と手を叩いてテンション高めにギルドハウスへ入っていく。

 ちょっと気まずいムードが漂っていたからな。空気を変える意味でも。

 ギルドハウスへ入ると受付嬢が恭しく頭を下げて迎えてくれた。


「おはようございます、ルクスさん、フィオナさん。それに……」


 そこで受付嬢の反応が変わる。


「……バーボンさんまで。何か御用ですか?」

「パーティーの登録に来たんだ。俺はなるぞ、ルクスとフィオナの仲間に」


 バーボンのその宣言に、受付嬢は唖然としていた。

 血相を変えて俺の袖を引っ張り部屋の隅までささっと移動する。

 そして耳打ちしてきた。あのさぁ、これ怪しまれるから止めないか。


「正気ですかっ。バーボンさんですよ。あの。めちゃくちゃ酒癖悪いですよ」

「いや……それは知ってる。話のハズミでついそうなって……」

「それがですね、あの人はすごい問題がある人なんです」


 ごにょごにょと耳打ちが続く。


「あの人は仕事中にも飲酒するんですよ。意味分かります?」

「……酔っぱらった状態で戦うってこと?」

「そうです。昔はAランク冒険者だったのにそれが原因で降格を重ね今やDランク!」


 たしかにそれは危ないな。弱い魔物相手でも怪我しそうだ。

 よく今まで生きてこれたなあの人。でもおかげで合点がいった。

 元Aランクならこの街で一番強いと評判になるのは自然である。

 ソロでここに入り浸っているのも降格が原因だったわけだ。


「ギルドも注意してるんですけどね。あなたは信頼性に欠けるって。けど言うこと聞きませんから」

「完全にアルコールに依存してるみたいだからな……」


 俺は医者じゃないから依存症の治し方まで分からんぞ。

 ともかくここまで来てしまったんだ。しばらくは様子を見よう。


「まぁ……とりあえず一緒に依頼をこなしてみるよ。あの人にも事情がある」

「私は止めました。ルクスさんなら、どれだけ足を引っ張られようと大丈夫かもしれませんが」


 それで話は終わりになり、俺は咳ばらいをして椅子に座った。

 フィオナとバーボンも横に座ると、フィオナが尋ねてきた。


「何の話をされてたんですか?」

「うん。実は最近太り気味で悩んでるそうで……」


 すまん嘘だ。ともかく俺たちのパーティー登録が進む。

 必要書類にサインを書いていく。これでメンバーにバーボンの名が刻まれた。

 パーティー名はまだ決めておらず空欄のままだ。いつまで続くか分からんし考えるのが面倒だった。

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