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64話 マニャ族の集落

 クレアたちが野営しているところまで戻ると、倒れているエルフを見かけた。

 俺が戦っている間、みんなもエルフに襲われていたみたいだな。

 エルフも気絶こそしているが死人はいないみたいなので、一安心した。


「ルクス、薪を集めに行ったんじゃないの。なに女の子をナンパしてるわけ?」


 早速クレアに冗談を言われた。俺は愛想笑いするしかない。

 アイシャは猫耳をぴょこぴょこと動かしてからみんなに挨拶をした。


「私は『禁断の森』で暮らすマニャ族のアイシャにゃ。長老の占いに従い、皆さんを集落まで案内するにゃ」

「マニャ族……そういう種族もいるのね。私はクレア。一応パーティーのリーダーをやってるわ」


 クレアがアイシャと握手をする。と同時に密かに嘘発見の魔法をかけた。

 友好的に見せかけて罠に嵌める気なのか、真実を言ってるのか、確かめたな。


 まぁ嘘発見の魔法と言ってもあれは嘘を吐いた時の生理反応が分かるだけだ。

 完璧では無いし、すり抜けるやり方も幾つかあるのだが、ともあれクレアが俺を見て軽く頷いた。どうやらアイシャは嘘発見の魔法に引っかからなかったらしい。当面は信用して良さそうだ。


 アイシャ曰く、『禁断の森』には五つの種族が暮らしているという。

 たぶん全ての種族が排他的というわけではない、という事なのだろう。


「占いか。お嬢ちゃんは俺たちが来るのを分かってたのかい?」


 バーボンの問いかけにアイシャが答えた。


「そうにゃ。マニャ族の長老は占いが得意なのにゃ。『森を脅かす恐ろしい闇が迫る時、人間の勇者たちが現れ闇を払うであろう』と占いに出ていたのにゃ」

「勇者か……ある意味当たって……いや何でもねぇ。まぁ歓迎してくれるなら嬉しいぜ。俺たちは四天王退治で遥々ここまで来たわけだからな」


 おいおい。バーボンしっかりしてくれよ。俺が勇者なのは秘密なんだからな。

 ともかくアイシャの案内で俺たちは『禁断の森』に踏み入ることになった。

 アイシャ曰く、エルフの一族はマニャ族の占いに否定的とのことだ。


 戦った時も言っていたな。自分たちの運命は自分で決めると。

 例えどれほど恐ろしく勝てない敵が相手でも部外者の手は借りたくない。

 そういう頑固な印象を受けた。まぁエルフの道理も分からないわけではない。


 アイシャの案内で『禁断の森』の中をしばらく進んだ。

 森は整備された歩きやすい道もなく、せいぜい獣道がある程度。

 俺たちもプロの冒険者だからアイシャについて行けるが、中々ハードだな。


 しばらくして開けた場所に出たかと思ったら、そこがマニャ族の集落だった。

 大樹に寄りそうように藁の家が密集している。気配を察した家から猫耳の人たちが次々と家から出てきて、俺たちを囲う。珍しいものを見るような目だ。彼らにとっては、普通の人間がよほど奇異に映るのだろう。


「占いの勇者たちを連れてきたにゃ。森番のエルフを返り討ちにするくらい強いのにゃー。長老はどこにいるにゃん?」


 アイシャの話を聞くとすぐさま大人のマニャ族が長老を連れてきた。

 見た目は何というか、ほとんど猫だな。うん。人間サイズの二足歩行している猫だ。体毛は雪のように真っ白で、口に立派な髭を蓄えているが。俺には猫にしか見えない。


 マニャ族は祖神ニャンカニャルナの血が濃いほど猫っぽくなると聞く。

 よーくマニャ族たちを観察してみると猫っぽさがそれぞれ微妙に異なる。

 アイシャのように猫耳が生えてるだけの者もいれば、手足や顔立ちまで猫に近い者もいる。


「アイシャ、案内ご苦労だったのにゃ。よくぞおいで下さいました、勇者の方々。儂は長老のニャコックですにゃ」

「勇者は大仰ですね。ただの冒険者ですから。私はクレア。このパーティーのリーダーです、よろしくどうぞ」


 ニャコックさんとクレアが握手を交わす。

 アイシャの言った通り、マニャ族は部外者の俺たちにも友好的だな。良かった。

 しかしクレアの奴いつまで握手するんだろう。ずーっと手を離さないぞ。


「肉球がぷにぷにして気持ちいい……」


 あいつ、何言ってるんだ。

 ニャコックさんは朗らかに笑ってこう返した。


「ほっほ。そうですかにゃ? 褒めても何もありませんにゃ」


 ともかく長い握手が終わって俺たちは長老の家に招かれた。

 長老の奥さんが――これまた猫っぽい見た目だ――手料理を振舞ってくれた。

 食べ物とかは俺たちとあまり変わらないな。味付けの好みがちょっと違う気もするけど。雑談もそこそこに、俺は本題を切り出した。


「それで……ニャコックさん。四天王のリンボルダが、何処にいるかご存知でしょうか?」

「うぅむ……それが四天王自身は姿を現わさないのですにゃ。この森の何処かにいるはずなのですがにゃ」


 タルタロス同様、用心深い方らしいな。これは手間がかかりそうだ。

 しかしこの森を探索するってのは少し危険かもしれん。

 またエルフと鉢合わせしたら戦いになってしまうだろうし。それは避けたい。


「あるいはエルフ族なら知っているかもしれませんにゃ。新魔王軍との戦いを一手に引き受けてくれているのは、彼らとドワーフ族なのですにゃ」

「なるほど……そうでしたか。でもエルフは俺たちを頑なに拒絶しています。協力してくれそうにはありません」

「方法が無いわけではありませんにゃ。この森には昔から五つの種族が住んでいますにゃ。エルフ族、ドワーフ族、マニャ族、バウバウ族、ポンタ族。それぞれの種族に長老がおり、合議制で成り立っていますのにゃ」


 そこで俺はピンと来た。そうか。

 たとえエルフに拒まれても、他の種族に了承を得ればいいのか。


「エルフ族以外に信用されれば、例えエルフ族が拒んだとしても協力せざるを得なくなりますのにゃ。つまりドワーフ族、バウバウ族、ポンタ族を味方にすれば良いんですのにゃ」


 突破口はそれしかない。そしてこれにはマニャ族の協力が不可欠だ。

 俺たちだけで頼みに行っても、不審に思われるだけだろうしな。


「しかし……なぜニャコックさんは俺たちを信用してくれるんです?」

「失礼ながら、信用したと言うよりは賭けたのですにゃ。憚りながら儂の占いは、結構当たりますのにゃ。人間の中にも善良な者がいるはずだと賭けましたにゃ。儂も決断するのにかなりの努力が必要でしたにゃ」


 決断に努力を要したのは当然のことだな。

 人間はかつて亜人を奴隷扱いするという嫌われても仕方のないことをした。

 両者には深い溝がある中で、ニャコックさんは俺たちに貴重なチャンスを与えてくれた。


 それは俺たちがかつての人間とは違うという証明をする機会だ。

 簡単に溝が埋まることは無いが、そのための一例になれればと俺は思う。


「ニャコックさん。俺たちは今までこの国を襲った新魔王軍と戦ってきました。敵は一筋縄ではいかない相手ですが、犠牲者は一人でも減らしたい。それはこの森に住む人々も例外じゃありません。皆さんのために戦わせてください」


 ニャコックさんは俺をじっと見た後、にんまりと笑ってこう言った。


「ほっほっほ。本当に占い通り、人間の勇者様がやって来たようですにゃ。光明が見えましたにゃ」

「あ……いや……その。勇者というのはちょっと。それほどの者ではありませんので……」

「そう照れなくても良いですにゃ。とりあえず今日は我が家でゆっくりとお眠りくださいにゃ。明日からは他の種族に根回しをしなくてはいけませんにゃ。その上で集会を開き、エルフ族に勇者様たちの協力をさせますにゃ」


 もう夜も更けてきた頃合いだ。ニャコックさんは俺たちを寝室に案内してくれた。クレアとフィオナは別の部屋に通され、俺たちは別の部屋へ入る。部屋には準備良く藁布団が敷いてある。荷物を降ろし、藁布団に潜り込んでしばらくして、俺はバーボンに話しかけた。


「……中々寝つけないな。バーボン、何か嫌な気配を感じないか?」

「そうだな……この『禁断の森』を覆っている雰囲気のせいかもしれんな。監視されてる気がするぜ」


 その雰囲気の正体こそ新魔王軍、いや、四天王リンボルダの気配なのだろう。

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