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53話 ヘルヘイムの本領

 俺の武器であるブロードソードはどこの武器屋でも売ってる安物だ。

 安価だから魔物との戦いだとすぐ刃毀れするし折れることもしょっちゅうある。

 だがそんな武器も使い慣れてしまえば、俺の腕の一部と言っても差し支えない。


 剣から伝わるこの感覚。ヘルヘイムに与えた一撃は確実に致命傷だ。

 俺は完全にこいつの脳天をかち割っている。

 なんなら額あたりまで刀身が食い込んでいるのが見えていた。


「バーボン、一度離れよう!」


 ヘルヘイムは無言でぐったりしている。

 戦っている最中は結構おしゃべりな奴だったんだけどな。

 俺とバーボンは武器をヘルヘイムの身体から引き抜いて地面に着地。


 すると宙に浮いていたヘルヘイムもまた、地面に墜落した。

 頭から落ちて力無く地面に這いつくばっている。

 俺とバーボンは警戒を解いていない。


 いやむしろ、ここからが本番とも言える。

 ヘルヘイムが名乗った通り、不死鳥であるのなら。


「……来るぜ。みんな気をつけろよ!」


 バーボンは斧を構えて一歩前へ出た。

 ヘルヘイムの身体が瞬く間に自らの黒炎に包まれる。

 これがフェニックスという魔物のお決まりパターンなのだ。


 不死鳥は炎の中から蘇る。

 魔力がある限り、命が尽きても我が身を燃やし復活する。

 アンデッドは死なない魔物だが、フェニックスは本当に死んでも生き返るのだ。


 両者は微妙に能力が違う。どう違うかは光系魔法の効き目で分かる。

 光系魔法を食らったアンデッドは浄化の効力によって消滅する。

 フェニックスの場合は、浄化の効力で同じく消滅するのだが、その後復活する。

 そう。魔力ある限り、何度でも。それがフェニックス固有の特性である。


 この魔物と戦う場合は、基本的に消耗戦となる。

 フェニックスの魔力が尽きるまで倒し続けるしかないのだ。


「……バーボンは、フェニックスと戦ったことがあるのか?」

「若い時に一度だけある。結局、追い払っただけで倒せなかったんだがな」


 なるほど。だからヘルヘイムに対しても警戒を解かなかったのか。

 フィオナとクレアは、まだ状況を上手く飲み込めていないところがある。

 もう倒したのではないか、という疑問があるのだろう。


「二人とも、相手はフェニックスだ。さっきの攻撃で一度は殺せたが、じき復活するだろう。相手の魔力が尽きるまで倒し続けなきゃいけない……長期戦になるぞ」


 頭が痛くなってきた。同じ四天王のタルタロス相手でも結構キツかったのに。

 俺の奥義を隠していたのと、連携が上手くいったおかげで、被害も無く倒せたけど。今回もこっちの都合の良いように事が進むとは思えない。


「そんなのってアリ? しつこい男は嫌いなのよね……」

「力ある限り、頑張ります。何度でも食らいついてみせます……!」


 クレアは明らかに面倒くさそうにしている。実際かなり厄介だからな。

 対してフィオナのやる気は十分だが、炎系魔法の達人に果たしてどこまでフィオナの氷系魔法が通用するのか。俺にも分からない。


 でも不思議なことに、俺はフィオナの能力に底を感じたことがない。

 今は通じなくてもすぐに成長して追い抜く可能性もあるだろうと考えてしまう。

 俺の願望に過ぎないがヘルヘイム攻略の鍵はフィオナなのかもしれない。


「いやぁ……痛かったよ。敗北を味わったのは本当に……久しぶりだ」


 黒く燃える炎の中から声が響いてくる。ヘルヘイムだ。

 炎の中にある肉体は、すでに人間のものでは無くなっていた。

 鋭く尖った嘴。無機質な瞳。腕は巨大な翼と化し、足の形状も鉤爪のようだ。


 これがヘルヘイムの本当の姿なのか。

 黒い炎を纏った――人間より遥かに大きい怪鳥。

 なるほど、『黒炎の不死鳥』という異名その通りの見た目をしている。


「さて。第二ラウンドといこうか。覚悟は出来ているかね」


 巨大な鳥と化したヘルヘイムが再び空高くへと舞い上がった。

 奴の周囲に黒炎の火球が幾つも浮かぶ。攻撃が来るぞ。


「人様を一度殺しておいて何も無いというわけにはいくまいね!? 命で償ってもらおうか!」


 そこから決着がつくかも分からない長期戦が始まった。

 クレアの闇系魔法、『常闇の羽衣』と俺の魔力障壁『八咫鏡』で黒炎を防ぎながら、バーボンが攻撃を仕掛けていく。だがフィオナの氷系魔法はヘルヘイムの炎系魔法と相性が悪く、中々通用しない。


 そのため疲労を癒す回復役としてサポートに徹した。

 隙を見てはクレアと俺も攻撃に参加するが、きりがない。本当に何度でも復活する。結局バーボンが七回、俺が四回、クレアが三回、ヘルヘイムを殺した。

 それでもヘルヘイムの残り魔力にはまだまだ余裕がある。


「はぁ、はぁ……」


 俺は息を切らしていた。肉体的な疲労はフィオナが癒してくれる。

 だが魔力に関してはそうもいかない。先に魔力切れになるのはこちら側だろう。

 ヘルヘイムはつまらなさそうに溜息を吐いた。


「しつこいね。ここまで粘るとは思わなかったな……もう数時間は戦い続けている。ほら、日が傾いているじゃないか」

「お互い様だろ……普通の生き物は一回死んだら終わりなんだよ」

「ふっ……ふふふっ。いやそうだな。確かにそうだ。しつこいのは私の方か?」


 ヘルヘイムの炎と蘇生能力は恐ろしいが、倒すための隙も多い。

 それにこいつの性格が少し分かりかけてきた。飽き性だな。

 長期戦に突入してからというもの、戦闘パターンが単調になっている。

 まぁ本来なら戦いに付き合っていれば勝手に敵が消耗して力尽きるのだろうから、それでも良いのだろう。


 実際、俺たちには限界が訪れようとしている。

 その間に何度殺せるだろうか。せいぜい、二、三度か。


「私も君たちのことが分かってきたよ。正直……いつでも殺せるな。私はまだ七割の力も出していないぞ」

「そうか……そりゃ大変な話だ。俺も本気で戦った方がいいかもしれない」

「さすがは勇者。減らず口に聞こえないのがいいね。私はね、君たちのことがそれなりに気に入った」

「……どういうことだ?」

「私は永遠を生きるフェニックスだ。人間のように寿命が来てもすぐ蘇る。だからかな。生き物の儚さって奴に『美』を感じる。死を恐れず勇敢に戦う君たちを好きになったよ。そういう者は敵味方問わず尊敬する」


 敵ながらあっぱれ、って感じか。気に入ってもらえて嬉しいよ。

 なにせヘルヘイムのおしゃべりの時間を俺たちは回復に費やせるからな。


「だがパーガトリア様から、勇者だけは必ず殺せと言われていてね……そこが悩みなんだ。君にだけは死んでもらう必要がある。そこで……勇者、ものは相談だが自主的に死んでくれないか?」


 その時、空中にいたヘルヘイムが黒炎を放ちながら急降下してきた。

 俺たちは散開して回避するが、奴は軌道をぐんと変えてフィオナを狙う。

 ヘルヘイムは俺たちとフィオナの間に黒炎の障壁を張って行く手を阻む。


「人質だ。この少女は頂いていくぞ! 勇者、君の命と交換にしよう。明日の正午まで時間をやる。この街の領主の屋敷にその首を持ってこい。せいぜいよく考えることだ……!」


 ヘルヘイムは鉤爪のような足でフィオナの身体を掴んで飛び去って行った。

 俺はクレアの方を向いたが、首を横に振った。

 飛翔魔法が使えるのはクレアだけだ。


「ごめんなさい、黙ってたけどもう魔力が無いわ……追いかけられない」


 何てことだ。いくら消耗していたとはいえ、仲間を攫われてしまうとは。

 これは俺の失態だ。奴の口ぶりからするとフィオナが危険な目に遭うことはないだろう。だが倒す方法も見つからず、あまつさえ人質を取られてしまった。状況はかなり悪い。

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