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43話 コロッセオに潜入せよ

 コロッセオへの潜入に立候補者が二名か。俺だけで十分と思ったが、さてどうするか。今更クレアとバーボンの実力を疑うところではないが、危険な役割には違いないのだから。


「そうだな……じゃあバーボンはついて来てくれ。クレアは待機」

「えー……なんで? ちゃんと理由はあるんでしょうね?」


 クレアは露骨にがっかりしている。だけど俺なりの理由もあってのことだ。


「敵に手の内を全部見せたくないんだ。クレアは四天王にも通用するだけに……な」


 力押しのバーボンと違ってクレアの戦法は隠しておけば分からん殺しが成立する。俺との戦いで見せた闇系魔法は四天王に対しても有効的な切り札になるだろう。それを潜入作戦で披露してしまうのは、いささかもったいないと思うのだ。


「女の子二人をこんな何もない森に置いていく気? なんて、冗談だけどね」

「はは……すまないクレア。じゃあ何かあった時は二人とも、よろしく頼むよ」


 クレアとフィオナを馬車に残して、俺とバーボンは徒歩で街へ向かう。

 武器は馬車に置いてきた。丸腰になることで街の住民だと思わせるのだ。


 森を抜けてからタンジェリンの街まではすぐに着いた。

 街のあらゆるところに戦闘の痕跡が見受けられる。酷いものだった。

 昼にも関わらず、そこに生きるあらゆるものが死に絶えたかのように静かだ。


「廃墟だなまるで……人間の気配をまったく感じないぜ」

「このままコロッセオの近くまで行ってみよう。魔物がいるかもしれない」


 俺たちはあくまで一般人を装いながら、ゆっくりとコロッセオへ向かう。

 その間、俺とバーボンはコロッセオに潜入するための打ち合わせをしていた。

 魔物と出くわしてその場で殺されたら意味ないからな。まずは捕まらなくては。


「……街の住民の演技をして、相手を騙すんだ。魔物と出くわしても戦っちゃ駄目だぞ」

「遭遇した魔物が即襲ってくるような知能だったらどうする。逃げるか?」

「その場合はそうだな。話の通じる魔物だといいんだけどね……」


 その時、後ろからずしん、と地響きじみた足音がした。

 冒険者の職業病で、俺たちは反射的に振り返りながら距離を取る。


「なんだぁ……? まだ生き残ってる街の住民がいたのかぁ……?」

「コロッセオから逃げ出したんじゃないだろうな。だとするとこれは問題だぞ」

「あー……人間なんてどいつも似たような顔だから、そんなの分からねぇよ」


 鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体、それに牛の頭。ミノタウロスだ。

 Bクラス相当の魔物。それが三体も当たり前みたいな顔をして街の中にいる。

 本来なら俺とバーボンの敵じゃないが、これは潜入作戦だ。一般人のフリをしなくては。お誂え向きに知能は人間並みにはあるはずだ。上手く騙されてくれよ。


「た、助けてください、命だけは……!」


 俺はとっさに膝から崩れ落ちると諸手を上げて命乞いのポーズに入る。

 どうだ。これがこっそりと冒険者を続けるため磨き抜いた俺の演技力だ。

 控えめに言ってもこの道に関してはプロ級だと思ってる。


「げはは。一瞬強い奴かと思ったが情けない雑魚だぜ。この場で殺してやる!」

「俺たちが欲するのは強者のみだ。そういうやつは目が違うものだ」

「吐き気がする……いるよなぁこういうゴミが。今ここで処分してやるか」


 ぬぅぅ、と三体が持っていた斧を構えて近づいて来る。

 ちょっと待て。思ってた話の流れと違うぞ。俺を捕まえずにここで殺す気だ。


 あっそうか。こいつらがコロッセオに捕らえているのは冒険者や騎士ばかり。

 骨のある強い人間と戦うため捕まえるのであって、命乞いをする弱い奴は求めてないんだ。ニーズがめんどくさいな。


「ちょっと待ってくれ。ルクスは俺の仲間なんでな、殺させるわけにはいかん」


 その時、ずいっと前に出てバーボンが庇ってくれた。

 ミノタウロスたちはほほぉ、と言ったようになぜか感心している。


「お前……戦士の目をしているな。名を名乗れ。今この場で殺すには惜しい」

「大人しく投降すれば助かるチャンスを与えてやる。もっとも、力を示す必要はあるがな」

「俺たちミノタウロスは生まれた時から誇り高い強き者。お前のような奴は歓迎する」


 バーボンは素で話しているだけだが、ムードが違う。

 これはいけるんじゃないか。ついでに俺も捕まえてくれないかな。


「ルクスの命は助けてもらおう。それなら喜んで捕まってやる。そうでなければ、お前たちと命を賭けて戦うまでだ」

「フン……いいだろう。どうしようもないゴミだがついでにチャンスを与えてやるわ。ついてこい!」


 ゆ……許された。釈然とはしないが。

 黙ってついていくバーボンが一瞬だけ俺を見て笑った。

 俺がリードするつもりだったけど、すっかり助けられてしまった。

 ミノタウロスたちは俺とバーボンに手枷を嵌めてコロッセオへと連行する。


「近くに来るとコロッセオのでかさが分かるな。どうせなら観光で来たかったよ」

「この建造物はお前たちの祖が造ったものだろう。驚くなんて妙な話だな」


 俺の呟きにそう返したミノタウロスたちがいよいよコロッセオの中へ入る。

 その足は地上ではなく暗い地下へと進んでいた。きっと大昔もこうして奴隷なんかが連れてこられてたんだろうな。


 地下は薄暗い上に妙にじめじめしていて、まるでダンジョンに来たのかと錯覚した。人間が過ごすにはまるで不向きとしかいいようがない空間だった。

 自由と束縛を別つための鉄格子がカーテンのように延々と続いている。


 ありていに言って、地下は丸ごと巨大な牢屋になっていたのだ。

 牢屋の中にいるのはフロウの情報通り、捕まった騎士や冒険者らしかった。


「この牢屋に入れ。運が良ければ我らミノタウロスの対戦相手に選ばれる。その戦いに勝ち抜けば自由の身だ。解放の条件はとても簡単だろう?」


 俺とバーボンは黙って牢屋の中に入ると、適当にその場に座り込んだ。

 最初こそ失敗するかと思ったが予定通りの展開。後はどうやって対戦相手に選ばれるかだな。

 運が良ければ、ってことは向こうの都合で選ぶってことか。面倒だな。そんな悠長に選ばれるのを待つ気はない。サクッと勝ち上がってサクッと四天王を倒す。


「あなたたちは……街の住民の方ですか?」


 声がして、その時俺たちはようやくその少年の存在に気づいたのだ。

 薄暗い牢の隅っこに座り込んでいたのと、気配が消えていたので気づかなかった。どうも盗賊の冒険者らしい。まだ若い。年齢は十三といったところだろう。


「ごめんよ気づかなくて。君は? 俺はルクス。こっちは……」

「冒険者のバーボンだ。よろしく頼むぜ。こんなおっさんだが仲良くしよう」

「僕はアランです。気配を消していたので分からなくても無理はないですよ……」


 なんとなく分かった。アランは対戦相手に指名されないように最大限隠れていたのだろう。フロウの話では武器も無く裸同然で戦わされるらしいからな。無理もない。


「まだ捕まっていない冒険者の人がいたんですね……もうみんな捕まったか死んだかと……」

「まぁ、俺とバーボンは運が良かったんだ。しぶとさには自信があってね」


 俺たちが四天王を倒しに来たという話はあくまで伏せておく。

 何がきっかけで情報が洩れるか分からないからな。彼自身のためにも。

 もしバレてしまったら姿を隠している四天王が余計に警戒する。そうなったら作戦はオジャンだ。

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