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31話 人狼の魔眼

 金色の毛並みを持つ人狼、ルー・ガルーは戦況悪しと見て後ろへ跳躍。

 距離を取ってからじろっと俺たちを睨みつけた。


「並みの冒険者じゃねぇな……! 厄日だぜこりゃあ……!」

「今更気づいたのかい? そいつぁちょっと遅すぎるぜ……!」


 バーボンの言葉を聞いて、ルー・ガルーは不気味に笑った。

 追い込まれているにも関わらずまだ余裕があるらしい。

 何か手の内でも隠しているのか。なら本気を出す前に倒す。


「バーボン! 一気に仕留めよう! 今がチャンスだ!」

「おうともよ!」


 俺とバーボンでそれぞれ左右から攻撃を仕掛ける。

 戦斧と剣が振り下ろされた瞬間、俺たちの動きは止まった。

 ルー・ガルーに攻撃を命中させる寸前の出来事だった。

 理由は分からないが急に身体を動かせなくなったのだ。


「フッフッフッ……まさか『魔眼』を使うことになるとはな」

「ま……魔眼……だと!?」


 魔眼とは、その名の通り魔法の力を秘めた眼のことだ。

 メデューサという魔物が持つ石化の魔眼などがその代表例と言える。

 よく見るとルー・ガルーの瞳がいつの間にか血のように赤く染まっていた。

 油断していた。まさかこいつがそんな切り札を持っていたなんて。


「そうよ。俺は金縛りの魔眼を持つ人狼なのよ……!」


 だから身体が動かせないのか。とんだ初見殺しだな。

 困ったことに対処法が思いつかない。少なくとも腕力では破れなさそうだ。

 ルー・ガルーは舌なめずりをしてバーボンに近づいていく。


「やめろ! リーダーは俺だ! やるなら俺からやれ!」


 俺が咄嗟にそう叫ぶとルー・ガルーは楽し気にこう返した。


「そうだったのか? じゃあてめぇからだ。俺は敵をいたぶるのが好きでよぉ」


 ルー・ガルーは俺の脇腹に鋭い爪を突き刺した。

 じわじわと服に血が滲んで、小さく苦悶の声を漏らしてしまう。

 二回、三回と鋭い爪を脇腹に突き刺し、ルー・ガルーは愉悦に浸る。


「すぐには殺さない。ゆっくりと苦しめる。次は目玉でも潰そうか?」


 魔法を使うって方法も考えたが、バーボンとフィオナがいる手前使えない。

 どうにかして魔眼を閉じさせれば効力は消えるはずだ。

 何か良い手はないか、痛みに耐えながら考えを巡らせる。


「だ……駄目です……やめてください。酷いです!」


 その時、フィオナが震える声でルー・ガルーに抗議の声を上げた。

 金色の人狼は嬉しそうに俺から離れてフィオナに近づいていく。

 フィオナもまた金縛りで動けない。このままじゃ危ない。


「待てっ! フィオナには手を出すな! やるなら俺から……」

「うるせぇな。お前はリアクションに乏しくてつまらん」


 フィオナにその爪を突き刺そうとした瞬間、俺の背中を切り裂いた。


「いやぁぁ! ルクスさんっ!!」

「うぐぁぁぁぁぁっ……!!」

「フッフッフッ……! その気になればいい声で鳴くじゃねぇか」


 いたぶるためなのだろう、出血に反して傷は浅い。

 まだ耐えられる。それまでにこの状況を打開しなければ。

 と、言ってもこの金縛りを解く方法は現状ひとつしかない。

 光系魔法だ。魔法なら動かずしてルー・ガルーにも攻撃できる。


「ルクスさん……ルクスさん……!」


 血を流したままの俺を見て、フィオナは狼狽している。

 そこに駄目押しとばかりにルー・ガルーは口を開き鋭い牙を見せつける。


「お前のリーダーは今から餌だ。なに、すぐ同じところへ逝けるぜ? 俺の腹の中になぁ!!」

「そんな……そんなのって……」


 フィオナの様子がおかしい。身体を震わせ、全身に魔力を漲らせている。

 とてつもない魔力量だ。いつの間にこれほどの力を身に着けていたんだ。

 いや。ひょっとして最初からそうだったのか。


 フィオナは今まで治癒と除霊以外で魔法を使う機会が無かった。

 だから俺も、フィオナの魔法の才能に関してはよく分かってない。

 むしろ魔法の練習に手こずっていたことから苦手なんだとすら思っていた。

 それは俺の思い違いに過ぎなくて、真実はその逆なのかもしれない。


「駄目です……絶対に、そんなことはさせませんっ!!」


 その時、フィオナの全身から激しい魔力が放出された。

 魔力は冷気へと変換されてルー・ガルーや周囲の俺たちに直撃する。

 俺とバーボンは半身が一瞬にして凍てつくことになった。


 運悪く目を見開いていたルー・ガルーはどうなっただろうか。

 冷気に混じる雹が見開いていた魔眼に直撃したらしい。


「うぐぁぁぁぁ!! 目がっ、目がぁぁぁぁ!!」


 フィオナが全身から放ったのは魔法だ。しかも氷系魔法。

 まさか適性があったのは水の派生である『氷』の魔法だったのか。

 感心している場合じゃない。雹を食らい魔眼を閉じたことで金縛りは消えた。


 俺とバーボンはすかさず武器を構えてルー・ガルーに突撃する。

 バーボンが正面から戦斧を振るうが、両腕でガードされてしまった。

 残念だがそっちは陽動のようなもの。俺の攻撃が本命だ。

 背後からルー・ガルーの肩に飛び乗った俺は脳天に剣を突き刺す。


「あべっ」


 奇妙な声を上げてルー・ガルーはその場に崩れ落ちた。

 脳天から顎を剣が貫通したんだ。生きていられるわけがない。

 呆気ない最期を迎えた金色の人狼は光の粒となり消えていく。


「助かったよフィオナ……それにしても、いつの間に氷の魔法なんて身につけたんだ?」

「いえ……その……土壇場でなんとなく……」


 窮地に陥ったことで火事場の馬鹿力的に目覚めたってことか。

 でも助かった。そうじゃなきゃ俺が魔法を使うしかなかったからな。

 治癒魔法で怪我を治してもらうと、俺たちをそろそろと村を出た。


 誰もいない。待ち伏せをしていた人狼はすべて倒したらしい。

 村の外へ行けというのはクレアの指示だが、果たしてどうなるか。

 しばらく待っていると、空を浮遊するクレアが現れ、ふわりと地面に着地する。


「お待たせ。仕込みは済んだわ。これで村の魔物は一網打尽よ」

「一体何をしてたんだ……?」

「この村にはもう人間がいないみたいだから。焼き払っちゃうわ」


 トン、とクレアが踵で地面を踏むと村を覆うように結界が出現した。

 これを仕込んでいたのか。魔物を村の中から出さないように。

 さらに魔力を込めて地面に手で触れると、村全体に魔法陣が浮かんだ。


 たぶん炎系魔法だな。後は想像の通り。結界の中が炎で包まれた。

 この灼熱地獄を生きていられるワーウルフはいないだろう。


「一日待って全滅したか確認しましょう。それで依頼完了のはずよ」


 村ごと燃やすのは少々やりすぎな感も否めない。

 でもワーウルフを全て倒すならこの方法が一番手っ取り早いだろう。

 燃え盛る村から視線を外したクレアは俺にぼそりとこう言った。


「貸しにしとくわ。私とバーボンがいなかったら危なかったものね」


 睡眠薬で寝てたことに関しては反論の余地がない。

 勇者と呼ばれた俺も搦め手にだけは弱いのだ。

 魔眼の対処もできなかったし未熟さを痛感するばかりだ。

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