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3話 依頼を受けよう

 フィオナが椅子から立ち上がると俺の方へと近づいてくる。

 ぺこりと一礼したので、俺も反射的に会釈で返した。


「あ……あの。私、フィオナと申します。僧侶です」

「知ってるよ。昨日は災難だったね。俺は剣士のルクスだ」

「あわわ……お見苦しいところを見せてしまい、大変失礼しました」


 それにしても大量発生した魔物の退治か。あいつらやりやがったな。

 この手の依頼はランク関係なしにパーティーを組むのがお決まりだ。

 だって一人じゃ数が多すぎて倒すの大変なんだもん。


「彼女と組んで依頼を受ければいい……ってことかな」

「はい……そうなりますね。何人かに声を掛けたのですが全員断られて」

「あの……その……ルクスさんがよろしければ一緒に……依頼を受けてはくれませんか……?」


 受付嬢の説明と、フィオナのおどおどした勧誘を聞く。

 新人の面倒を見るのはいいが、どうしようかな。まぁ大丈夫か。

 E級依頼ならCクラスの立ち回りでも十分対処できるだろう。

 その辺はギルドマスターにきつく言われてるから俺も慎重になる。


「……うん。俺は構わないけど……」

「本当ですかっ!?」


 凄い勢いで食いついてきた。

 断られ続けたんだからそりゃそうだよな。


「でもこの依頼を二人でこなすのは大変そうだな。君のランクは?」

「あ……Eランクですっ……ルクスさんは……?」

「……俺はCランク。一応だけどね」


 大変なんだが、俺なら大変ではない。光系魔法で簡単に掃除できる。

 光系魔法ってのはだいたい魔物が嫌がる『浄化』という効力をもつ。

 これを浴びれば雑魚魔物なんて跡形も残らないぞ。まぁ使ったら勇者だとバレそうだからやらんが。

 変に実力を見せつけてうわさになったら、冒険者ギルドに迷惑がかかる。


 ついでにパチッと受付嬢がウインクしてきた。フィオナを助けてやれってことだろう。彼女もまた冒険者ギルドの一員。つまり知っているのだ。俺の正体を。


「上手く導いてあげてください。そういうの得意でしょ。もちろん勇者だってバレないように」


 受付嬢は俺の袖を掴んでそう耳打ちした。やめろ怪しまれるだろ。

 ただの受付嬢である彼女が俺の正体を知っているのには理由がある。


 ギルドの連中は遠隔視の魔法や記憶鑑定で依頼の成否を判断するからな。

 特に記憶鑑定が怖い。実際どこまでの記憶を読んでるかこっちから分からん。

 つまり、隠し事は無駄ってことだ。俺の正体に関してもな。


 こういうシステムは歴代のギルドマスターが積極的に導入してきた。

 昔は不正や虚偽の申告で報酬だけ貰う悪質な冒険者がたくさんいたらしい。


 その反動で記憶を読み取るなんて制度が出来上がったのだ。

 ちなみに記憶鑑定はギルドの登録時にも使われている。

 犯罪者が紛れ込まないようにするためだ。


 ただ、ギルドの人間全員が俺の正体を知ってるってわけじゃない。

 この街の受付嬢と、ギルドマスター、後は限られた人間だけだと思う。

 実質的に俺はこの街に縛られているわけだが、別にそこは問題じゃない。


「まぁ……なんとか頑張ってみるよ。俺はこの依頼を引き受ける」

「なるほど……さすがはルクスさんです。かしこまりました」


 ギルドの受付嬢は恭しく頭を下げて依頼書を俺に差し出した。

 サインを入れて、依頼書を受付嬢に返すとフィオナと握手した。


「急造パーティーだけど可能な限り頑張ろう。よろしくね」

「は、はいっ。よろしくお願いします!」


 フィオナは両手で俺の手を握ると深々と頭を下げた。

 そこまで丁寧にしなくてもいいのだが。


「宿屋で準備を済ませてくるから、街の入り口で待っててくれるかな」

「はいっ。わかりました。私はもう準備できているので……!」


 俺は宿屋に戻って支度を済ませると、街の入り口へ向かう。

 今回の目的地であるダンジョン『矮躯の洞窟』は徒歩で三日かかる。

 森ん中にぽつんと存在するちっこい洞窟で、全三層の構成になっている。


「お待たせ。じゃあ行こ……」


 そこで俺は固まった。フィオナが四人の冒険者に囲まれていたからだ。

 あれは元仲間のユリシーズって連中だ。なんか盗賊的な見た目の奴が増えてる。

 きっとフィオナの代わりに誘った新しい仲間なんだろうな。


「なんだフィオナ。一人で行くのか?」

「へへっこいつが旦那の元仲間ですかい。見た目しか取り柄がなさそうですぜ」


 フィオナは恐怖しているのか身体を震わせている。

 足手纏いを追い出すだけならともかく、別れ際に酒を引っかけるような連中だ。

 はっきり言って性格は悪いと思う。盗賊がフィオナに触れた瞬間、俺はその手を掴んだ。


「すまない。俺の仲間が何かしたかな?」


 元Sランクの威圧感を見せつけてやりたいが、俺はそういうのが苦手だ。

 心の中ではいくらでも汚いことを考えられる。誰だってそうだろうけど。

 でも理由は分からんが、俺にはそういう殺気が全然出ない。

 死んだ仲間のアトラは荒事も得意だったのだが。


「なんだこいつ?」

「こいつが新しい仲間? なんか弱そうね」

「やっちまっていいですか。調子に乗る奴ってムカつくんですよ」


 このクソ盗賊野郎。俺を誰だと思ってんだ。ぶちのめすぞ。

 でもそれは大人気ないな。そもそも冒険者同士のいざこざって良くないから。


「俺はCランク冒険者のルクスだ。君たちは?」


 ここで反応があった。マジかよ。Cランクだぞ。どんだけレベルが低いんだ。

 フィオナの元仲間はもごもごと「Eランク……」と呟いて背を向ける。


「……行くぞ。あいつに構うな。もう仲間じゃないんだから」


 それがユリシーズの捨て台詞だった。勝ったな。完全に俺の勝ちだ。

 俺は努めて冷静に盗賊の手を離すと、連中はすたすたと街の外へ消えていった。

 まさかCランク冒険者という立場に効果があるとは思わなかったが。


「絡まれていたけれど……何の話をしてたんだ?」

「……私の元仲間です。偶然会って王都に行くんだと……」


 ただの自慢話か。驚かせやがって。まぁ王都はこのクソ田舎よりはマシな依頼が多い。E級依頼に慣れたのなら拠点を変えるのも当然の判断だな。

 ひよっこしかいない田舎から、高ランクの冒険者が集まる都会へ場所を移す。

 これは向上心のある冒険者なら一度は体験する。そしてより高みを目指して邁進するのだ。


「さっ、気持ちを切り替えて依頼に集中しよう。俺たちも仕事だ」


 まぁ今はそんなこと関係ない。俺は今から連中のケツ拭きだ。

 奴らがフィオナに依頼を押し付けなければ、こんな事態は起きなかったのだ。

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