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22話 王都ローレル

 気がついたら宿屋の窓から朝日が射しこんでいた。

 祝杯を終えた俺は部屋に戻って『死霊の塔』の調査書を纏めていた。

 やっぱこういうのって得意じゃない。文章を書くのにやたら時間がかかった。

 途中から半分ぐらい感想文になってたからな。没にし続けてたら朝だった。


「うーん……もう朝ごはんの時間か」


 俺は一階に降りて宿屋の食堂で朝ご飯を食べる。

 いつも通りのメニューだな。パン、目玉焼き、豆のスープ、紅茶だ。


「ルクスさん、おはようございます。今日はギルドに行くんですよね」


 食べ終えたところでちょうどフィオナがやって来た。

 僧侶らしくいつも規則正しい時間に起きる。バーボンとは大違いだ。

 バーボンは夜に酒を飲みすぎて寝過ごし朝ご飯を食べ損ねることが多いからな。


「そうだな。財宝も売りたいしギルドに行ったらすぐ王都に向かう予定だ」

「遂に都会に行くんですね……な、なにか準備した方がいいのでしょうか」

「貴重品だけ持っておけばいいよ。ずっと王都で活動するわけじゃないから」


 王都にはフィオナの元仲間もいるだろうしな。顔を合わせたくないだろう。

 ほとんど遊びに行くようなものだ。何せ財宝を手に入れたおかげでしばらく金に困らない。


「俺は外で待ってるよ。みんな集まったらギルドハウスへ行こう」


 武器などの装備を外した軽装姿でストレッチをしながら仲間を待つ。

 剣すら持ってない。ギルドへ行くだけだしな。できるだけ身軽でいたい。

 ほどなくして全員集まったので、ギルドハウスへと向かっていった。


「お帰りなさい、皆さん。『死霊の塔』の調査はいかがでしたか?」

「まぁそれについては調査書を読んでくれ。それなりに大変だったからな……」

「分かりました。念のため記憶鑑定も行いますね」


 俺は頷いて席に座ると受付嬢のエリカが記憶を読み取る。目を瞑ってるな。

 一週間道なき道を歩き続け、ダンジョンを潜った一連の出来事をまさに体験しているのだろう。エリカは一息ついて、依頼書に完了の判子をばんっと押した。


「調査だけじゃなく魔物の退治まで。よく頑張られたと思います」

「本来なら戦うメリットはないが、財宝を守ってたからな。退治してやったぜ」


 バーボンは調子よく答えた。報酬も受け取ってこれからが本題。

 調査の依頼を達成したあかつきにはPTランクとフィオナのランクが上がるって話だった。


「ではPTランク及びフィオナさんはDランクに昇格ですね。おめでとうございます!」


 エリカがすっと取り出してフィオナに渡したのは新たな冒険者証だ。

 Dランクを示すオレンジ色で彩られたカード。これこそが冒険者の証明。

 フィオナは恐る恐るといった様子でそれを受け取ってじっとカードを見た。


「嬉しい……です。まさか私が昇格できるなんて……!」

「もうフィオナに追いつかれちまったな。けどなんだか嬉しいぜ」


 そう言えばバーボンは降格を重ねてDランクなんだったな。

 泥酔状態で戦わなくなればそのうちまた昇格するんじゃないだろうか。

 元々はAランクなんだからポテンシャル自体はあるだろう。


「皆様はこれからどうされるんですか? しばらくはお金には困らないでしょう」

「とりあえずは王都に財宝を売りに行くかな。ちょっと観光もしたい」

「そういえば私も王都で遊んだことないのよね。カジノに行ってみたいわ」


 エリカの問いに答えると、クレアが一番に乗ってきた。


「私も……王都の傍にある神殿に行きたいです。コール教徒にとっては聖地なんです」


 そういう場所もあるのか。フィオナにも行きたいところがあるんだな。

 俺は適当に市場でも見回ろうかと思ってた。ぶらぶらしたいだけなんだけど。

 あえて言えば冒険者なら使えそうな道具や武器を探すのも仕事のうちだ。


「俺は財宝を売ったらさっさとこの街に帰りたいんだが……」


 意外なことにバーボンだけ気乗りしていない様子だった。

 王都に集まる美味い酒を飲みつくしてやるぜ、なんてことを言うと思ってた。

 いつも飲んでるのは安酒だろうからな。王都なら酒場もたくさんあるだろう。


「どうしたんだ。何か嫌なことでもあったのか?」

「いや……その……別れた嫁さんが王都に住んでるんだよ……」


 そういうことか。確かにバッタリ会ったら気まずいな。

 でも病気の娘さんに治療費も渡さないといけないだろうしなぁ。


「娘さんの治療費はどう渡すんだ? 俺が渡しに行けばいいのか?」

「いや……送金は便利屋とかに任せようかと……そうじゃなきゃ同業者に頼んで……」


 ややあってバーボンはがっくりと肩を落とした。

 そして、図体に似合わない小さな声で本音を漏らす。


「……本当は会いたいよ。嫁さんにも娘にも。でも嫌われてるだろうしな……」

「ふーん。よりを戻したいのね。何があったかは聞かないであげるけど」

「いやっ……まぁ……そりゃそうだが、そんなのは夢のまた夢さ……」


 クレアの言葉をバーボンは否定しなかった。

 何があったかは分からないけど俺たちが干渉してもなぁ。

 あくまでバーボンと別れた奥さんの問題だろうから、何とも言えない。


「すまん、俺のことは気にしないでくれ。適当に時間を潰すことにするぜ……」


 そんなこんなで、俺たちは王都へ向かうことになった。

 王都ローレルとこのハルモニーの街は整備された街道で繋がっている。

 徒歩だと馬鹿みたいに時間がかかるけど駅馬車があるから問題ない。


 この駅馬車を利用すればなんとたった数日で到着するのだ。

 街道の周辺に魔物が現れることは稀で、その旅は冒険者から見れば快適だ。


 俺は馬車に乗り込むと徹夜で調査書を書いていたせいもあるのだろう。

 ぐっすりと寝てしまっていた。気がついたら中継地点の宿屋に着いていた。


「起きなさいルクス。今日は宿屋で休むのよ」

「あっ……しまった。財宝は大丈夫だよな……!?」


 クレアに揺さぶられてようやく目が覚めた。俺としたことが。

 馬車に乗ってるとマジモンの盗賊が強盗に来ることもあるというのに。

 慌てて横に置いていた樽を開けると、中にはきちんと財宝が入っていた。


「私がちゃんと見てたから安心して。可愛い寝顔だったわよ」


 くすくすとクレアは笑って馬車を降りた。相変わらず何を考えているか読めないな。俺は財宝の入った大切な樽を抱えて宿屋へと入る。こんな調子で馬車の旅が続く。


 やがて俺たちは王都ローレルに到着した。

 ハルモニーの街に比べると都会だけあって非常に華やかだ。

 街は綺麗に区画整備されており、一片の穢れも感じ取れない。


 王都の最奥部はやや標高が高くなっていて、イリオン王国の象徴たる王城が聳え立つ。城の後ろは大きな山だ。目線を王都から少しスライドさせると、小高い丘の上に神殿が見える。あれがフィオナの言っていたコール教の聖地か。やや古びている感は否めないが、立派な建築だな。


「昔は王都に住んでたから、俺が案内しよう。安くて良い宿屋があるぜ」


 バーボンがそう申し出たのでお言葉に甘えることにした。

 王都は活気があって賑わっている。うかうかしているとはぐれてしまいそうだ。

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