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20話 必殺の連携攻撃

 Cクラス相当の俺が迂闊に強さを見せつけると怪しまれる。

 ここはなんとか協力するように俺がみんなを纏めるしかない。


「クレアは防御に集中して、バーボンとフィオナが攻撃。俺は援護に回る!」


 みんなが一斉に振り向いた。俺は背負っていた聖水入りの樽をフィオナに渡す。

 ワイズスケルトンが雷撃を放ってくるが、クレアの魔力障壁が防いでくれた。


「ルクスさん……私が攻撃に回っていいんですか?」

「うん。あいつにも聖水は有効だと思うから。広範囲に撒けば空中の敵にも効果はあるはず」


 状況を察したバーボンはすでに柄杓でワイズスケルトンに聖水攻撃を始めている。それでいい。クレアが俺の近くに来ると、こんな憎まれ口を叩いた。


「個人の判断に任せるんじゃなかったの。それに援護って……自分だけ休む気?」

「いや……サボるわけじゃないよ。そろそろ敵も本気を出してくる」


 俺は周囲に並べられたたくさんの棺桶を見てそう話した。

 聖水攻撃を嫌がったワイズスケルトンが忌々しそうに叫ぶ。


「ええい、面倒な……我が同胞たちよ、相手をしてやれ!」


 ズズッと棺桶の蓋がズレて中で眠っていたスケルトンたちが姿を現す。

 一目見た時から想像はついていた。やはり雑魚魔物を使役できるようだな。


「雑魚は俺に任せて二人はバーボンを援護してくれ。駄目かな……?」

「……しょうがないなー。分かったわ。ちゃんと私を守ってよね」

「私も分かりました。頑張ります!」


 クレアとフィオナは作戦を理解してくれた。これでなんとかなる。

 俺はスケルトンの胴や足を狙って切り裂き、その動きを止める。

 今すぐに除霊はできないがこうして実質的に封殺することは可能だ。


「バーボン! 二人が援護してくれるから、連携して倒してくれ!」


 呼びかけてみてもすぐに返事をしなかった。まだ怒ってるのか。

 バーボンは酒に関して自分に非があるのは理解している。

 でも止められないのだ。それが彼にとっての苦悩でもある。


「君が頼りなんだ、俺はバーボンの実力は高いと思ってるよ。だから助けてくれ、クレアもそうだろ!?」

「さっきは悪かったわ。あなたは冒険者でも優れてる方だから、安心して!」


 バーボン目掛けて落ちてくる雷をクレアの魔力障壁が防ぐ。

 すると破れかぶれとも言えるような勢いでバーボンは壁に戦斧を投げつけた。

 投げた戦斧は壁に深くめり込む。とてつもない腕力だ。


「……分かった! 酒の勢いでキレた俺が悪かった! 褒めるのは恥ずかしいから止めてくれ! 酔いが醒めた!」


 背負っていた聖水入りの樽を抱えると、バーボンはそれを全部空中にぶっかけた。一か八かの広範囲攻撃。ワイズスケルトンはたまらず後方へ退避する。

 すなわち壁側へ。そこには戦斧が突き刺さっていた。


 同時に飛び出していたバーボンは跳躍して戦斧を足場にして、さらに跳躍。

 でかい図体に見合わない非常に軽やかな動きでワイズスケルトンに抱き着く。


「どうだっ、おっさんが密着したまま飛べるか!? 観念しろ!!」

「愚かな男だ……振り落としてやる!」


 ワイズスケルトンはわざと壁に激突してバーボンを落とそうとする。

 骨しかないから痛覚がないのだ。だが次の瞬間、骸の賢者は妙に鈍い音を聞く。


「貴様……何をするか!?」

「首の骨をへし折ってやるのさ! 胴体と頭が別れればお前も動けまい!」

「よせ……やめろ……ぐっ、姿勢制御が……!?」


 ワイズスケルトンとバーボンは硬質な床に墜落した。

 その瞬間をフィオナは逃さなかった。聖水入りの樽を持ってワイズスケルトンにぶち撒ける。バーボンに羽交い絞めにされた骸の賢者の骨がみるみる溶けていく。


「ぬぉぉぉ……! こ、こんな幼稚な戦術にしてやられるとは……!」

「幼稚で悪かったな。俺もうちのリーダーも気取らないタチなんだよ」


 聖水を半分被ったバーボンは顔を拭って立ち上がった。

 壁に刺さった戦斧を引っこ抜くとワイズスケルトンを見下ろす。


「やめろ……我を見下ろすな。我は賢者だ。偉いんだ……認めん。こんな敗北は認めん!!」


 ワイズスケルトンの身体から大量の毒々しい魔力が放出される。

 それは俺が戦ってたスケルトンたちに纏わりつき、骸の賢者と合体していく。

 聖水を浴びて失われた身体を配下のスケルトンを贄に再構築したのだ。

 生まれたのは、幾つものスケルトンの骨を部品に組み上がった一体の巨人。


「ユニオンスケルトン……!」

「戦ったことあるの……ルクス。あんな魔物と」

「いや……ごめん。ちょっとノリで命名しただけだ……」


 クレアの顔が明らかに呆れている。

 いつの間にか俺たち四人は集まって自然と陣形を組んでいた。

 後衛にクレアとフィオナ、前衛に俺とバーボン。


「ここはルクスに決めてもらおうぜ、リーダーにキチッと締めてもらおう」

「良いアイデアね。私に任せておいて。とっておきの魔法を付与してあげる」

「私もお手伝いします。上手くいけば動きを止められるかもしれません」


 みんなが口々にそう発言する。なぜ俺がとどめ役なんだ。

 まぁ、一応暫定のリーダーだからな。ここは頑張ってやってみよう。


「……分かった。みんな、援護を頼むよ!」


 俺の持っていた剣が熱を帯びてクリスタルゴーレムの時と同じ炎の剣を形成した。クレアの魔法だ。これならユニオンスケルトンにも通用するかもしれない。

 俺はバーボンと共に戦いを終わらせるため突撃した。


 迫ってくる巨腕の一撃をバーボンは戦斧で次々と弾き返す。

 敵が右拳を振り下ろし、床に着弾。その隙に俺は天高く跳躍した。

 炎の剣を命中させるならこのタイミングしかない。


 その時、ユニオンスケルトンに埋まる複数の顔が口を開いた。

 口には魔力が溜められている。まずい。何かの遠距離攻撃が来る。

 でも空中だ。避けられない。炎の剣でガードするべきか。


 俺の刹那の判断は杞憂に終わった。

 ピタッとユニオンスケルトンの魔力の充填が急停止する。


「……届いたんですね。私の祈りが……!」

「除霊魔法だと……動け、亡者ども! 命令を聞け!!」


 ワイズスケルトンが動揺している。フィオナが使ったのはただの除霊魔法だ。

 現状のフィオナの能力では実体のあるスケルトンには効果が薄い。

 除霊させること自体はできないが、それでもアンデッドは嫌がる。


 だから攻撃が止んだのだ。

 ユニオンスケルトンは複数のスケルトンから構成されている。

 中核となるワイズスケルトンが統制して操っている状態なのだ。

 他のスケルトンたちが除霊魔法を嫌がることで統制を失い、動きが止まった。


「行くぞっ! うおぉぉぉぉぉーーーーっ!!!!」


 裂帛の気合をこめて一直線に炎の剣を振り下ろす。

 灼熱の刃は呼応するように燃え盛り、その刀身が長大に変化する。

 床に着地して剣を振り下ろし切ったとき、ユニオンスケルトンは真っ二つになっていた。四人で生み出した必殺の連携攻撃が見事に炸裂したのだ。


 炎は瞬く間に合体したスケルトンに燃え広がり焼き尽くした。

 すごい威力の炎系魔法だな。これほどまでの威力はそうそう見ない。

 最後にフィオナが除霊魔法で祈りを捧げて、すべての魂は天に召されていく。


 もちろん、魔力の影響で狂った賢者の魂も。空へと静かに還る。

 調査なのにボスらしき魔物の退治までやってしまった。サービスし過ぎたな。

 戦いに勝利した俺たちはそのまま迷宮を出て長い帰り道を歩きはじめた。


「でももったいないよなぁ。せっかく一番乗りなのに全部の宝を持って帰れないなんてよ」

「量が多すぎるからね……でも依頼の報酬を合わせればかなりの額になるよ」

「他の冒険者の方々のためにロマンを置いて帰るのもいいと思います」

「あら。フィオナは控えめなのね。冒険者ならもっと貪欲でいいのに」


 俺たちはそんな話をずっとしながらわいわいと騒いでいた。

 一時はどうなるかと思ったが、なんかんだと結束が深まった気がする。

 持ってきた樽の中にありったけの財宝を詰め込んで、ハルモニーの街を目指すのだった。

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