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2話 僧侶は仲間から追い出される

 ここは東方大陸に版図を広げるイリオン王国の片田舎、ハルモニーの街。

 集まってくるのはどいつもこいつも俺から見ればぺーぺーの新人冒険者だ。

 冒険者ってのはSランクからEランクまで格付けされてるのだが、ここに集まるのはほぼCランク以下。


 そんな武器もってるだけの一般人と変わらん連中の仕事は、雑務と雑魚退治だ。

 このハルモニーの街周辺は弱い魔物しかいないので、基礎を積むのに丁度いい。

 ここで経験を積んで、他のもっと旨味のある狩り場へ旅立っていくわけだな。


 この街でこなせる依頼の報酬は俺が懐かしさを感じるレベルでお安い。

 でもランクが上がれば高額で重要度の高い依頼を受けられるようになる。


 たとえばAランク冒険者が受けられるA級依頼なら、一回こなせばしばらく金に困らない。

 その代わり難易度も高いけど。街を滅ぼした凶悪な魔物を倒すとかそういうの。

 だから皆、冒険者の仕事に慣れたらこんなとこはさっさと立ち去る。


 居着くのは俺みたいな訳ありか、夢を捨て切れない弱小冒険者だ。

 いや、別に弱小が悪いわけじゃない。雑魚でも魔物は危険だし。

 定期的に魔物を倒してくれる冒険者はやっぱり必要なのだ。

 ここに居着いてる俺もたぶん雑魚だと思われてる。でもそれでいいんだ。


「フィオナ、お前は役に立たなさすぎる。パーティーから出てってもらう」


 それはとても厳しい口調だった。静まり返った周囲に彼の声はよく響く。

 俺より年下の少年冒険者はフィオナという僧侶の冒険者に一方的に告げた。


「なぜですか……? ユリシーズさん、私……私は……」


 綺麗な金髪を腰ほどまでに伸ばした、幼い少女。

 真っ白い僧服に身を包み、祈るように両手をぎゅっと握る。

 フィオナは今にも涙をこぼしそうなのを必死で堪えている様子だった。


「そういうところがうざったいんだよ。お前は冒険者に向いてない」


 ユリシーズとかいう冒険者はあくまでも口調が冷たい。

 仲間も口々にフィオナを責めているようだった。


「アンタは治癒魔法しかできないじゃない! 他に何の役にも立たない癖に!」

「魔物との戦いで完全にお荷物になってるんだよ。お前に背中は預けたくない」


 フィオナは一斉に放たれたその言葉に縮こまっていた。

 ぽつん、と瞳から一粒水滴が落ちると、ぽろぽろと涙をこぼす。


「う……うぅえぇぇ……すみません……すみません……」

「出たよ泣き落とし。泣いても何も解決しないぞ」


 ユリシーズは呆れた様子で頭を掻いた。

 分からんけどこういう出来事が何度もあったのだろうか。

 まぁもし戦闘中にいきなりビビッて泣かれたら俺も逆にビビるだろうな。


 何を思ったのか仲間の一人がジョッキを掴んでフィオナにぶちまけた。

 フィオナは一瞬の間を置いて、遂に人目も憚らず泣きはじめる。


「お前は心が弱すぎるんだよ。神父に頼まれて連れてきたが……教会に帰れ」

「アンタと一緒じゃ上のランクを目指せないのよ。じゃあね」

「ああ、そういや、あの依頼はどうする? 今からこなすのか?」


 仲間の一人がユリシーズに確認するが、彼はフィオナを一瞥して言った。


「……あいつにやらせればいいだろ。この辺の依頼なら死にはしないよ」


 ユリシーズは仲間二人を連れて立ち去っていった。

 パーティー追放ってやつか。拝むのはこれがはじめてだが。

 国外追放された俺が言うのもなんだが、判断するのが早すぎないか。


 俺だって最初は仲間のアトラに助けられっぱなしだったぞ。

 内緒だが新人時代にゴブリン退治で調子に乗っていたらリンチにされかけた。

 そんな俺が勇者になるんだから世の中何があるか分からない。


「大丈夫ですか? 大変でしたね。これで拭いてください」


 店主が慌てて飛び出してきてフィオナにタオルを渡した。

 昼間から大変だな。俺が外で吐いたり、揉め事持ち込まれたり。


「あれ……もう帰られるんですか、お客さん」

「すまない。酒を飲んだせいでまだ気分が悪いんだ」


 オレンジジュースを一気に飲み干すと、今日はもう宿屋に帰ることにした。

 気分の悪いもんを見ちまったからな。仲間ってそんな簡単に追い出せるのかな。

 そりゃ冒険者ならこんなとこで燻っていたくはないだろうけど。


 いやね。だってみんな夢見ちゃうじゃん。

 Sランク冒険者になって富も名声も手に入れて、色々な世界を渡り歩く。

 冒険者のロマンだから。それを追い求めるもんなんだけど。でも。

 いや、無関係な俺がうだうだと考えても仕方ないか。


「はぁ……」


 宿屋に戻ってベッドに寝転ぶと、俺はそのまま朝まで寝てしまった。

 朝になると俺はギルドハウスへ行くことにした。依頼を受けるのだ。

 もうそろそろ所持金が少ない。楽だけどその日暮らしも面倒くさいよなぁ。

 ランクが上がればもっとリターンの良い仕事もあるんだが、ここじゃそうはいかない。


 あーいちいち街の外に出たくない。しょうもないダンジョンに潜るの飽きたよぉ。でも生きるためには仕方ないからな。別にいつ死んでもいいんだけど。


「ルクスさん。いらっしゃいませ。何の依頼を受けるんですか?」


 ギルドの受付嬢が朗らかな口調で迎えてくれる。

 依頼掲示板に貼ってあるまばらな紙を眺めて、俺はこう言った。


「報酬の高い依頼を探してるんだけど、何かないかな」

「あ……えーっと……条件に合う依頼がありますよ。でも……」


 受付嬢は目を泳がせながらそう言った。訳ありかよ。舐めるなよ。

 俺はそういうクソみたいな依頼には慣れてる。勇者だったからな。

 報酬がクソ安いのにクソ難易度の高い依頼とか、ギルドのケツ拭きをクソほどしてきた。汚い言葉を使い過ぎてしまったけど、この辺の訳ありなんて絶対大したことない。


「その……『矮躯の洞窟』に大量発生した魔物退治の依頼があるんですが」

「うん、それは危ないな。魔物が外に湧いて付近の村を襲うかも」


 別にその依頼でも構わない。この辺で湧く魔物は雑魚しかいないからな。

 『矮躯の洞窟』は潜った経験もある。特に問題ないだろう。


 だが大量発生してるということは、本来パーティーで受けるべき依頼だ。

 見ての通り俺はぼっちである。仲間なんていない。問題があるならそこか。

 頭数のいる依頼を一人で片付けると変に目立ちそうで嫌だ。


「その……このE級依頼はすでに受理されているのですが、仲間がいなくなってしまったそうで……」


 受付嬢の目がすいと部屋の端へ動くと、そこにはフィオナが座っていた。

 そわそわした様子で落ち着きなく何度も武器の杖を握り直している。

 訳ありって、その子のことなのかよ。

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