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19話 ばらばらなチームワーク

 鎧でガチガチに防御を固めたスケルトンを倒すのは面倒だな。

 実体を壊す、つまりあいつらを構成する骨をある程度破壊すれば除霊魔法が効く。けど、鎧ごと叩き切るなんて離れ業を見せるとクレアに怪しまれそうだ。


 それにスケルトンナイトは元騎士だけあって中々手強い。

 死者がアンデッドになるタイプは生前の実力が強さに関係する。

 手練れの死者であるほど、スケルトンも強くなるというわけだ。


「おらぁっ、兜砕きぃっ!」


 バーボンが勢いよくナイトの脳天に戦斧をぶつけた。

 被っていた兜ごと頭蓋骨を粉々に砕き、一体行動不能になる。


「今なら除霊魔法が通じるかもしれません……!」


 片膝をついて祈りを捧げると、バーボンの倒した個体が昇天していく。

 残された骨は光の粒となって消えた。これで一体撃破か。先は長い。

 まったくフィオナがいなければどうなっていたか分からないな。


「どうした、どうしたルクス。俺が全部倒しちまうぞ!」

「きついなぁ。鎧ごと斬るなんて俺には難しい……」

「へへっ。力仕事なら任せろ。ちょっと休んでな、俺が全部片付けてやるぞ!」


 酔った勢いで言ってるな、うん。頼もしくはあるのだが。

 そうしてバーボンがナイトの頭を一体ずつ粉々に砕いていく。

 メイジの魔法攻撃はすべてクレアの魔力障壁が防いでくれている。

 ナイトが全滅した段階で、炎系魔法と聖水攻撃でメイジを一気に倒す。


「なんとか倒せたな……みんなお疲れ。怪我は無いか?」


 俺は腰を剣に収めて溜息を吐いた。

 縛りをつけて戦ってるとはいえ全然役に立たなかったな俺。

 まぁ、このパーティーは危なっかしいが個々の実力はあるはずなのだ。

 多少作戦通りじゃなくてもゴリ押しでだいたいなんとかなる。


「ちょっといいかしら。バーボン、あなたどういうつもり?」

「え? 何がだ……?」


 クレアは腕を組んでバーボンを睨みつけた。本気で怒ってる。

 一方のバーボンは水筒に入れた酒を飲みながらきょとんしていた。


「ルクスの作戦を無視したでしょ。指示通りなら楽に倒せたのに」

「んー……そうだったかな。すまん。でも倒せたんだからいいじゃねぇか」

「良くない。ふらふらされると魔法の援護もできないわ。もう飲酒は控えてくれない?」


 そりゃそうだな。それは当然の意見だ。当然の意見なのだが。

 酒に依存しているバーボンは本当にこれだけは言うことを聞いてくれない。

 俺もすでに何回か言ったりしたのだが、変わらずいつでもどこでも飲んでるな。


「それは無理だ。なんだよお前、俺の実力を疑ってるのかよ?」

「ある意味ではね。はっきり言って邪魔にしかなってない」

「なんだよ……やるってのか?」


 両者の間に剣呑な雰囲気が漂い始める。今にも喧嘩になりそうだ。

 バーボンは酒を飲んで気が大きくなってるからな。何をするか分からん。

 俺は慌てて二人の間に割って入った。急に仲間割れするなよ。


「まぁまぁ。臨機応変にやってくれればいいさ。みんな実力者だからな。個人の判断で動いてくれて問題ない」


 そして、俺のこの発言が良くなかった。

 即座にバーボンが酔った勢いで怒鳴ったのだ。


「そうかよ! じゃあ俺は好きにやらせてもらうぜ!!」

「いや……そういう意味じゃなくて……急にどうしたんだ?」

「……とにかく今回に限ってはもう俺の判断で勝手にやるぞ!!」


 バーボンは怒って五階へと進んでいった。クレアも腕を組んだまま勝手に先へ行く。クレアを追いかけると彼女は急に振り返ってこう怒ったのだった。


「あなたがそれでいいなら、私も我慢はせずに個人の判断で動かせてもらうわ」

「クレアもか。ここまで上手くやって来たじゃないか。何がいけないんだ?」

「私って繊細なの。つまらなくても気に入らないことが重なると嫌いになる……」


 そう言い残してふらっと上の階へと登っていた。なんでこんなことに。

 残ったのは俺とフィオナだけだった。そのフィオナもこんな不満を漏らした。


「ルクスさん……私も前衛で戦いたいです。除霊するだけじゃなくて……もっと強くなりたいです」


 向上心は良いと思うのだが、今回の調査に関しては後衛に徹して欲しい。

 なにせ危険な魔物がまだいる可能性もあるのだ。そいつはきっとCクラス相当以上の敵。フィオナが直接戦うにはまだ早い。強くなりたいと焦るのは理解できるのだが。


「フィオナ、すまないが今回は我慢してくれ。なんだか嫌な予感がするんだ」

「……すみませんでした。ちょっと強くなって浮かれていたかもしれません……」


 フィオナもまた上の階へ。このままで大丈夫なのだろうか。

 突然パーティーに亀裂が走ってしまった。こんな経験はしたことがない。

 なんだかんだ仲良くできていたと思ったのに。俺が見ていたのは幻だったのか。


 重い足取りで五階に行くと、そこは今までと違いひとつの広い空間となっていた。所狭しと棺桶が並べられており最奥部には凝った装飾の特別な棺桶が安置されている。


そこに一体のスケルトンが立っていた。煌びやかなローブを纏い、厳かな雰囲気がある。注目すべきはその周囲。宝箱や金銀財宝が山のように積もっている。


「貴様らが侵入者か……我はかつてこの地に栄えた国の賢者なり。数万年の時が経ち……永遠の命を得て蘇った」


 玉座に腰かけるスケルトンが語りかけてくる。喋るのか。

 元人間だけあって知能も高そうだな。分類するならワイズスケルトンか。

 どうやらここは古代の賢者の墓でもあったらしい。地脈の魔力が影響して魔物として蘇ったのだろう。


「我が聖域を踏み荒らすことはまかりならぬ。その命をもって贖うがいい」

「へっ。お前を倒してお宝はもらっていくぞ。サラの治療費のためにもな!」


 こいつが調査に来た冒険者を返り討ちにし続けてきた魔物というわけか。

 無理をして戦う必要なんてないが、先に来てたバーボンはやる気満々だ。

 もう調査もクソもない。あいつを倒して財宝を手に入れる気だ。


 クレアはやや後方から睨みつけるようにその様子を眺めている。

 フィオナも杖を構えて戦う気か。もうこうなったら俺も戦うしかないな。


「慄くがいい……不死となって得た我が魔力をな!」


 ワイズスケルトンは手から青白く光る雷撃を放った。

 雷系魔法か。結構高度なことをしやがる。しかも速くて避けにくいぞ。

 バーボンは千鳥足でなんとか避けて肉薄するが、ワイズスケルトンはふわりと浮かんで距離を取る。


「ちきしょう、汚いぞ! 降りて戦え!!」

「我が浅ましき冒険者と同じところにいると思うか? 図が高いわ」


 飛翔魔法。風系魔法の一種だな。賢者だけあってやはり魔法が得意か。

 バーボンの野次はともかく飛ばれると厄介だな。戦いにくい。

 頭上から雷が降ってくる。しかも一発じゃない。俺たち全員を狙ってる。


 でも発動に『溜め』がある。見切るのは難しくない。

 バーボンはふらふらと紙一重で躱した。フィオナと俺は横に避ける。

 クレアは自分だけ魔力障壁で防御したようだった。


「ちっ……この骨ヤローッ! ずるいぞ!!」


 バーボンがまた野次を飛ばす。

 空中にいるのではさしものバーボンでも戦いが成立しない。

 それを見ていたクレアが溜息を吐いて火球を投げた。


「はっ……なかなかやるな、魔法使い。だが我ほどではないわ」

「それはどうも……」


 クレアの火球はワイズスケルトンの展開した魔力障壁に防がれる。

 フィオナがジャンプして杖で殴りかかるが、さらに上空へ逃げられた。

 よたよたと後退してきたバーボンがフィオナの肩を掴む。


「危ないぞフィオナ、お前の敵う相手じゃない!」

「でも……私だって何かしたいです……!」


 みんな自分勝手に動くのでてんでばらばらだ。このままじゃ苦戦する。

 もっとチームワークがあれば簡単に倒せるのに。敵はBクラス相当。

 このメンバーの実力なら本来は手こずる敵ではないはずだ。

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