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16話 依頼の下準備

 宿屋の近くにある広場で、俺は腕を組んで立っていた。

 フィオナもバーボンも同じ宿だ。用があれば外に出るはず。

 クレアは知らん。俺たちとは違う宿屋に泊まっているようだからな。

 ともかく俺は『死霊の塔』の調査を引き受けることになったとみんなに報告しないといけないのだ。


「ルクスさん! 早起きですね。おはようございます!」


 と、まずフィオナが宿から出てきた。

 部屋の窓から広場にいる俺を見つけてわざわざ来てくれたらしい。

 俺は手を振って近づき、新たな依頼を受けることになったと話した。

 もちろん、ギルドマスターのアンナに命令されたということは伏せたまま。


「と、いうわけで『死霊の塔』ってダンジョンを調査することになったんだ……」

「C級依頼なんですね……お力になれるよう、頑張ります」


 フィオナはどこか不安気に、両手を組んで祈りの姿勢を取った。

 『死霊の塔』では彼女の力が不可欠。魔物の大半はアンデッドのようだからな。

 不死ゆえ普通に戦っても倒せない。僧侶の技能で昇天させる必要があるのだ。


「敵は基本的にアンデッド。フィオナが頼りなんだ。それに……」

「それに……? ですか?」

「この依頼を達成できればフィオナもDランクになる。受付嬢のエリカがそう言ってたよ」

「ほ、本当ですか……!?」


 驚いてるな。けどDランクの魔物ともある程度戦えると思うし、そりゃ当然だ。

 Cランクぐらいならそう遠くない未来になれるだろう。俺はそう読んでいる。


「あ……そうだルクスさん、見て下さい。私、新しい魔法を練習してるんです!」

「魔法……? いつの間に。誰かに教えてもらったのかい?」

「クレアさんが教えてくれてます! 治癒魔法を使えるならきっと他の魔法にも適性があると……!」


 勇者を探してる謎めいた奴だが、良いところもあるんだな。

 フィオナは腕力の強い方じゃない。戦闘方法が物理攻撃のみだといつか頭打ちが来る。強くなろうとするなら魔法の技術を伸ばすのは必然とも言える。


「いきます。むむむっ……!」


 フィオナは両手に魔力を集中させているが何も起きない。

 俺はしばらくじーっとフィオナを見守っていた。

 やがてフィオナを息を切らして諦めた。


「はぁはぁ……すみません。風系魔法のつもりだったのですが」

「……そうだな。もうちょっと練習した方がいいかもな……」

「えへへ……頑張ります。今はだめですが絶対に習得してみせます!」


 向上心があるなぁ。俺も実は光系魔法が使える。勇者だからな。

 今は自称Cランク冒険者の剣士なので封印しているけれど。

 でも俺の魔法は感覚的すぎて教えるのに向いてないんだよな。


 魔法ってのは想いの力だ。想像力が明確なほどに効果を発揮する。

 具体的な想像を働かせるのに理屈を持ち出す人もいるが、基本感覚でもなんとかなる。つまり魔法は感覚派と理論派に別れるのだが、俺は完全に感覚派なのだ。


 俺が教えても怪しまれるだろうし、魔法に関してはノータッチで行くか。

 そこは魔法使いであるクレアの専門分野だ。彼女の指導力に期待しよう。


「次はバーボンか……まだ自分の部屋にいるのかな」

「昨日、たくさんお酒を飲んでいたのでまだ寝てるかもしれません」


 懐中時計で時間を確認する。もう昼前だ。ちょっと確認しに行くか。

 たしか部屋は三階だったはず。フィオナも一緒に来てくれることになった。

 ノックしたが反応なしだ。扉に耳を当てると、寝息が聞こえてくる。

 熟睡してるな。今日は休みの日だし無理に起こす必要はないか。


「んん~……誰かいるのか。何の用だ?」


 起こしてしまったか。ならちょうど良い。俺は扉を開けて部屋に入る。


「寝ていたのにすまないな。今は大丈夫かい?」

「ああ。全然問題ない。もう昼だしな……」

「C級依頼を受けることになった。明日には出発したいと思ってる」


 バーボンは目を擦りながら質問をぶつけてきた。


「なんで急にC級依頼なんだ? いつもはもっと楽な依頼にするじゃないか」

「ああ……そうだな。クレアもバーボンもいるし、大丈夫かと思ったんだ」


 アンナの話をするわけにもいかない。こう説明するしかないんだ。

 元Aランクと現役のAランク。この二人がいればC級依頼なんて本来は楽勝だ。

 ただバーボンがなぁ。酔っぱらったまま行動するからわりと危ない。


「そうかぁ……? まぁ報酬の額も増えるしな……うぅっ、頭が……」

「大丈夫ですか……?」


 完全に二日酔いだな。飲み過ぎたのならそうなるだろう。

 フィオナはバーボンに近づくと頭に手を添える。

 治癒魔法だ。手は温かな光を放ち、その頭痛を癒していく。


「助かったぞフィオナ……いやすまんな」

「いえいえっ。これぐらいは当然のことですから!」


 明日出発だから今日の酒は控えろとだけ伝えて、俺は部屋を去った。

 よし、後はクレアだな。フィオナがクレアの滞在している宿屋を知っていた。

 早速向かうと俺たちの安宿とは違って豪華なのが一目で分かる。羨ましい。

 部屋の防音なんかもしっかりしてそうだな。流石はAランク冒険者か。


 だが残念だけど宿屋にはいなかった。昼ご飯でも食べに行ったのだろうか。

 しょうがない、俺は予定を変更して道具屋に向かうことにした。

 冒険者なら必ず行く、旅に必要なアイテムが揃った店である。


「ルクスさん、何を買うんですか?」

「聖水を買うのさ。『死霊の塔』にはアンデッドが出るからね」


 聖水は霧吹きで自分にかけたり、道に撒くことで魔物除けになる。

 そしてなんと、アンデッド系の魔物に浴びせると特に嫌がるのだ。

 スケルトンなら骨は溶け、ゴーストなら実体のない半透明な身体が消滅する。


「いらっしゃいませ。何かお探しですかな?」


 ちょび髭を生やしたおじさん店主が挨拶してくれる。


「聖水が欲しいんだ。小瓶に入った奴じゃなくて、できれば樽で欲しい」

「樽で……ですか……!? 少々お待ちください……」


 こうして俺は道具屋の聖水をありったけ購入した。

 樽が二つ分。旅では俺とバーボンの二人で持っていけばいいだろう。

 俺はふたつの樽を両腕で抱えて店を出た。


「あら……ルクスとフィオナじゃない。何をしてるの?」


 道具屋を出たときにばったりクレアと出会った。

 なんかマシュマロみたいに甘い匂いがするな。なんだろう。


「クレアさん、新しい香水を買ったんですか?」

「あ。分かっちゃう? さっき良いのを見つけたの」


 女子って感じの会話だなぁ。フィオナとクレアは話に花を咲かせている。

 俺は樽を抱えたままクレアに依頼を受けたことを簡潔に話す。


「……というわけだ。明日には出発するからそのつもりで頼むよ」

「なるほどね。オーケー、準備は済ませとくわ」


 それだけ言ってクレアはどこかへと去っていった。

 これでみんなには伝えられたな。特に怪しまれることもなかった。

 『死霊の塔』はこの街よりも王都に近い。到着には一週間ほどかかるだろう。


 フィオナにそんな話をすると、旅に持っていく食材を選びに市場へと向かっていった。食事関連は任せきりで申し訳ないな。ともかくこれで準備は整った。

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