14話 レッツゴー武器屋
『水晶の迷宮』を後にしてハルモニーの街に戻ってきた俺たち。
早速俺は手に入れた鉱石を商人に見せると、ひとつひとつを丁寧に鑑定していく。
「ま……質は悪くないな。買い取るならざっとこんなもんだね」
小太りな商人は鉱石から目を離すとメロ硬貨を袋に入れて机に置いた。
パーティー向けのE級依頼を一回受けたのと同じぐらいの額だな。
まぁそんなに悪くない。俺はそのまま受け取って商人の店を去る。
「まぁまぁの額になったよ。はい、バーボンの分だ」
俺は外で待っていたバーボンに金を入れた小袋を渡す。
フィオナとクレアには後で渡そう。まずは新しい武器を調達しないとな。
クリスタルゴーレムとの戦いで俺とバーボンの二人は武器が壊れてしまった。
「しかし……いいのかルクス。武器代まで奢ってもらってよ」
「奢るわけじゃないさ。仕事道具を買うんだ。必要経費なだけだよ」
改めて街を歩くと、新しい発見がある。
あんなところに知らない店があったのかとか、美味そうな料理屋とか。
俺はこの街をクソ田舎だと思って宿屋と酒場の往復しかしてこなかった。
だから実のところ、ここの武器屋にも行ったことがないんだ。
なんだかんだと仲間ができて、俺も以前のままではいかなくなった。
少なくとも無気力かつ自堕落に過ごすわけにはいかないな。
フィオナをそれとなく育成したり、バーボンの娘さんの治療費を捻出したり。
後はクレアも増えた。ますます正体を隠す必要ができてしまった。
「武器屋はこっちだ。初めて行くのか?」
「ああ……あの剣で用は足りてたからな……」
バーボンの案内で武器屋に入ると、所狭しと武器が並んでいる。
おっ、あれはジャマダハル。珍しい武器も置いてるんだな。
やっぱり来るとワクワクするもんだな。これは冒険者の逃れられない性だ。
「うお……これは霊銀の剣! やっぱ『本物』は違うなぁ……」
「流石旦那、お目が高い。それはこの大陸の名工が打った逸品ですよ!」
強面の禿頭をした店主が近づいてくる。
でもこれ俺の一月の稼ぎの三倍くらいあるよ。高すぎるわ。
見てるだけだからな。手もみしたって無駄だぞ。買えるわけがない。
「この戦斧はいいな。俺はこいつにしたい。構わないかルクス?」
バーボンはお手頃な戦斧を買うことに決めたようだ。
この人、酔っぱらってないとつくづくまともだな。それでいいんだけど。
まぁ武器なんてなんでもいいや。似たようなブロードソードが売ってたからそれにしよ。
「毎度ありがとうございます。鞘はどうされますか?」
「……鞘を選べるのか?」
へぇ。今時はそんなサービスもあるのか。いろいろなデザインの鞘があるな。
俺はお洒落だからナウでヤングなピンクの鞘にするのは、止めておくか。
正気を疑われるわ。誰が考えたんだこの鞘。普通の茶色いやつでいいわ。
俺はさっさと金を支払って武器屋を出た。待ち合わせは教会だったな。
さて教会ってどこだっけ。行ったことないから分からん。
「教会はこっちだ。行こう! 早く酒場に行きたいんだ」
酒飲みの本性を見せ始めたな。通りでウズウズしてたわけだ。
バーボンに連れられて教会をへと向かう。空を見上げると白亜の建物が見えた。
近くに来ると一発で分かるな。あれこそが世界宗教であるコール教の教会だ。
コール教はこの世界を創ったとされる女神を信仰している。
フィオナも同じコール教で、そこに仕える僧侶なわけだな。
小さい頃は勉強を教えてもらうためにアトラと村の教会へ通ったもんだ。
逆に言えば、俺と教会の接点ってそれぐらいしかないな。
教会に入ると、その静謐な空間に俺はちょっとした緊張を覚えた。
この聖なる領域に足を踏み入れて馬鹿みたいに騒ぐ野蛮人はそういないだろう。
クレアは長椅子に座り、祈りを捧げるフィオナを指差す。
「フィオナ、祈るのは済んだかい?」
「あ……ルクスさん。はい。もう大丈夫です」
俺が声をかけると、フィオナは目を開けて頷いた。
フィオナって僧侶だったんだな。いやそりゃそうなんだけどさ。
冒険者としての一面しか見てこなかったから意外に感じる。
「何を祈ったの?」
クレアは立ち上がってフィオナに質問する。
俺が分け前を配ると二人は何も言わず受け取った。
「ルクスさんや皆さんに出会えたことを感謝していました。それから……ずっと仲間でいられるようにと」
その時、ずきん、と俺は胸が痛む思いがした。ずっといるのは無理だ。
フィオナがCランクまで成長したらそれは別れの時だと思う。
最後まで彼女の仲間として付き合うことは残念だけど不可能なんだ。
俺は永遠にCランク冒険者のルクスでいるしかない。フィオナの夢は勇者のような冒険者になることだ。高ランクを目指すなら俺のような低ランク冒険者は邪魔になる。だから。いつかはこのパーティーとも別れる時が来るんだ。
「……酒場に行こう。もうそろそろ夕方だからね」
俺はフィオナの言葉にうんとは言えなかった。
酒場に入ると、いつも通り店主が迎えてくれてテーブル席に座る。
バーボンが豪快に酒をかっ食らっているのを俺はぼーっと見ていた。
クレアとフィオナは女の子同士で何かお喋りをしているみたいだな。
すると、後ろで酒を飲んでいた冒険者の話が聞こえてきたのだ。
男四人のパーティーらしい。年齢は俺より年上のようだな。
「知ってるか。冒険者ギルドのギルドマスターがこの街に来るそうだぜ」
「ああ……王都でも騒ぎになってるんだってな。なんだってこの街に?」
俺はオレンジジュースを飲む手が止まってしまった。
冒険者ギルドのギルドマスターともなれば多忙を極める。
なにせ、世界中の冒険者を統括するリーダー的な存在だからな。
ギルドハウスはでかい街なら絶対ひとつはあるってぐらいだ。
いかに冒険者ギルドが規模の大きな組織か分かるだろう。
そんな人がなぜハルモニーの街に来るのだろうか。
まず最初に思い浮かんだのは俺の正体に関してだが、まだ誰にもバレてはいないはず。
となると、可能性として高いのは最近起きてるあの件しかない。
ダンジョンに本来出現しないはずの魔物が発生している、あの異常現象に関してだ。知らないところで運命の歯車ってやつが回り始めたのか。