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13話 魔法使いは謎めいている

 翌朝、俺たちは遂に迷宮に踏み入った。

 フィオナもクレイゴーレムを一人で倒せたし、今日は金を稼ぐ日だ。

 『鉱石の井戸』まで行って金目のものを漁るとしよう。


「ここは攻略済みダンジョンだからな。地図もある」


 俺はがさがさと『水晶の迷宮』の地図を取り出した。

 最下層まで行くとCランク相当の魔物も出るけど、一層、二層なら大した魔物も出てこない。今日は浅い階層の『鉱石の井戸』から採掘する予定だ。


「クレアさんはなぜこの迷宮の探索に?」

「ん~? そうね、それは秘密かな」


 フィオナの質問にクレアはそう答えた。

 人差し指を立てて、片目を瞑っている。何が目的なんだよ。

 そんなことも話せないんじゃますます怪しいな。


「わー。空の宝箱がいっぱいです」

「攻略の終わった迷宮だもの。当然でしょうね」


 すべてが水晶で構築された美しい部屋の一角。

 そこに乱雑に置かれた宝箱は全て奪い去られた後だった。


「ダンジョンは冒険者を誘い込むようにできている。高難度の迷宮にはお宝が無限に湧くところもあるそうよ」

「そうなんですかぁ。一獲千金が狙えるのですね」

「まぁね。けれど生息してる魔物も相応に強力なのよね」


 クレアはフィオナに得意気に講釈を垂れている。

 流石はAランク冒険者様だ。そんなもん誰でも知ってるわ。

 『鉱石の井戸』だって実質的に冒険者を誘うための仕掛けだろ。

 その後は特に迷うこともなく一層にある井戸についた。そんなに深くないな。


「朝イチに来て良かった。誰もいないし、採り放題だな」


 俺は持ち物からロープを取り出してバーボンに渡した。

 酔っぱらってないよな。今から井戸の中に入って採掘するからな。

 頼む。ちゃんと持っててくれよ。


「心配するな。今日はまだ飲んでねぇ」


 バーボンがにかっと笑う。俺は苦笑いするしかない。

 まぁ両手はロープで塞がるから酔っぱらうってことはないだろう。

 俺はロープを腰に結んでするすると井戸の中を降りていく。


「おぉぉ。早速見つけたよ。アメジストだ!」


 ハンマーとタガネで削って採掘をしていく。

 他にも雷の魔力を秘めた雷鉱石などを見つけた。

 一人でテンション上がってると井戸の外で談笑する声が聞こえてくる。

 あれっ。石ころ採掘して喜んでるのって俺だけかよ。


 クレアの奴、随分トークが上手いようだな。

 何の話かは分からんがフィオナとバーボンもきゃいきゃい騒いでる。

 なんであんな奴と仲良くするわけ。理解できないな。

 俺はジェラシーに似た感情を抱きながら黙々と採掘していた。


「うわっ。魔物が現れたぞ!!」


 そろそろ井戸から出ようとしたとき、バーボンの声が聞こえた。

 するするっとロープが緩んで俺は井戸の底に落ちていく。


「えっ!? ちょっ……」


 なんとか井戸の底に着地すると足がじーんと痛んだ。

 危ない。底が浅くて助かったわ。深かったら怪我してたぞ。

 上の状況が全然分からん。魔物が現れて応戦しようとして手を離したのか。


 素面のバーボンが慌てるほどには強敵のようだな。

 ここも『矮躯の洞窟』や『滝壺の洞窟』と同じってわけだ。

 三連続になるとさすがに偶然ではないな。俺たちの知らないところで何かが起きてるんだ。


 なぜそんな異常現象が起きるのかまでは正直、あまり興味がない。

 昔なら自分から首を突っ込んだかもしれないが、今はやる気が湧かない。

 俺の今の目標はフィオナを一人前の冒険者にすること。

 そしてバーボンの娘さんの治療費を稼ぐこと。この二つだけだ。


「なんとか……登るしかないか……」


 井戸の壁は岩壁となっておりごつごつしている。

 この凹凸に上手く指と足をひっかければたぶん登れるはずだ。

 そんなに力に自信ないけど大丈夫かな。くっ。頑張れ俺。


 どうにかしてよじ登るとそこには全身が水晶でできた魔物がいた。

 ここには本来出現しないはずであるBランク相当の魔物、クリスタルゴーレム。

 サイズもクレイゴーレムとは比較にならない。五メートルは余裕である。


「ルクス……自力で登ってきたのか!」


 バーボンが俺に気づいた。フィオナとクレアを庇うように斧を構えている。

 彼の力自慢を象徴するかのようなその武器は完全に砕けていた。

 クリスタルゴーレムは魔法の力でとても硬い。普通の武器では傷ひとつつかないのだ。


「ああ。さっさと倒して帰ろう。鉱石も採掘できたしな!」


 俺は威勢よく剣を抜き放った。とはいえ、どうするか。

 こいつはCランクの立ち回りで勝てる相手じゃない。本気を出せば話は別だが。

 勇者を探してるクレアの前で怪しい素振りをするわけにもいかない。


 先の動いたのはクリスタルゴーレムの方だった。

 巨大な拳を振り下ろしてくる。スピードは遅い。

 俺は右へ避けて、反射的に剣で斬りかかった。


「……しまった!」


 安物のブロードソードが刀身の真ん中から綺麗に折れた。

 やっちまった。折れるのは分かってたのに攻撃してしまった。

 これは剣の強度の問題であって剣技は関係ない。

 クレアはじっとその様子を見つめていた。


「よし……逃げるぞ! 俺たちの手に負える相手じゃない」

「……しょうがないな。私が魔法で助けてあげるから倒してみなさい」


 情けなくも撤退を提案した俺の言葉はクレアの一言で掻き消された。

 クレアが手をかざすと、折れた剣が燃え上がり炎の刀身を形成していく。


「こ、これは……!」


 炎系魔法だ。持ってるだけで溶けてしまいそうな凄まじい熱を感じる。

 かなり高度な魔法だぞ。でもAランクならできても不思議はない。


「私は炎系魔法が得意なの。あなたの剣技ならそれで倒せるでしょ」

「そうか……よし。やってみよう!」


 俺は剣を握り直し、クリスタルゴーレムへ向かって突撃する。

 両腕が繰り出す攻撃を回避して、天高く跳躍。真っ直ぐ降下しながら炎の剣を振り下ろす。手応えあり。灼熱の刀身はゴーレムの身体に食い込んで一刀両断する。


「いよっしゃ。良くやったぞルクスっ!」

「流石はルクスさんですっ!」

「いやぁ……それほどでも。クレアのおかげだよ」


 光の粒となり消えていくクリスタルゴーレムを一瞥する。

 参ったな。思わぬところでクレアに借りを作ってしまった。

 灼熱の刀身はふっと消え去り、折れた剣だけが俺の手に残された。


「感謝はいらないわ。その代わり、私を仲間にしてくれない?」

「えっ?」


 急な提案だった。なのに俺は以前ほど強く断れなかった。

 それは助けてもらった恩があったってだけじゃない。


 さっきの連携に俺はなんだか懐かしさを感じていた。

 はじめて仲間のハインリヒと一緒に戦った時も、ああやって剣に魔法を付与してもらったんだ。

 まるで死んだ仲間が帰ってきたみたいな感覚がして俺の気持ちは緩んだ。


「……ならその前に教えてくれないか。なぜ勇者を探してたんだ?」

「勇者に聞きたいことがあるのよ。そんなに大した話じゃないけど……」


 俺に聞きたいことか。今のところは思い当たる節がない。

 彼女の目的は残念だけど諦めてもらうしかないな。

 冒険者で居続けるためには正体を明かしてはならないのだから。


「でも私にとっては大事なこと。だから探してたの」

「……分かった。俺たちで良ければよろしく頼む、クレア」


 こうして謎めいた魔法使い、クレアが仲間に加わった。

 俺はいつの間にか以前と同じ四人パーティーを結成していたのだ。

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