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12話 泥人形との特訓

 『水晶の迷宮』。

 床から壁、天井にいたるすべてが水晶でできた攻略済みダンジョン。

 各階層には『鉱石の井戸』という場所があり貴重な鉱石が採取できる。

 手に入れた鉱石は商人にそのまま売り払うもよし。鍛冶屋のところへ持っていって武器を作るのもよしだ。


「さて。今日はフィオナの特訓といこう。迷宮に入る前に魔物と戦うぞ」


 迷宮の入り口で俺は腕を組んで二人にそう宣言した。

 特訓だけして帰るのも効率が悪いので迷宮も潜る予定だが。


「ど、どんな魔物と戦うんですか……!?」

「ずばりこいつだ。この迷宮は外も中も魔物が守ってるんだよ」


 近くにあった丸い土の塊のひとつをぺしぺしと叩いた。

 迷宮の周囲にはこんなオブジェみたいなのがたくさん並んでいる。

 この魔物は刺激しなければ襲ってこないからな。あえて戦う者は少ない。

 腰から剣を抜くと土の塊を軽く刺した。すると土の塊がぐももっと動き出す。


「ひぇぇぇっ。ルクスさん、この土の塊って生きてるんですかぁぁ!?」


 フィオナは驚きの声を発しながら身構えて後退していく。

 俺もささっと走ってフィオナの後ろに移動した。

 ずんぐりとした土でできた魔物だ。強さはDランク相当。

 サイズは約二メートルってところか。フィオナよりずっと大柄だ。


「クレイゴーレムだな。練習には丁度良いだろ……ひっく」


 バーボンは離れた木陰で酒を煽っている。

 今日はやることもないだろうし好きに飲ませてやるか。


「フィオナ、この魔物とは真正面から戦うと力が要求される。工夫して戦うんだ!」

「く……工夫!? どうすればいいんですかっ!?」

「それを考えるのが課題のひとつってことさ! 頑張ってくれ!」


 クレイゴーレムはフィオナに狙いを定めたらしい。

 ずんずんと近づいて拳を振り下ろすがフィオナはバックステップで避けた。


「せぇい!」


 果敢に杖を振りかぶり、叩きつけるが効果は薄い。

 今まで戦ってきたEランク相当の魔物とは根本的に違う。

 スライムも、ゴブリンも、ドラクルバットも。自分より小さい相手だ。

 だがクレイゴーレムは違う。こいつと戦うには一工夫必要になる。


 フィオナは元から治癒担当の僧侶だ。女の子だし力もそこまで強くない。

 だから自分の弱さを自覚して、それをカバーできる戦い方を身に着けさせたい。

 俺のかつての仲間、僧侶オリヴィアはアホみたいに力が強かったけど。

 細腕なのに男性顔負けの腕力だったな。武器もごついメイスだったし。


「せいっ、せいっ、せいっ!」


 連続で胴体に杖を叩きつけてもやはり倒せない。

 クレイゴーレムを構成する土が少し削れるだけだ。


「はぁはぁ……駄目です。私なんかじゃ……」

「そうネガティブにならないで。やり方は色々ある。例えば足を集中的に狙うとか……」


 これは本当に例えばだ。

 パーティーで戦う時は敵の動きを止めるだけでも役立つからな。

 フィオナは言われた通り、足に杖の殴打を集中させる。

 土が少し削れてクレイゴーレムの動きが鈍くなった。


「あっ……そうだ! 思いつきました!」


 フィオナは動きが鈍った隙にゴーレムの腕関節に杖を突き刺した。

 『突き』か。なるほど悪くない。しかも構造上脆い関節を狙っての一撃。

 これならフィオナでも有効的なダメージを与えられる。良い発想だ。

 腕関節が損傷して片腕はもうまともに動かせそうにないな。


「はぁぁぁっ!!」


 そして顔の目玉らしき穴にもう一度突きをお見舞いする。

 杖が顔面を貫通した。クレイゴーレムはそのまま仰向けで地面に倒れる。

 そのまま光の粒となって消えていく。倒せた証拠だ。


「や……やりました……! なんとか……」


 一時間くらいか。思っていたより早くコツを掴んだな。

 バーボンはいびきをかいて寝ている。すると後ろから拍手の音がした。

 振り返るとそこには酒場でポーカーをした女の魔法使いがいた。


「お見事。頑張ったわね。魔法の力も借りず一人で倒すなんて」

「何の用だ。もう君と賭け事をする気はないぞ」


 俺は警戒心をあらわにした。勇者の行方を探している謎の女だ。

 でも理由が分からん。ともかく正体がバレるわけにはいかないからな。

 バレちまったら俺は犯罪者だ。冒険者ギルドにはいられないし、助けてくれたギルドにも迷惑がかかる。


「あなたたち、迷宮には入らないの?」

「明日にはそうするつもりだけど……それがどうしたんだ」


 女の魔法使いはくすくすと笑って俺に近寄ってくる。


「私も一緒に行っていい? 中を探索したいんだけど仲間が欲しいの」


 俺はさらに警戒することになった。そんなもん知るか。他の奴に頼め。

 もちろん断る。何を考えているか分からないからな。関わらないのが一番だ。


「私は魔法使いだから援護は得意よ。そんなに悪い条件じゃないと思うけど」

「そうか。ちなみに君のランクはいくつなんだ?」


 この程度の迷宮で仲間が欲しいなら大したランクじゃないだろ。

 EランクかDランクなら実力不足ってことで追い返してやる。


「私はAランク。あなたのランクは?」

「その……俺はCランクだけど……」


 勘弁してくれよ。なんでそこで俺より上のランクなわけ。

 世界中を探してもAランク冒険者は数百人しかいない。選ばれし者だ。

 話を聞いたフィオナが喜んだ様子で俺を揺さぶる。


「る、ルクスさん! 凄いですよ! ぜひ一緒に来てもらいましょう!」

「なんなら魔法でも教えてあげましょうか。あなたならもっと強くなれるわ」


 いかん、釣られるなフィオナ。こいつには何か裏があるぞ。

 だいたいAランク冒険者がこんなとこにいるのがすでに怪しい。

 そこでバーボンが目を覚まして首を左右に振った。


「あっ……すまん、寝てた。クレイゴーレムは倒したのか?」


 話が遅れてるよ。今そんな状況じゃないからね。

 女の魔法使いが同行したい旨を話すと、バーボンは気前が良さそうに言った。


「俺は構わんよ。仲間には魔法使いがいないから頼りになる」


 クソッ、二対一だ。戦況が不利になった。

 こうなったらポーカーの件を引き合いに出すか。

 必死で思考を巡らせているとバーボンが俺をこう諭してきた。


「なぁルクス、怪しんでいるようだが別にいいじゃないか。俺たちも探索に来ただけだ」

「それは……そうだが……」


 結局俺はフィオナとバーボンに負けて従うしかなかった。

 その日の残り時間はフィオナの特訓に費やして、夜を過ごした。


「……そうだ。君の名前を聞いてなかったな」


 晩ご飯のリゾットを女の魔法使いに手渡しながら、名前を確認する。

 普段はパンが多いから米を使った料理って珍しいな。馴染みがない。

 フィオナは結構料理の趣向を凝らすタイプのようなのだ。

 野宿がある時は市場で必ず日持ちする食材を買ってくる。


「私はクレアよ。よろしくね、お兄さん」

「……ルクスでいいよ。こっちは仲間のフィオナとバーボンだ」


 俺はぶっきらぼうにそう言って、リゾットをフォークで口に放り込んだ。

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