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11話 イカサマは危険な遊び

 その日、俺たちは依頼を終えて帰ってきたところだった。

 村を襲う魔物の退治だったがバーボンが素面だったおかげですぐ片付いた。

 酔ってなければ一級品の強さなんだよな。本当に。


「そろそろPTランクも上がるんじゃねぇかな。結構数こなしてるぞ」


 報酬を貰い酒場でご飯を食っていると、バーボンがそんな話をした。

 たしかにPTランクに関してはそろそろ上がってもいい頃合いだ。

 人数は三人しかいないが実力的にはDでも問題ないと思う。


「そ、そうなんでしょうか……私はまだEランクですが……」


 フィオナがしゅんとした声を発して俯く。

 気にするのも無理はないがPTランクに個人のランクは関係ない。

 パーティーとしての功績だけが考慮される。でないとメンバーが入れ替わった時の査定が面倒だからな。


「そろそろフィオナもDランク相当の魔物と戦ってみるか。ゴブリン程度ならもう余裕だろ?」


 バーボンがそう言って酒を一気に飲み干すとジョッキを置く。

 俺はちびちびと肉料理を食いながらその意見に賛成した。


「確かにそうだ。もうステップアップする頃かもしれないな」


 この辺りならそうだな。『水晶の迷宮』とかがちょうど良いか。

 全五層のダンジョンでEランクからCランクの冒険者までよく潜る。

 あそこは貴重な鉱石が採掘できるんだ。依頼関係なしでも探索する価値がある。

 鉱石を採掘するだけでそこそこの金になるんだ。


「が、頑張ってみます……Dランク相当ってどういう魔物がいるんですか?」

「うーん。そうだな。コボルド、スケルトン……後はゴーストとか」

「あ……死霊系の魔物ならなんとかなるかもしれません……僧侶なので」


 それもそうか。僧侶は祈りを捧げることで魂を鎮めることができる。

 これもまた一種の魔法で、僧侶は除霊の技能を有していることが多い。

 フィオナもその例に漏れないということだ。


「うん、じゃあとりあえず明日はちょっと強い魔物と戦ってみようか」


 そんな話をしていると俺の中で考えがまとまった。

 よし。今度はフィオナの修行も兼ねて『水晶の迷宮』に行ってみるか。

 あそこはすべてが水晶で出来たとても綺麗なところでもある。

 魔物が出現しなければ観光名所になってもおかしくない。


「だぁぁぁっ。また負けかよ。俺はもう降りるぜ。勝てやしない!」


 酒場の隅で賭けに興じていた集団が大声を出して去っていく。

 またあの女の魔法使いが勝ったのか。いい加減誰か気づかないのかな。

 あの女はああして酒場に立ち寄った人間を賭けに誘ってはカモにしていくんだ。


 ひょいひょい釣られる奴が多いのは美人なのも関係していると思う。

 中性的な均整の取れた顔立ちだが、笑うと蠱惑的で人を引きつける妖艶な気配を漂わせた。


 髪は短めの銀髪で神秘性を帯びている。ローブからちらちらと見える身体はとてもスタイルが良い。

 ちょっと褒めすぎたが、美人だと思って鼻の下伸ばしてるとケツの毛まで毟られるってことだ。


「ちょっとお兄さん。カードで遊ばない? 今暇なんだ」


 女の魔法使いはいつの間にか立ち上がって俺たちのところまで来ていた。

 俺は肉料理を口に運ぶのを辞めてフォークを皿に置く。

 にんまりと笑って顔を近づけてくる。


「ごめん。賭けは苦手だから止めておくよ。それに君は強そうだからね」

「そんなことないよ。運が良いのは認めるけど。やらないの? 寂しいなぁ」


 すすっとテーブル席に腰かけて身体を擦りつけてくる。止めてくれよ狭いよ。

 心なしかフィオナが眉を寄せている。これって俺が悪いのかな。


「賭けはお金じゃなくてもいいんだよ。大切なものなら、何でもね……」

「大切なものか……そんなのはもう失くしたな……」

「なら賭けるのはあなたの秘密なんてどう? 面白いでしょ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は硬直した。こいつ何者なんだ。

 もしかして俺の正体を知っているのか。まさかな。

 一介の冒険者が知るわけないんだが、探りを入れた方がいいか。

 ただ調子に乗ってるだけのクソアバズレの可能性も捨てきれないけど。


「わかった。二人きりじゃ面白くないから仲間も参加していいかな」

「わお。いいね、そうしましょう。それならここで遊びましょうか」


 女の魔法使いは懐からトランプを取り出すと素早くカードを切る。

 そしてカードを二山に分けるとパラパラと重ねて、手の中でカードが弾かれて混ざっていく。リフルシャッフルって奴だな。


「皆さんはポーカーのルールってご存知? 知らなければ教えてあげるけど」

「ルールだけなら……遊んだことはありませんが」

「若い頃にやったっきりだな。まぁだいたい覚えてるよ」


 フィオナは自信が無さそうだな。初挑戦なら当然だ。

 バーボンはどうでも良さそうだ。賭けはあんまり興味ないんだよなこの人。


「……慣れてない子もいるから親は君に任せていいかな」

「あらいいの。じゃあ私が務めさせてもらいましょうか。お金か秘密を賭けてね。最低額は千メロから」

「秘密は何でもいいんですか?」


 フィオナの質問に女の魔法使いが答える。


「ええ。でも勝った人の質問に正直に答えてね。嘘吐いたら私の魔法で分かるから」


 嘘発見の魔法って奴か。抜け目がないな。

 俺は懐から千メロ硬貨を取り出して机に置いた。他のみんなも同じだ。

 慣れた手捌きでカードを配っていく。五枚配られて俺はカードを確認した。

 役はできてない。全員降りずに手札の交換となり、手札を公開する。


「やったぁ! 私の勝ちですっ」


 勝ったのはフィオナだった。5のツーペアだな。

 僧侶の性分なのかお金を貰うのを申し訳なさそうにしていた。


「ビギナーズラックは侮れないわね。それじゃあもう一回」


 カードを配られると、俺の手札はまた役ができてなかった。

 まぁこんなもんだろうな。俺に運気が無いのは人生を振り返れば分かる。


「俺は自分の秘密を賭ける。他のみんなは?」

「おっ。勝負に出たわね。面白くなってきた……!」


 自分の秘密を賭けたのは俺だけだった。

 手札の交換となり役を確認する。ワンペアができてる。

 俺って奴は本当にショボい。もうちょっと良い役ができなかったのかよ。


「私の勝ちね。この勝負はいただき」


 勝ったのは女の魔法使いだ。賭けた金は今回すべて彼女のもの。

 そして俺の秘密も、彼女のものだ。さぁ言え。何が聞きたいのか。

 フィオナとバーボンの金を回収すると女の魔法使いの目の色が変わる。

 それは今までの軽薄なものとは程遠い、どこまでも酷薄で冷たい瞳。


「じゃあお兄さんに質問。勇者クルスが何処にいるか知ってる?」


 やはり。この女には何かがある。だが素直に教えるわけにはいかないな。

 答える前に俺は女の魔法使いの手首を掴んだ。袖からはらりとカードが落ちる。


「……やっぱりイカサマしてたな。袖に隠したカードで強い役を作ってたわけか」


 この女がイカサマを使ってたのはずっと前から知ってたことだ。

 ソロの頃に彼女のことを見ていたら気づいてしまった。

 イカサマで賭けを仕掛けて金を巻き上げていることを。

 同じ手を使うと思って勝負に出たのだが、上手く俺の罠に嵌ってくれたようだ。


「この勝負は無効だ。君の質問に答える義理はないよ」


 女の魔法使いは舌打ちをすると俺の手を引き離して酒場を出ていった。

 カードも回収せずに。ちゃんと持って帰れよな。


「あの方は何者だったのでしょう……なぜ勇者様を探していたんでしょうか」

「さぁな……勇者って故郷に帰った後、国外追放になったんだろ。行方なんて分からんな」


 二人はきっと頭に疑問符を浮かべているだろう。

 俺だって同じだ。なぜ勇者の行方を探している奴がいるんだ。

 嫌な胸騒ぎを覚えた俺は金を支払うと足早に宿屋へ帰ることにした。

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