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最終話 遥かなる旅路

 戦いは終わった。疲弊しきった状態で王都ローレルまで戻ると王城に案内され、そこで手厚い治療を受けた。無限領域の力を引き出したせいなのだろうが、俺なんて一週間近く眠ってしまった。今日ようやく目覚めて今は客室でゆったりとしている。


 俺が目覚めたと聞いてフィオナも、バーボンも、クレアも俺の部屋に押しかけてきて、改めて魔王討伐の喜びを分かち合った。そうすると自然に俺たちパーティーはこれからどうするか、という話になったのである。


 魔王を倒したんだ。その報酬は今までの比ではないほど高いだろうし、しばらくは遊んで暮らすこともできる。豪遊ばかりしてたらすぐに無くなると思うけど、まあ、それでも数年は貴族みたいな暮らしができるだろう。


「俺としては、これからもみんなと一緒に冒険者をやって行きたいと思ってるけど……どうかな」


 少し照れくさいけれど、これが俺の本心だ。するとフィオナが恐る恐る口を開いた。


「私はルクスさんからまだまだ、色々なことを学びたいです。あ、その……本当のことを言います。ただ、一緒にいたいんです。変ですか……?」

「変なんかじゃないさ。俺もそうだ。みんなと一緒なら、出来そうなことがたくさんあると思ってる」


 次に話したのはバーボンだ。


「俺も同じ気持ちだ。正直、年齢的に限界な気もしてたんだが、案外何とかなるもんだな。しかも魔王まで倒しちまったんだ。ただ、出来ることならたまにはこの国に帰りてぇな。その、元嫁と娘が元気にやってるか気になるもんでよ」


 バーボンとしては、やはりそこは気になるか。でもそうだな。ホームグラウンドは決めておいて良いかも知れない。根無し草のように当てもない旅を続けるのは大変だしな。一段落したら戻れる場所があるってのは精神的にも重要だ。


「そうだな。基本はこのローレルを本拠地としておこう。この国は俺の……ルクスとしての故郷みたいなものでもあるからさ」

「ありがたいぜ。なら、俺はどこまでも一緒に戦ってやるさ。仲間だからな!」


 最後にクレアだ。腕を組んだままこう言った。


「いまさらそんな確認しなくていいでしょ。私はこれからも一緒にやっていくつもりだったわ。それより、ルクス。問題があるの」

「問題……? 何かあったのか?」

「城から出られないのよ。軟禁状態になってる」

「え……なんで……?」

「それを知りたいのは私の方。ルクスが目覚めるまでは待っていて欲しい、って言ってるのよね」


 思い当たる節は……あるな。おそらく魔王討伐前にアル王子、いや、イリオン王から貴族にならないかと誘われたことについてだろう。冒険者っていうのは自由気ままな人間が多い。返事もせず逃げられないように手を回されていたんだろうな。


 俺は素直にそのことを話すと、みんな一斉に「一緒に冒険者を続けてもいいのか?」と言い出した。いや一緒に冒険者やっていいのか、やらない方がいいのかどっちなんだよ。


「いや……正直、俺には荷が重い話だよ。頭もそんなに良くないし。内政? とかするんだろ。どうすればいいのかなんてさっぱり分からないぞ」

「……まぁそれもそうね。ルクスは剣振って魔物倒してる方が似合ってるわ」

「それはそれで傷つくな……まぁ、ともかく、全部終わってよく考えてみたが、きっぱり断るよ」

「ちょっと待てよ。もし『王の意に沿わないなら力ずくで……』みたいなことになったらどうするんだ」


 バーボンも変な発想をするなぁ。そんな馬鹿なことあるわけないと思いつつも、クレアが「じゃあ日の出前に透明化の魔法でこっそり逃げましょう」なんて言い出した。恐ろしいことにその話で決まりになりつつある。いいのかなそれで。


「……僕ってそんなに邪智暴虐の王に見える? いいよ別に。ダメ元で言っただけだからね」


 みんなの視線が扉の前に集まる。そこには現イリオン王、元アル王子がいた。服装は見慣れた庶民の服ではなく、国王らしい煌びやかなものだ。王冠はつけていない。聞いたところによると、ああいうのは特別な行事以外ではつけないのだそうだ。


「あ……失礼しました、王様。決してそんなつもりでは……」


 クレアは慌てて取り繕おうとしているが、もう遅いだろう。


「何となく、そういう未来が視えてたんだよね。ルクスが仲間と一緒に旅立つところ。ちょっと干渉すれば変えられるかな、と思ったんだけど……そう簡単に上手くはいかないね。僕の誘いを断るのはいいけど、この国にはたまに寄ってよ。ルクスたちに見ていて欲しいんだ。きっといい国にしてみせるから」


 元々この国には定期的に戻ってくるつもりだったので、特に問題は無い。ただ、イリオン王の誘いを断るのは少し申し訳なかったな。


「ああ、それと。客人が来てるよ。ルクスたちと話がしたいってずっと待ってたんだ」

「ハロー。ルクスちゃん。それにみんな。本当に魔王を倒しちゃったんだね……まずはおめでとっ!」


 このわざとらしいぐらい能天気を装った喋り方は他でもない、ギルドマスターのアンナである。冒険者ギルドのトップであるアンナがわざわざ現れるということは、大抵何か頼み事を押しつける時だと決まっている。


「もうみんな、ただの冒険者ではいられないね。ルクスちゃんも含めてランクを上げないと。それから報酬だね。後は……」

「前置きはいいよ。何か用があって来たんだろう?」

「うん。まぁ……大仕事の後にまた大変な仕事を押しつけるのはさすがに私も……悪い気がするんだけどね。いやーでもやっぱ今一番活躍してるのはルクスちゃんたちだしなぁ」

「まだしばらくは冒険者として頑張るつもりだ。依頼があるなら引き受けるよ」


 待ってました、と言わんばかりにアンナがぺらぺらと喋り始めたのは、北の大陸で大きな異変が起きているという話についてだった。以前から、つまり俺たちが新魔王軍と戦っている間から、その兆候はあったらしい。アンナ自身も赴き、戦って、その実感は確信に変わったという。


 魔王軍に代わる新たな魔物の集団が、北の大陸を支配しようと行動を開始したのだ。冒険者ギルドは今、その事態の鎮静化に向けて冒険者を多数派遣しようとしている。俺たちにも是非協力してくれ、とアンナは頼んできた。


 話そのものは魔王討伐前にちらっと聞いた気がするが、そこまで深刻な事態になっているとはな。それにひとつ聞き捨てならない情報をアンナは話した。思えば、その話をすれば俺が食いつくと考えて言ったんだろう。


 その集団のリーダーらしき魔物は、新たな時代の魔王を自称しているという。復活した魔王の次は新しい魔王か。まったく、魔物はその称号が好きだな。もう勇者を名乗る気はないんだけど、いいだろう。何度だって相手にしてやるさ。


「……と、いうわけで。ルクスちゃん。みんな。この依頼、引き受けてくれる?」

「引き受けるよ。みんなもいいかな?」


 フィオナ、バーボン、クレアが揃って肯定の返事をすると、アンナは善は急げと言って城の外へと俺たちを連れだした。北の大陸まで行くのに船なんて使っていたら時間がかかって仕方ない、と言ってアイテムを取り出す。これは『転移石』だ。一度行ったことのある場所へ移動できる貴重な品である。


「さぁ、みんな。覚悟はいい!? 早速で悪いけど、新たな戦いの始まりだからね!」


 北の大陸なんて俺も数えるほどしか行ったことがない。転移石が光を放ち、俺たちは新たな冒険と戦いを繰り広げることになる。それからずいぶん長い間、冒険と戦いに次ぐ戦いを続けることになった。


 見たことのない景色、見たことのない敵、見たことのない、初めて会う人々。

 体験したすべてを語りたいところだが、そうするにはこの余白は狭すぎる。

 俺たちの物語の続きはまたの機会に語るとしよう。



(終わり)

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