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104話 丁々発止の戦い

「反撃だと。勇者よ、そんな機会を私が与えると思うのか。これから起きるのは一方的な殺戮だ」

「まぁ魔王の言うことにも一理あるな。俺たちが一人で戦ったら、ルクスみたいに長続きはしないだろうよ。瞬殺されるのが関の山だ。でも……」

「全員で挑めば、活路を切り開く力にはなります。今までもそうやって勝ってきました……!」

「戦士……バーボンだったか。それに僧侶フィオナまで。よほど自信があるらしい」

「そこまで自惚れちゃいない。必死に戦えば、足引っ張らない程度には役に立てるってだけさ」

「ふむ。今の勇者の仲間に興味が湧いた。ならば見せてみろ」


 俺一人でどうにかなる相手じゃない。魔王に勝つためのファクターは最初からフィオナ、クレア、バーボンの三人だ。みんなの活躍しだいで勝敗が決まる。俺自身、一人で戦ってみてその気持ちがより強くなった。


「ならお見せしましょうか。名も無き四人パーティーの実力を。ルクス、私たちが隙を作るから上手いこと決めなさい」

「ざっくばらんだなぁ。分かった」


 フィオナたちが初手に選んだのは、無限領域を使った激しい吹雪と、クレアによる闇系魔法の付与。戦闘の序盤で使った、魔法に魔法を付与するあの芸当だ。吹雪に闇の力を付与すれば、闇と光以外の攻撃を無効化する魔王にも通用する。


「見て分からないのか。無限領域の力も、闇系魔法の力もお前たちだけの技術ではない。その程度、いくらでも防げる」


 魔王の全身から魔力が放出され、それは闇の波動となって吹雪を掻き消した。無限領域の力をとっても闇系魔法をとっても、やはり魔王が一枚上手か。しかし、フィオナとクレアの魔法攻撃が放たれると同時に俺とバーボンは魔王の両サイドから接近していた。


 魔法を行使している間はそれに集中しているはず。いくら魔王でも剣を振り回しながら完璧に魔法を操ることはできないはずだ。魔法か剣技のどちらかが、疎かになる可能性が高い。ならば試してみる価値はあるだろう。


「……小賢しい真似をする!」


 魔王は迷わずに魔剣をバーボンの迎撃に使った。剣は一本しかない。俺の攻撃までは防げない、はずだった。スカートの裾から触手が飛び出し、俺に接近させないように牽制を仕掛けてくる。その可能性は考えてなかった。もう再生していたとは。


「お前たちの繰り出した『三手』……すべて対応できた。仲間が増えたところで意味は……」


 俺以上の速度で振るわれる魔剣の攻撃をバーボンはギリギリのところで戦斧を使って受け流し、魔王の脇腹に深い一撃を叩きこんだ。もちろん闇系魔法の付与がついた一発だ。確実に効いている。


「な……なぜだ? 勇者の攻撃で深手を負っていたせいか……?」

「そりゃあ……太刀筋がルクスすぎるんだよ。今までずっと一緒に戦ってきたし、一度は直接戦ったこともある。勘としか言いようがないんだが……なんとなーく何をするか読めちまった」


 なるほど。事前に動きが分かっていれば、いくら速くても防御くらいはできる。俺自身にも分からない癖のようなものをバーボンは経験で理解してしまっているんだろう。


 直後、畳みかけるように何本もの短剣が魔王の胸に突き刺さる。投げつけたのはクレアだ。これにも闇系魔法の付与がある。

 フィオナの吹雪が微かに闇の波動を押しているような気がした。氷と闇がせめぎ合う中で、俺は触手を叩き斬って魔王に肉薄する。


 魔王はかろうじて魔剣で俺の連続攻撃を凌ぎ続けている。再び触手を伸ばして今度はバーボンを攻撃する。交差する剣と剣の閃きが、火花のように散っている。俺たちの優勢だ。このまま押し込めば行ける。


「……行、けぇぇぇぇっ!!」


 一瞬の隙を突いて、魔剣を持つ魔王の手首を切り裂く。力を失ったことで魔剣がすっぽ抜けて後ろに跳ね飛んだ。ここだ。今が致命傷を与える最大の好機。にも関わらず、俺は急停止してみんなに向かって叫んでいた。


「……全員後退しろおおおおおおおっ!!」


 魔王の下半身が膨れ上がったかと思うと、まるで巨大な灰色の壁がせり上がるように玉座の間の天井を壊した。まだ巨大化していく。この現象には覚えがある。魔王のやつ、自分の身体を生贄に邪神と融合したんだ。二年前にも使ってきた手だ。忘れるわけがない。


 しかも、あの姿になると元に戻れないから、魔王自身も極力使わないはずだ。俺たちがそれだけ魔王を追い込んだという証左でもある。戦いの最終局面がこれから始まるのだ。


 それは灰色の竜のように見える、触手で構成された異形の怪物だった。触手の一本一本が生きているかのように蠢動しており、血液を運ぶ血管にも思える。灰色の竜の眉間からは魔王の上半身が飛び出していて、冷たい瞳で俺たちを睥睨している。


「こうなったからにはもう勝ち目はない。勇者、お前が無限領域の力を使えるなら話は別だが」


 俺は何も答えることはできなかった。二年前、俺は一か八かで無限領域を発動し、この姿の魔王に挑んだ。そこからどうやって戦ったのか、詳細な記憶は抜け落ちてしまっている。その時は瀕死の状態で戦っていたせいだろう。でも俺はなんとかその時だけ制御に成功し、魔王を倒すことができた。


 あれと同じことができるか、と言われると無理だと思う。オフィーリアの起こした奇跡をもう一度やれと言うようなものだろう。それでも突破口が無いわけではない。恐ろしい怪物に変身したといっても、本体はあくまで魔王だ。眉間から飛び出してる奴を集中的に攻撃すればいい。


「……やるぞ! 望みを捨てるな。どんなに苦しい状況でも、勝てる可能性はゼロじゃない!」


 俺はそうしてみんなと俺自身を奮い立たせ、奥義である聖天光波剣を発動する。剣が光を帯び、長大な光の剣を形成した。この技なら城よりも大きな今の魔王にも少しは通用するはずだ。


「うおおおおおっ!!」


 光の剣を一直線に魔王の本体めがけて振り下ろす。灰色の竜が片手を伸ばして軽々と光の剣を掴み取った。竜の身体を覆う闇の魔力と俺の光の魔力が反応して、竜の手を焼き焦がす。効いているか、と思ったが、焼けてもすぐに再生していく。


「甘い、甘いぞ勇者。無限領域の力に加えて邪神の力も使っているのだ。素のお前では話にならん……!」


 魔王は単純な力技で聖天光波剣をへし折り、消滅させてしまうと、体の各部から触手を伸ばして闇の波動を放出した。当たれば異空間へと削り取る必殺の攻撃。しかもかなりの広範囲だ。何かしらの魔法で防御するか、相殺する以外に身を守る方法は無い。


「くっ……特大円天盾(えんてんしゅん)!」


 クレアが特大の魔力障壁を作ってくれた。でも駄目だ。数秒間くらいしか持ちそうにない。


八咫鏡(やたのかがみ)!!」


 今は防御を強固にしていくしかない。俺がさらに魔力障壁を展開したものの、これでも足りなさそうだ。


「ひょ……氷陣壁(ひょうじんへき)っ!!」


 最後にフィオナも氷の壁を作って闇の波動を受け止める。しかも無限領域の力で防御能力が大幅に向上している。これでなんとか闇の波動を防ぎ切れるか。


「蟻の抵抗だ。まったく儚いな……!」


 闇の波動を防ぎ切った瞬間、灰色の竜の腕が振り下ろされ、一撃で三重の防御魔法が砕け散った。俺たちはその場から慌てて飛び退いたが、玉座の間を吹き飛ばすほどの圧倒的な力の前に散り散りになってしまう。


 もう滅茶苦茶だった。パーティーの陣形だとか、連携なんてこの規模の敵には意味を為さない。誰も死んでいないのが不思議なくらいだ。


「やっぱり……使うしかないか……『無限領域』の力を……」


 封印を解くしかない。どっちにしろ、俺がその気になれば解除できるのはここぞという時に使うためのもの。命を賭して勇者の役目を果たす日が来たということだ。


 死ぬのは正直言って、怖い。誰だってそうなんだろう。魔王ですら一度死んで恐怖を覚えたのだから、仕方のないことだ。でも案外悪くないかもな。死後の世界があるのなら、死んでしまった仲間やオフィーリアに会えるかもしれない。

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