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103話 奇跡の反撃

 虚空刃による見えない斬撃の包囲網を完成させた俺は、光の魔法剣を振りかぶって一気に斬りかかった。これで致命的な負傷を与えることができる、と確信した俺の考えは甘いものだった。魔王の身体が闇に包まれたかと思うと、一瞬でその場から消えてしまったのである。


「なっ……転移魔法!? 戦闘で使えるレベルの速度で発動させたっていうのか……!」


 いわゆる瞬間移動も、闇系魔法の得意とする分野だ。異空間を形成し、別の空間へと繋げることで、実質的に瞬間移動ができるようになる。ただし、魔王ほどの力量の持ち主でも、二年前は発動に時間がかかり、戦闘では使えない程度のものだった。


 復活してから、魔力量や魔法の威力といった単純な能力は弱体化しているが、細かい部分では二年前以上だ。分かっちゃいたが、簡単に倒させてはくれないんだな。


 魔王の転移先は俺の背後だ。移動先の空間から漏れ出す魔力で、その位置が特定できる。魔王は後ろから水平に魔剣を振るうが俺は虚空刃を一度解除し、振り返りつつバックステップで避ける。


「よい反応だな。だがこれで『斬撃を置く』という戦い方も覚えた。さて、次は何を見せてくれる? 何を教えてくれる?」


 やっぱりそうなるか。クレアたちはまだ魔王の『虚構影絵』の分身と戦っている。援護は期待できそうにないな。一番良い方法は、剣術に頼らないあの三人が一緒に戦ってくれることなのだが、魔王もそれを理解しているからこその『虚構影絵』なんだろうな。


「何もしないようなら、こちらから行かせてもらおう。覚悟せよ」


 魔王の身体が闇に包まれ、その場から消失する。転移魔法も使ってくるのか。俺は神経を研ぎ澄ませて魔力を探ると、右に魔力を感じた。探知はそこまで得意じゃないけれど、おおよその位置は分かった。


「そこだ!」


 流星斬を放ち斬撃を飛ばすと、狙い通りの場所から魔王の斬撃が三つ飛んでくる。ひとつは相殺したが、残りのふたつは直接剣で弾く。すると弾かれた斬撃がふっと消え失せた。置いたな。弾かれた「飛ぶ斬撃」を設置したのだ。それは俺もしてないやり方だった。


 学習した手札が増えてきたことで、魔王のアレンジが効いてきている。ただ学ぶだけじゃなくて、俺を上回る使い方を魔王はする。このまま長く戦い続けていたら絶対に負けてしまうだろう。魔王の身体が闇に包まれ、またもや姿を消す。


 転移魔法で逃げ回りながら斬撃を飛ばし、弾かれた斬撃を置く。それを繰り返していけば、あっという間に虚空刃による包囲網が完成する。それでも、虚空刃の位置を特定する方法が無いわけじゃない。魔王が俺の剣術を真似すると言っても、魔法は光じゃなく闇。活路はそこにある。


「破邪聖域っ!!」


 右足を強く踏み込むと、俺を中心として真円の結界が広がっていく。魔物などの悪しき存在や邪悪な魔法を排除する光系魔法だ。これなら闇系魔法で生み出した魔王の虚空刃を排除できるかもしれない。


「甘いな。その程度の結界で私の闇を無力化することはできない」

「かもしれない。けど、面白いことが起きるぞ。光の結界が闇の魔法で作られた刃に干渉することで、俺にはその位置が特定できるようになる!」


 広がった俺の結界に見た目上の変化はない。だが術者である俺に悪しき力を排除しようと働きかけている感覚が伝わってくる。その感覚を辿ればおおよその位置が割り出せるという寸法だ。


「『虚空刃』を突破する隙間は……ここだっ!」


 斬撃の包囲網の隙間はずばり、空中にある。確かにここなら俺の前後左右より手薄になるはずだ。俺が飛んだりしなければ、無関係な上空に斬撃を繰り出すはずはないからな。真上に跳躍した俺はありったけの魔力を込めて、渾身の流星斬を魔王に放つ。


「いいだろう。ならば力比べだ。暗天……斬波っ!!」


 虚空を薙いだ白と黒、二つの斬撃が飛翔し、激突する。威力はほぼ互角。魔力が激しく火花のように飛び散り、せめぎ合っている。やがて競り勝ったのは俺の流星斬の方だった。威力はほぼ減衰してしまったが、魔王めがけて一直線に飛んでいく。


「……ふっ。やるな」


 魔王はそれを魔剣の一振りで掻き消した。まるで他愛ない遊びに付き合うかのようだ。俺は最初から本気でやっているが、魔王はまだ余裕があるように感じる。状況は絶望的で勝ち目が見えない。とはいえ、次の手は読めている。


 魔剣テスタメントを使った新たな戦い方が魔王の目玉だったのは間違いないだろう。それを凌ぎ続けられている現状は奴にとって誤算のはず。そうなればどんな手札を切ってくるか。大方の予想はつく。


「手の内は分かった。この一手で更にお前を追い込もう。考えを変えるなら、今がチャンスだ」

「悪いけれど断る。俺は俺の好きなこの世界を守る。それだけは……譲れない」

「ならば後悔しろ。魔王であるこの私を振ったことを……な!」


 ただでさえ莫大な魔王の魔力が爆発的に増大していく。解放したんだ。無限領域の力を。当然、あの力は魔王も使える。増大した魔力をどう使うか。剣術を主体にした今ならば、身体能力や剣速の向上に使うだろうな。どれほどのパワーアップになるのか、考えたくもない。


 魔王が動いた。僅かな残像を残し、コンマ一秒より速く魔剣の間合いまで接近し、袈裟斬りが来る。転移魔法を使ったのかと思ったが、そうじゃない。俺の目でもギリギリ捉えられるかどうか。それほどの速さだ。放たれた斬撃をぎりぎりで受け止めると、返す刀で逆袈裟に切り替えてきた。


 下からくる斬撃を受け止める。速い。重い。そしてよく斬れる。俺の剣が少し刃毀れした。光の魔法剣を使っていなければ折れたかもしれない。次は横から撫でるように二連撃。斜めの角度から斬撃を放って受け流そうとしたが、間に合わず身を屈めて後ろに跳躍した。


 少しずつ。少しずつ追い詰められていく。もう剣速も俺を上回っている。なのに魔王は慎重そのもので、俺を攻めに転じさせないように注意を払いつつ、宣言通り確実に俺を追い込んでいる。この攻防は時間にしてたった数十秒しかなかったが、とても長い時間に感じられた。


 その果てに俺は遂に致命的な隙を見せてしまった。無理に反撃しようとした剣を振りかぶったら、下から魔剣を振り上げて剣をかち上げられてしまったのだ。胴体が完全に空いている。避ける暇もない。


「これが本当の『チェックメイト』だ。即死させてじっくり楽しむとしよう」


 魔剣の切っ先を俺の左胸に向け、鋭い刺突が襲いかかる。魔剣は俺の心臓を貫き、その命を絶つはずだった。


「……なに?」


 疑問符を浮かべて首を傾げた魔王に袈裟斬りを浴びせ、深手を負わせた。これほど深ければ魔王も即座に治癒できまい。俺自身も意味が分からないまま、いったん体勢を立て直すために剣の間合いの外へと逃げる。そこにクレアたちが駆けつけた。


「ルクス! 大丈夫なの!? 心臓に剣が刺さったように見えたけど……!」

「あ……ああ……俺も死んだかと思った。でも剣が何かに当たってちゃんと刺さらなかったみたいで……」


 クレアの疑問に答えながら、左胸を触ると、硬質な感触。取り出したらその正体が分かった。魔剣を受け止めたのは懐中時計だ。これは俺が昔にオフィーリア姫からもらった大切なもの。今や形見と言っていいだろう。さっき剣を受け止めたことで壊れてしまっているが。


「……馬鹿な。そんな。そんなちっぽけなもので私の魔剣を受け止められるはずがない。防御魔法でも使ったんだろう?」

「いや……ピンポイントで攻撃を防ぐなんて高度な魔法、使えないよ。懐中時計が防いでくれたんだ」

「常識で考えろ……! 普通なら心臓ごと貫いているはずだ! ありえん!!」


 いつも無表情で平静を保っている魔王が、めずらしく声を荒げた。確かに普通ならあり得ないことだ。どんな現象が働いたのかまったく説明がつかない。ならばこれは奇跡が起きたと言うしかない。きっとオフィーリアが奇跡を起こして守ってくれたんだ。


「奇跡のおかげで命を拾った。仲間も揃った。これからは反撃の時間だ、魔王!」

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