Morning Glory?
人生ってヤツはいつも唐突だ。予定をたてたとしても予定をたてる日は唐突にやってくる。
人それぞれに目標ってやつはあるだろう。
あと500グラムのダイエットだったり、センター試験だったり50メートル走のコンマ1秒だったり、昨日の自分が出来なかったことを超える為の肥やしって奴だ。
そんな思いを、何かをなそうと思った日から突拍子も無く人の胸を焦燥という炎の舌でチロチロと急かしてくることもある。
どれだけ真剣になれるかなんだろうがな。
そう唐突なんだ、特に“出会い“とかな。
ヤマダマサシの手記より
佐賀に入ると途端にゾンビが少なくなる、というか前後左右畑しかない状態だ。
「このバイク、ブレーキの調子も悪く無いしエンジンのフケも良くてトルクもある。
かなり良いな」
とりあえずバイクの給油と休憩をしたいところだが、神崎や佐賀市内ならわかるが土地勘が全くない。
しばらくバイクを走らせているとガソリンスタンドを発見した。
周りは畑ばかりで近くにゾンビはいないようだ。
「ちょっと休憩出来そうだな、先にバイクに給油してしまおう」
レギュラーガソリンを満タンまで入れてしまう。
小さな休憩所を覗き安全を確認して中へ入るとトイレから物音がした。
「一体か・・・」
手早く荷物を下ろしランタンハンガーを構え、ゆっくりトイレに近づくと磨り硝子のドア越しにフラフラと揺れる姿が見えた。
ゆっくり下がり腰の高さにパラコードを結びつけ予防線を張り、予防線の外からドアを開け放つ。
「ぁぁう゛ぁぁう゛ぁぁあっ あっ」
声にならない呻き声をあげてゾンビがこちらに寄ってくる。
紺色の帽子に揃いの上下、60代くらいの男性ゾンビで外傷は見られない。
「最初期のゾンビさんか」
予防線に引っかかり動きが止まったところにランタンハンガーを突き入れる。
ランタンハンガーはねらい違わず彼の眼下に潜り込み目玉を軽い音とともに潰し奥にある脳をグチャグチャに掻き回す。
「ぉぉおおんぉぉおおひぃぃ」
肩や首を反り返らせてビクビクと痙攣させて彼は動かなくなった。
ランタンハンガーを抜くと赤黒い液体を眼下から垂れ落としながらパラコードにもたれかかる。
ランタンハンガーにこびりついた肉片などを彼の服で拭い、パラコードをほどいて彼を床に転がすと引き摺って外の倉庫に運び入れる。
「お?ガソリンの携行缶がある」
鮮やかな赤色の携行缶を見つけた。
満タンまで給油してバイクに括り付ける。
中を見て回ると中の事務所になっている場所は鍵もかかるので荷物を運び入れ、置いてあったストーブを使い暖を取りつつお湯を沸かす。
ガソリンスタンドに置いてあったインスタントラーメンを拝借して昼食を済ませる。
壁に佐賀県の地図があったので確認する。
「ここはギリギリ吉野ヶ里なのか、もう少し動くと人口の多そうな地域にぶつかるな・・・」
「いっそ北上して34号線から東に行けば自衛隊駐屯地があるな目達原駐屯地か」
ゾンビを避けながらそこまで行けば避難出来るかもしれない。
ラジオを出してしばらく弄るが昨夜のテレビと同じ避難誘導を繰り返し放送している。
今が午前11時か1時間仮眠して動き出そう。
ドアの鍵を確認し、椅子に深く腰掛けもう一つ椅子を出して足を伸ばしてランタンハンガーを抱えて目をつぶる。
一時間後アラームで目を覚ます。
ストーブの目盛りが減り時間の経過を教えてくれるが特に異常は無い。
もう一度地図を見て場所を確認しポケットに突っ込む。
コンパスで方位を確認しながらバイクのエンジンをかけ走り出す。
北上しだすとゾンビが少しずつ増え始める34号線も事故車両で道が塞がっている場所があり、バイクじゃないと進めないような状態だった。
30分ほどバイクを走らせるとフェンスに囲まれた目達原駐屯地が見えてきた。
駐屯地の前に自衛官が一人座り込んでいる。
「やぁこんにちは」
「こんにちは自衛隊の方ですか?」
「そうだね、ここの自衛官だったアベフトシ一等陸尉だ」
そういって彼ははじめましてと続けた。
「避難にきたのかな?もしそうだったら悪いんだけど、この駐屯地はもうダメみたいだ。」
みて見るとフェンスの向こう側の遠い位置ではフラフラと何体かのゾンビさんが徘徊をしている。
駐屯地の中は所々、焼け焦げ戦闘があったことがうかがえる。
「もしまだ避難する余力が残っているなら長崎の佐世保に行くと良いよ」
「佐世保ですか?」
「うん、あそこは米軍さんもいるから、昨夜の佐世保との連絡でもハウステンボスの水路とフェンスを利用して避難所を作ったらしい」
「ハウステンボスにっ!?」
「民間人をハウステンボスのホテルなんかに避難させ。
軍は海から配給をしながら一斉避難の準備を進めているらしいよ」
そう彼は言いながら苦しそうに咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
たまらずそう尋ねると彼は顔の前で手をふった。
「全然大丈夫じゃない、そろそろ限界みたいだ」
そう言いながら彼は胸元からドッグタグを2つ取り出して一つを僕に手渡した。
「それを佐世保にいる“チバユウスケ“ってやつに届けて貰えないかな?
また一緒に酒飲みたいな先に行って待ってるから、そう伝えてほしい」
「・・・分かりました」
そういってタグを受け取り大事に胸ポケットに入れた。
彼の下には血が滲みはじめていて、どこかに大きな外傷がある事は明白だった。
「ありがとう」
彼はそう言って微笑むとドッグタグを咥え、自分の頭に銃口を押し当てて微笑み、乾いた銃声とともに旅立った。






