Four Sticks
慌てて厚手のカーゴパンツに履き替え出来るだけ堅い素材の上着を羽織りザックを背負い靴を履き装備を調え準備する。
右の腰にはナタをザック左のベルトにいつでも取り出せるようにランタンハンガーを固定する。
後頭部を合皮で覆った半ヘルにプロテクター入りの皮手袋を装着した。
現在の時刻は午前4過ぎ、エアコンも停めて寝ていたため室内でも息が白い。
急いで二階まで降りるが、まだゾンビの集団はここまで辿り着いていないようだ。
急いで鍵を差し込みセルでエンジンをかける。
すぐに郵政バイクのような気の抜けたエンジン音が鳴り始め一定の鼓動を打ち始める。
遠くから声とも音ともつかない鳴き声が聞こえ始める。
「ぁぁぁあ゛ぁう゛ぁぁぁ」
「きひぃぃぃしゃぁぁ」
「あっ あっ あっぁぁぁ」
スタンドを足で戻し素早く一速にいれ右手をひねりCB223は走り出す。
駐輪場を飛び出して北に進路を取る。
「宮の陣まで出ると多分ゾンビが多すぎる土手沿いを佐賀方面に逃げるか」
そう呟きながら事故車両を避けながら道を進む。
ゾンビは走っても人が走る程の速度しか出ないようで、集団にあたるか捕まりさえしなければ今のところ問題なく進めている。
橋を超えて筑後川を渡り土手沿いを西に進むと左手に久留米の街が見えてくる。
想像以上に荒廃し見えるところいたるところに事故車両が見えている。
久留米の小さめなショッピングモール周りはゾンビであふれ休日にごった返した人がそのまま周りを徘徊しているように見える。
さらに進んで行くと宮の陣駅周辺を通る。
駅周りにゾンビの集団がいてこちらに駆け寄って来ようとしているのを尻目に三号線方向にバイクをとばす。
三号線に差し掛かり左手の久留米の街並み中心地では至る所に火の手が上がりトラックで塞がれた橋の向こうではフラフラとゾンビが徘徊している様子が見えた。
少し寄り道をし三号線を北にバイクを進ませるとマルボシが見えた24時間営業のラーメン屋、店内にはゾンビがフラフラと立ち並びまるで昼飯時のマルボシのようだ。
涙が滲む、戦後のバラック時代から続く名店で久留米に住むほとんどの世代は産まれたらマルボシはすでに“あった“世代ばかりだ,オレもその例に漏れない。
小学校高学年や中学時代、友達の家に泊まりに行く、すると深夜二時頃になれば友達のお父さんが「お前らマルボシいくぞ!」なんて言って、ラーメン食いに連れて行ってくれたりしたもんだ。
そんな店からゾンビがこちらに駆け寄ってこようとする。
「うぉぉぉ久留米ラーメンは不滅だぁぁ」
マルボシ横の路地に入り進みT字路を左に曲がり土手沿いに戻る。
大学病院の高いビルや市役所にタイヤ工場などが見えるが赤く燃える火の手が見え川向こうにはちらほらとゾンビが見えている。
「くっヒロセもダメか・・・」
そのままバイクを走らせ長門石を超えて、みやきの方へ進み佐賀へと入った。
「くそっもうクイメンヤしかのこってないのか・・・」
豚骨ラーメンが彼の全てであり原動力である。